第33話





(すごい一日だったなぁ。)



 帰りの馬車の中、アンは一日を思い返す。


 あの後、戻ってきたギルバートとダンスを踊ることも出来た。緊張でガチガチだったアンを優しくエスコートしてくれたギルバートは、誰よりも素敵だと思った。



 その後も、ライトアップされた中庭を一緒に見たり、スイーツを食べたりして、楽しい時間を過ごした。アンのことを気遣ったギルバートが、早めに戻ろうと提案してくれ、有り難く馬車に乗った。




 そして、今日はこのままギルバートの家にお泊まりの予定である。勿論、部屋は別々だが。ドレスを脱ぐことも、メイクを落とすことも侍女の力を借りないと出来ないし、それを済ませるとかなり遅い時間になるということでそのまま客室に泊まることになった。



 アンの両親に、お泊まりの許可を取るときもギルバートはきちんと説明に来てくれた。トーマスは渋い顔をしていたが、スーザンが「婚約者なんだから可笑しいことじゃないでしょ!」と一蹴し、許可を貰えた。





(お泊まり、楽しみだったんだけど・・・。)




 今、アンの気掛かりは二つ。




 一つは、先程のセレナとの話からギルバートを意識してしまい、行き以上に緊張してしまっていること。




 そして、もう一つ。




(何か、様子が違うような・・・。)




 ギルバートは、常に優しくエスコートしてくれたし、アンを気遣ってくれた。


 だが、心ここに在らずというか、物思いに耽っているというか。




 ルイスが、ギルバートを連れてアンと離れた後から様子が可笑しいような気がした。アンは、お泊まりの楽しみやドキドキより、心配でいっぱいになってしまった。





◇◇◇






「なぜ、こんなことを・・・!」




 帰宅するなり、ギルバートは声を荒げた。そんなギルバートを見て、オロオロするのはアンだけで、使用人達は気にしていない様子だ。





「アンの部屋は、客室にするよう伝えた筈だが。」



 冷たい眼差しで使用人を見据えるギルバートだが、使用人達はやはり気にしていない。





「ギルバート様。アン様はもうすぐこちらに来られるのですから、アン様のお部屋に宿泊されても問題ないと思いますが。」



 執事のスティーブンが、さらりと言った。




「ギルバートさん、私は大丈夫です!どこでだって喜んで眠りますよ!」



 アンは、ギルバートの怒りを何とか押さえようと、話に加わった。




「だが・・・。」




「ギルバートさんのお部屋のお隣なんて嬉しいです。」





 えへへ、とふわふわと笑うアンに、激怒していたギルバートは敗北してしまった。使用人達のお節介により、アンの宿泊する部屋は、夫婦の部屋、つまりギルバートの部屋の隣に、勝手にセッティングされていたのだ。






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