第59話



「うぉぉぉっっんんんっ!!」



 アンとギルバートの結婚式当日。



 アンの父トーマスは男泣きに泣いていた。トーマスの隣でアンの母スーザンが呆れたように背中を擦っている。



「しっかりしてくださいよ。お父さんだって結婚を認めていたじゃないですか。」



「ううっ……。」



 結婚前の挨拶では、アンもギルバートもスーザンが出していた結婚の条件『お互いを愛すること』を何も言わずともクリアしていることは一目瞭然だった。アンとギルバートが結婚させてほしいと頭を下げると、スーザンは快諾してくれたがトーマスは頷かなかった。聖女であり、侯爵家のギルバートの婚約者であるアンだが、トーマスにとっては可愛い可愛い娘なだけだ。それを奪おうとするギルバートを簡単には認めなかった。



 ギルバートは諦めることなく粘り強く、何度もトーマスに会いに行った。結局トーマスが渋々折れ、結婚を認められたのだった。



「アンの晴れ姿なんですよ。しっかり見守ってあげてくださいな。」



「……っ、ああ。」



 そんな会話をしていると新郎新婦の入場を知らせる音楽の演奏が始まった。列席者の全員が入口に注目すると、美しく眩いドレスを身に纏ったアンと、アンをエスコートするギルバートの姿が現れた。




「アン……っ!」



 トーマスが感極まってまた涙を流し始める。スーザンもまた胸がいっぱいになり目に涙を潤ませた。




「アン様!きれい!」



「ああ。」



 目を輝かせるのはレイだ。アンに贈られたドレスを着こなしており、父親のデニスも感慨深げに笑っている。




「……っ、ギルバートさん。」



 小声で囁くアンにギルバートは耳を傾けた。



「今更ですけど、すごい人ばかりで……。」



 アンが圧倒されるのも無理はない。ルイス第一王子もサイモン第二王子も厳かに腰掛けている。神官長のグレッグは優しく微笑み、魔術協会長のロナルドは少し不貞腐れように眉間に皺を寄せている。



 アンが懐いているセレナは輝く笑顔で二人を見守り、隣にいるジェフリーは”先輩、良かったですね”と視線を送る。



「アン。周りは見なくて良い。」



「で、でも……。」



「俺だけを見て。」



「うっ……。」




 プロポーズ後のギルバートの溺愛が続いている。甘い言葉にアンはいつも翻弄されている。




「……私ばかり、望みを叶えてもらってばかりで。」



「そんなことはない。」


 少し申し訳なさそうに眉を寄せるアンへ、ギルバートは微笑んだ。鬼の監察官の微笑みに列席者は騒然とした。




「俺の望みは、アンそのものなのだから。」



 少しだけパン作りの得意だった家族思いの少女は、聖女の力を授けられたことで愛する人と出会い、愛を育み、国をも動かす桁違いの聖女となった。





<堅物監察官は、転生聖女に振り回される。:完>



 最後までお読みいただきありがとうございました!後半、更新が止まってしまい申し訳ありません。それでもお読みいただき嬉しかったです。ありがとうございました!



 魔術協会長ロナルドのお話『お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。』を本日公開しております。ショートショートです。アンとギルバートも出て来ますので、よろしければぜひお楽しみください!

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堅物監察官は、転生聖女に振り回される。 たまこ @tamako25

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