第18話


 ギルバートとジェフリーは、すぐアンの家に行き、婚約話を進めようとした。しかし、アンはそれを慌てて止めた。




「家に行く前に、これだけは食べて下さい!長いこと頑張って、やっと完成して、漸くギルバートさんに食べて貰えるレベルになったんです!お願いします!」




 早く婚約話を進めたいジェフリーは、アンの要望を後回しにしようと口を開いた。しかし、それより先にギルバートが腕でジェフリーを制止する仕草を取り、アンへ返事した。





「ああ。頂こう。」




 アンはにっこり笑うと、ギルバートに大事そうに包まれたチョコレートクリーム入りのコロネを差し出した。ついでに、ジェフリーには、カスタードクリーム入りを。





「見た目より甘くないので、試してみて下さい。」





 無言で食すギルバートを見つめる時間がアンは好きだ。婚約者となれば、この時間がもっと沢山持てるのだと思うとアンの頬は緩んだ。




「美味しい!こんなの食べたことないよ。パンは、フワフワもちもちしてるし、クリームもしつこくなくて食べやすいね。見た目もなんだか可愛いし、これは人気出そうだなぁ。」




 気持ちが焦っていたジェフリーも、コロネの美味しさに思わず笑みが溢れた。そして今更ながら、ギルバートがアンとの約束『パンを食べてほしい』をきちんと守ろうとしていることに気付き、心の中で反省した。








「…………食べやすい。」



 ずっと無言で食していたギルバートは、漸く口を開いた。





「ふふふ。良かったです!最初はカスタードクリームだけだったんです。だけど、ギルバートさんのように甘いものを好きじゃない方にも楽しんで欲しいと思って、チョコレートクリームも追加したんです。」




「そうか。」




「コーヒークリームもいいかなぁって、今開発中なんです!」




 ギルバートは、いつも通りの鬼の能面顔だ。全く美味しそうな顔では無い。それなのに、アンは嬉しそうにニコニコとギルバートを見つめ、コロネについて楽しそうに話し続けた。

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