第2話 アルメス王国中央区

「ここが中央か」


 俺は呟き、大きく口を開けた。

 少し歩くと人と出会う。しかし町とはことなり武装していない。

 見える風景がガラッと変わったことに驚き年甲斐としがいもなくドキドキしてしまった。


 少し恥ずかしいと思いながらも募集要項ようこうに書いてある地図を見た。

 まだ先なようだ。

 しかしどうやらりょうがあるみたい。ならば宿をとる必要はないだろう。


 目的地である王城を目指して、少し歩く。

 先に進みながらこの区の事について確認した。


 ここはダンジョン都市国家の中央と呼ばれる場所で正確には『中央区』と呼ばれる場所だ。

 他の国には『町』としてわけられているらしいけれど、この国では『区』である。

 俺は村から出て来たから理由はよくわからない。

 しかし『区』と『区』の距離は他の国の町同士の距離よりもはるかに短いらしい。そんなことを他国から来た冒険者が言っていた。


 まぁ国全体を通して他の国の大都市一つ分の領土しかないからな。

 そこら辺が関係しているのかもしれない。


 そうおもいながらも進んでいると一つの大きな城が見えた。


「でか」


 素材は多分煉瓦レンガだと思う。少なくても木ではない。

 全体的に白いが何か塗られているのだろうか? だが汚れは見えない。もしかしたら保護魔法か何かをかけているのかもしれないな。

 

「貴様何用だ! 」


 ぼーっと見上げていると声が聞こえた。

 おっといけない。これでは完全に不審ふしん人物だ。


 目線を戻すとそこには銀色の甲冑かっちゅうを着た門番が二人いた。こちらに向かって槍を向けている。

 夢中になり過ぎたようだ。これに気付かないとは。

 何か誤解をされたらいかないので説明を。

 俺を見上げる彼を見下ろしながらリュックサックを探り、チラシを渡した。


「この求人を見て来たんですけど」

「求人? 」


 門番は顔を見合わせ「動くなよ」と言う。

 一人がチラシを俺から受け取りまじまじと見ていた。

 すると急に体を震わせながら、再度俺を見上げて来た。


「ほ、本気なのか?! この求人を受けるとは」

「あ、いや受けるというか、もう受かっているらしい……です」

「なん……だ、と」


 そう言いながらたじろぐ二人。

 え、何。もしかしてコネを使って入ったのがまずかったのか?

 いや普通に考えればまずいだろう。

 まずい。コネで入ったと知れ渡っていたらさらに不味い。

 俺が一人冷や汗を流していると二人から意外な言葉が放たれた。


「よく……。よく受けてくれた! 」

「……え? 」

貴君きくんのおかげで無駄な犠牲ぎせいはでなくなるだろう」

「体はデカいし、硬そうだ。貴君ならこの先やっていける」


 そんなに軍に入るのがおかしいのだろうか。職の無い人は冒険者か軍に入るものだと思うが。

 それに犠牲って何!

 採用に体の大きさやスキルが関係するのか? いや考えてみれば大きな体やスキルはメリットとなる。俺の体は普通の人を見下ろせるくらいには大きいからな。

 だけれども硬そうなのは関係あるのか?

 俺は『硬化』のスキル持ちだが……、やはり何かおかしい。


「我々ダンジョン都市国家が一つ『アルメス王国』国軍は貴君を歓迎かんげいする」

「グッドラック」


 そう言う門番に、非常に丁寧ていねいに部隊兵舎へいしゃへと案内してくれた。

 一体何が待っているのだろうか。


 ★


 王城の中を行き訓練場に出る。多くの騎士や魔法使いが訓練するのを横目で見ながら先に進む。

 すごいな。流石国の軍だ。

 軽く放っている魔法一つ一つが上級魔法。

 そう思うと単なる『硬化』や『範囲防御』しか使えない俺が軍に馴染なじめるのか心配になって来た。

 じ込んだとは言っていたがその後に解雇されるかもしれない。


 少し不安に思いながらも訓練場を回り込む。王城とは反対側に着くと門番が一言「ここだ」と言った。


綺麗きれいな建物だ……ですね」

「ああ。独立ダンジョン攻略部隊新設しんせつに当たって新しく作られたからな」


 それを聞き再度建物を見上げる。

 王城とはまた違う、茶色い建物だ。しかしこれも木製ではない。

 部隊新設と共に作られた建物か。

 国がどれだけこの部隊に力を入れているのかがよくわかる。


「何故こんなにも優遇ゆうぐうされているのですか? 」

「それは君の上官に聞いてくれ」


 知っているが言えない、と言うことか。


「じゃ、生きて帰れよ」

「……え? 」


 その一言に唖然あぜんとしながらも、このままではいけないと思い建物の中に入った。


 新築と言うこともあって中は綺麗だ。

 トテトテと中を歩く。

 すると受付のようなところに着いた。


「……どちら様でしょうか? 」

「求人を見てきたのですが」


 俺がそう言うと受付の女性は大きく目を開いた。

 するとダン!!! と机を叩いて身を乗り出してくる。


「それは本当の話ですか? 嘘じゃありませんか? 」

「え、えぇ。これを見てきたのですが」


 さっきと同じようにチラシを見せる。

 受け取った彼女はまじまじとそれを見て「ありえない。しかも男性が」と呟いている。

 いや本当に何なんだ?

 俺が疑問に思っていると彼女は俺を見上げて軽く咳払いした。


「先ほどは失礼しました。ご存じだとは思いますが、貴方あなたの配属は独立ダンジョン攻略部隊カエサル隊となります」


 え? そうなの?


「これから隊長である『クラウディア・カエサル』隊長のもとへご案内します」


 そう言い彼女は物怖ものおせずに俺を誘導した。

 中は綺麗そのものだ。められているのは絨毯じゅうたんではないが、綺麗な布。

 正直俺の汚れた靴で歩くことが気が引ける。

 そんな俺の気も知らず彼女は進む。

 そして上に【カエサル隊作戦会議室】と書かれた部屋の前で止まった。


「少々お待ちください」


 そう言い彼女は茶色い扉をノックする。

 き、緊張してきた。

 今まで気にならなかったが中央区に来たのも初めて。そして今は王城。

 これらがあいまって更に緊張がこみ上げてくる。


「どうぞ。ご武運を」


 受付の人が扉を開ける。

 体をギシギシと動かしながら中に入る。

 バタン、と後ろで扉が閉まる音がした。


 どうやら隊長は椅子に座っているようだ。黒い肘掛け椅子が後ろを向いている。

 気難しい人なのだろうか。ここに来るまでかなり不穏なことを言われた気がする。

 しかし何を言われたか忘れた!

 緊張で頭がおかしくなりそうだ!


 額から汗が、流れてくる。

 そしてキィーっと音を鳴らしてひじ掛け椅子がこちらを向いた。


「君がアダマ君だね。非常に食べがいがありそうな男だ」

「綺麗だ……」


 思わず言葉が漏れてしまった。

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