BONANZA ~戦慄のギャンブルサイト・双六人生デスゲーム~
愛花
内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<自宅・ログイン>
・・・・・・プロローグ(割り込みが上手にできなかったので、第一話とプロローグを一緒にしました)
ボナンザとは、僥倖、鉱脈、富鉱帯、つまり一攫千金のことである―――
この謎のゲームはいつでもどこでも、どんな時代にも行われてきた。誰が作ったのか……妖怪の仕業か……異世界の者の仕業か……怨霊の仕業か……いまのところ不明。
この世界を制御しているのは、目に見える存在ばかりではないのだ……
・・・・・・・
とある高校にて朝のホームルームの時間となった。担任教師が教室に足を踏み入れた瞬間、騒がしかった教室は静かになり、教壇に立った教師に生徒ら全員が顔を向けた。
教師は空席を見てから、全員に言った。
「みんなが知ってのとおり、あいつは無断欠席する子じゃない。ご両親に連絡をしてみたんだが、三日前から様子がおかしい、と言っていた。
そんなわけで、みんなに訊きたい。あいつから連絡をもらったり、相談されたとか、なんでもいいから、そういうことなかった?」
ひとりの生徒が言った。
「クラスメイト全員でLINEしてみたんですけど、返信がなかった。こんなこと初めてだよ」
教師は深刻な表情を浮かべた。
「そうか……」
そのとき、ドアが勢いよく開き、無精髭を生やしたスウェット姿の少年が教室に足を踏み入れた。血相変えた少年が手にしているのはスマートフォンのみ。制服すら着ておらず、鞄もない。
教師はいましがた心配していた生徒の姿に驚いた。
「おまえ、いったいどうしたんだ……」
必死の表情の少年は、教師にしがみついた。
「おれ、正直に言って先生のこと好きじゃなかった! でも、殺したいだなんて思ったことなかったよ! だけど、先生のことを殺さないと、あいつらみたいに消されちゃうから!」
教師は顔を強張らせた。
「あいつら? 誰のことを言ってるんだ?」
「クラスメイトだったじゃないか!」と言ってから、生徒らに大声を張り上げた。「お前らだってあいつらと仲良しだったじゃん! どうして何も覚えてないんだよ!」
教師は宥めようとした。
「とりあえず、落ち着こう」
「落ち着いていられるか!」と大声を張り上げた少年は、スマートフォンの画面を見て、顔面蒼白になった。「うそだ……ゴールした。三着が決定した。オレは四着だ」今度は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。「オレはあいつらみたいに消される!」
スマートフォンの画面に『ゲームオーバー、人生を頂きます』と文章が表示された瞬間、少年の体はジグソーパズルのように砕け散り、黒い灰となって宙に舞った。
少年が消えるのと同時に、スマートフォンも空席だった彼の席も、彼個人の存在はすべてこの世から消えた。
教師は首を傾げた。
「あれ……オレいま何してたんだ?」
生徒が冗談を言った。
「歳なんじゃないんですか?」
「うるさいよ。オレはまだまだ大丈夫。さあ、ホームルームの続きをしよう」
いましがたここにいた少年の存在はどこかへ消えた。そしていつもどおりのホームルームが始まった。
・・・・・・・・・第一話・内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<自宅・ログイン>
田舎町にある栄華(えいが)高校に通う優秀な生徒 内田真人(うちだ・まさと)(17歳)は、母親の美由紀(みゆき)とソファーに座り、来年の大学受験について真摯な面持ちで話し合っていた。
「奨学金はオレが大学卒業して社会人になったらしっかり払うよ」
「家にお金があったら、苦労しなくていいのに……ごめんね、真人」
「何言ってんだよ、クラスにも母子家庭で同じ境遇のヤツいるしさ、オレひとりじゃないって。ポジティブにいこうぜ」
「真人……」
真人が二歳の頃に父親は失踪した。あまりにも幼かったために、父親の記憶は全くないのだが、ギャンブル依存症で借金ばかり作る父親と離婚が成立した。その後、約束した慰謝料すらなかったので、それについて話し合っていたとき、突然、姿を消した。その後、失踪届を出したが、未だ行方はわからず。
美由紀は近くのスーパーでレジ打ちの仕事をして真人を養ってきた。貧しくても笑顔だけは絶やさずになんとか生活してきたが、来年は獣医師の夢を持つ真人の受験を控えている。お金を工面したいところだが、奨学金に頼るしかなさそうだ。
「奨学金を返す時には私も手伝うわ」
「その頃オレは無事、獣医師になってるよ。安心して」
息子の言葉に目頭が熱くなった。
(女手一つで育てて、父親がいない分、苦労させてしまったのに、本当に優しい子に育ってくれた。私の宝物だわ)
ソファから腰を上げた台所へと向かった美由紀は、エプロンをつけ、調理台に立った。
「今夜のご飯は真人が大好きなミートボールカレーよ」
「やった! それ好物だよ」
「知ってる。いっぱい作るからたくさん食べなさい」
「うん。あ、そうだ。今日は夜遅くまで勉強するから、コンビニで夜食を買ってくる」
真人がソファから腰を上げると、台所に立つ美由紀は「ついでに牛乳買ってきて」とお使いを頼んだ。
「いいよ」
玄関を出た真人はアパートの通路に立ち、自宅部屋202号室の隣室203号室に目をやった。
先週まで住んでたカップルが出ていったので静かになった。喧嘩の声も激しいが、その後の仲直りのセックスの喘ぎ声も半端ではなかったため、まったく勉強に集中できなかった。
(静かな環境って最高)
階段を降りた真人は、壁に設置されたポストを横切って、アスファルトに降り立った。
夕焼けに染まった鰯雲が広がる空を見上げた。
(明日はいい秋晴れになりそうだな)
歩道を歩いて横断し、アパートメントの向かい側に建つコンビニへ向かった。住んでいるアパートメントは学校も近く、コンビニも近い。壁も薄く、築年数も古いが、立地条件だけは良い。
コンビニに入ると、いつもの男性店員が無愛想な挨拶をしてきた。
「いらっしゃいませぇ」この言葉は接客業の決まりだ。とりあえず、ルールに従う。「こんにちは」
真人は買い物かごを取り、店内を歩く。
(愛想悪い……)
店員は挨拶を済ませたあと、同僚の女性店員と雑談を始めた。
「仕事終わったらごはん食べに行こうよ」
「ええ~彼女いるくせに~」
「いいじゃん、黙ってればバレないしさ~」
真人は店員を一瞥した。
(安い賃金で真面目に働くのが馬鹿らしいのかもしれないけど、気分悪いよなぁ。店長が店頭にいる時だけ真面目ぶって、マジでチクるぞ。
そう言えば店長の名前なんだっけな? ああ、そうそう竹ノ内智也(たけのうち・ともや)さんだ。メタボなおっさんだけど気さくで明るくて優しい人。モテる事ばっか考えてそうなあの店員も見習えよな)
真人は飲料コーナーに進み、美由紀に頼まれた牛乳と大好きなイチゴオレを買い物かごに入れた。陳列棚からポテトチップスを取り、要冷蔵コーナーに向かい、夜食のサンドイッチを手に取った。
レジカウンターに買い物かごを置くと、男性店員がやってきた。
「いらっしゃいませぇ」
「…………」
(超めんどくさそう……お客がいなきゃ店潰れるじゃんよ……)
名前は気にしたことはなかったが、初めてネームを見てみた。
佐久間和樹(さくま・かずき)。
(たぶん二十歳くらい。こんな二十歳にはなりたくない)
商品の合計を言う。
「2030円になります」
「え?」
(そんなに買ってないし)
女性店員が和樹を肘で突き、レジに表示された商品を指す。
頭を傾げた和樹だが、すぐに自分のミスに気づく。
「やばい、またやっちゃった。同じ商品を三つスキャンしていた」
女性店員が注意する。
「気をつけてよ。店長にまた怒られるよ」
ミスを誤魔化す為にニタニタと笑いながら「すいません」と、真人に頭を下げてきた。
「はい……」
(レジくらいちゃんと打てよ)
和樹が買い物袋に商品を入れてると、バックヤードがある社員通用口から、お菓子の段ボール箱を手にした店長の竹ノ内が店内に入ってきた。
真人を見て満面の笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ! こんにちは、真人君」
「あ、こんにちは、店長」
いつも不思議に思うことがある。このコンビニは自宅から近いので頻繁に利用するが、店長に自分の名前を教えたことはない。なぜ、名前を知っているのだろうか……
「あしたはいい天気になるね。凄く綺麗な夕焼けだよ」
「はい」
レジカウンターに置かれた買い物袋を手に持ち、自動ドアに向かうと、竹ノ内は「いつもありがとうございます」と真人に言った。
「あ、はい」
交差点を渡って、アパートメントのポストをふと見ると、自宅の202号室のポストの蓋が半開きだった。
「あれ? 母さんが閉め忘れたのかな?」
蓋を閉めるついでに、郵便物を確認した。すると、封書が入っていた。
封書を手に取り、差出人を見てみた。
【BONANZA】
宛名
【内田真人様】
(オレ宛てだ。ボナンザってなんだっけ……たしか……)
英単語を頭に浮かべた。
(鉱脈とか、突然の幸運とか、なんだかギャンブルみたいなかんじ?)
封書をポケットに押し込んだ真人は、階段を上り、自宅玄関へと入った。リビングに足を踏み入れると、大好きなカレーの匂いが漂っていた。
「うわ!超旨そう!」
「旨そう、じゃなくて旨いのよ」
買い物袋から買ってきた商品を冷蔵庫に入れた。
「牛乳買ってきたからね」
「うん、ありがとう。もうすぐごはんだから間食しちゃダメよ」
「わかってるよ」ポテトチップスを手にした。「これは夜食のおともに」
真人は自分の部屋のドアを開け、デスクの上にポテトチップスを放り投げてベッドに転がった。ポストに入っていた封書をポケットから取り出し、開封してみた。
(どうせ捨てるつもりだけど)
封書の中に入っていたのは、文章が記載されたコピー用紙が一枚のみ。
文章に目を通す。
【内田真人様】
【ボナンザとは僥倖、鉱脈、富鉱帯、つまり一攫千金のことです。
多くの人間が望むこと、それが一攫千金です。
宝くじもギャンブルもこの世から消えることはないでしょう。なぜなら一獲千金を望む人間が絶えないからです。
内田様も喉から手が出るほどお金が欲しいはず。
興味があったら今すぐWEBにアクセス!】
【ギャンブルサイト『BONANZA』】
コピー用紙の下部にQRコードが添付されていた。
(サイトね……確かにお金が欲しいけど、宝くじ代を取る詐欺である可能性が高い。でも気になる。まあ、見るだけタダだし)
真人はスマートフォンを手にし、QRコードを読み取った。
【掛け金無料! オンラインギャンブルゲーム『BONANZA』の公式サイトへようこそ!】
ユーザー登録したギャンブラー様には、数あるリアルゲームの中から勝敗を決めて頂きます。
ゲーム内容はこちらで決めさせて頂きます。ご了承ください。
なお、本サイトに年齢制限はございませんのでご安心を。
今回の楽しいギャンブルは、3日間ノンストップで行われる『リアル人生デスゲーム』です。
(ゲームの進行具合により多少の時間差が生じる場合がございます)
【BONANZA 『リアル人生デスゲーム』のルール】
通常の人生ゲーム同様、ルーレットによる双六でございます。PC、スマートフォン、携帯電話で気軽にギャンブルが楽しめます。
1・順番が回ってきたら、画面上のルーレットを回しましょう。
2・ルーレットが示した数だけ進むことができます。(通常の双六は最大六マスですが、『リアル人生デスゲーム』では最大10マス進めます)
3・マスに止まると通常の人生ゲーム同様、指示が出てきます。
※この指示には必ず従い、実行しましょう。
※万が一、実行できなかった場合、個人的な事情でリタイアした場合は、ルール違反とみなし、ギャンブラー様の人生を頂きます。
4・1着から3着まで賞金が授与されます。
1着―――1億円
2着―――5千万円
3着―――2千5百万円
ビリ―――人生を頂きます
掛け金無料、その代わり命を賭けて頂くスリリングなアプリゲームとなっております。ギャンブルサイト『BONANZA』では、沢山のユーザ登録をお待ちしております。
【駒の説明】
ルーレットが示した数に従い人型の駒が動きます。
男―青
女―赤
画面内の双六のマスは全て白です。
マスに駒が止まった時点で色と一緒に指示が現れます。
※駒にはハンドルネーム(ギャンブラー名)が振られます。
その際、名前はこちらで決めさせて頂きます。ご了承ください。
【マスの種類】
白マスのまま変化なし―――自分の順番が巡ってくるまで待ちましょう
緑色の木―――森の中でリラクゼーション(一回休み)
ピンクのハート―――恋をしてください
黄色い円マーク―――お金を稼ぎましょう
黒い髑髏(どくろ)―――怪我をします(ロシアンルーレットが出てきますので、怪我の重度を選択してください※即死あり)
赤いナイフ―――迷わず殺してください(ロシアンルーレットあり)
流れ星―――一気に飛んじゃいましょう(ロシアンルーレットで進む数を選択してください ※最大20マス飛べます)
ピエロの顔―――笑顔の仮面の下は、微笑みか? それとも怒りか? 悲しみか? 何が起こるかわからない ※その時マスに表示された指示に従ってください
【以上がマスに表示された指示の説明です】
ユーザー登録して頂いた全国のギャンブラー様とゴールを目指して頂きます。
※簡単なルールですが、万が一ご不明な点がございましたら、気軽にご連絡ください。
【注意事項】
※途中放棄(ログアウト)、指示に従わなかった場合はルール違反となりますのでご注意ください。
※ルール違反を犯したギャンブラー様の人生を頂きます。
※3着以降のギャンブラー様は、無条件で人生を頂きます。
※指示の実行は一時間以内に行ってください。作業又は行動を終えるまで、次に控えているギャンブラー様はルーレットを回せませんので、なるべく早く指示された課題を終えるようお願いします。
※ルール違反もしくはマスに表示された指示の実行に失敗した場合、ギャンブラー様の存在自体が無になります。処刑されたギャンブラー様の存在記憶が残されるのは『リアル人生デスゲーム』にログインしたギャンブラー様のみです。いかなる状況においてもゲームで絶命した場合、あなた様が存在していたというすべてのデーターが世の中から消去されます。
※ゲーム続行不可の大怪我を負った場合もビリと見做し、人生を頂きます。
※命懸けという事をご理解頂いた上でユーザー登録してください。
ユーザー登録する覚悟ができたら一獲千金を目指し、ボナンザゲームのスタートです!
『リアル人生ゲーム』にログインしますか?
【YES】 【NO】
「なんだよ、これ……気持ち悪い……命懸けとか、殺せとか、意味わかんない」
オンラインアプリゲーム内での話だろ?
存在が無になる? 存在記憶ってなんだ?
つまり、早い話がゲームのタイトルどおり、デスゲーム系ホラー人生ゲームってことだよな。
だけど、ゲームで勝ったくらいで金が手に入るんだったら誰も苦労しない。
ちょっと問い合わせてみよう……
真人は記載されたPCアドレスに問い合わせてみた。
【件名】
質問
【本文】
実際に賞金が貰えるのでしょうか?
ゲームの中だけの話ですよね?
【END】
即返信が来た。
【件名】
ご質問ありがとうございます
【本文】
全てリアルなので賞金は授与されますよ。
ご安心ください。
掛け金無料、楽しい楽しいスリル満点の『リアル人生デスゲーム』です。
今すぐログインする。
【YES】 【NO】
「マジかよ……」
1着、1億。
2着、5千万
3着、2千5百万
たかがアプリゲームで……
奨学金を返すのは大変だ。この賞金さえあれば……
でも、胡散臭い。
でも、お金が欲しい。
でも、騙されてるかも。
でも、でも、と考えるより百聞は一見に如かず、と、いうわけで、3日間ノンストップは長すぎるが、仮眠する時間くらいあるだろう、と気軽な気持ちで【イエス】をタップした。
【ご登録ありがとうございます!】
ルールに則り、ゴールを目指して頑張ってください。では、こちらから『リアル人生デスゲーム』をダウンロードしてください。
真人は画面下部にあったダウンロードボタンをタップした。だが、ゲーム画面ではなく、真っ白な画面に文章が表示されているだけだった。
【駒が揃うまでお待ちください。揃い次第、メールにてお知らせいたします】
(人生ゲームを始めるにはユーザーの数が達していないのか。それなら仕方ないか)
そのとき、着信音が鳴った。
画面に彼女の木村直美(きむら・なおみ)の名前が表示されていた。
直美とは小学校から仲が良く高校も一緒。その後、男女の関係になったのは去年の夏休み。幼馴染同士なので互いのいいところも悪いところも理解し合えて、一緒にいて楽、それに楽しい、真人にとって最高の存在だ。
真人は通話ボタンをタップし、スマートフォンを耳に当てた。
「もしもし」
『もしもし、じつは今日、ボナンザっていうギャンブルサイトから封書が届いたの。アプリの人生ゲームで一着から三着でゴールできたら賞金が貰えちゃうの。しかも一着が……』
「知ってるよ。一着が1億、2着が5千万、3着が2千5百万だろ。ウチにも届いたもん。オレはログインしてユーザーになったよ。でも、まだ人生ゲームができるほど人数が揃ってないみたいだよ」と教えてあげた。
『えー! ログインしたの?』
「うん、したよ」
『真人がしたなら、あたしもしちゃおっと! もし、あたしが1着だったら、将来真人が動物病院を開業する時、立派な病院をプレゼントしちゃう』
「それは嬉しいけど、ちょっと胡散臭いからもらえない確率の方が高いと思うけどね」
『夢があっていいじゃん。でもさ、けっこう物騒なルールだよね。人生頂くとか。だってそれって殺しますってことでしょ? それに存在を無にするとか意味がわかんないんだけど』
「ああ、オレも同じことを思ったけど、実際にゲームをプレイしたらわかるんじゃん?」
その時、台所から夕食を知らす美由紀の声が聞こえた。
「真人、ご飯できたわよ」
カレーに反応する真人。
「ご飯できたみたい」
『真人のお母さんは料理が上手だから羨ましい。うちのお母さん苦手なんだもん』
「また今度食べに来いよ。お前が来たら旨いものたくさん作ってくれるからオレもラッキーだし」
偶に夕食を共にする事があり、食いしん坊の直美はその度におかわりする。遠慮せずにパクパク食べる直美が可愛いのか、美由紀も作りごたえがあるようで豪勢な食事になるから真人も嬉しい。
『やったぁ!いつでも行っちゃう』嬉しそうな声を上げた。『じゃあ、真人、ご飯が冷めないうちに』
「うん」
『それじゃあ、あしたね』
「おう」
食事の最中のスマートフォン弄りは禁止。真人は電話を切って、スマートフォンをベッドに置き、リビングに向かった。
大好きなミートボールカレーとバランスの良い野菜サラダが用意された二人掛けの食卓テーブルに腰を下ろした。
「さあ食べましょう」
「いただきま~す」
真人が美味しそうにカレーライスを頬張る顔を見て、笑みを浮かべた。だがその後すぐに、真面目な面持ちで話を切り出した。
「あ、あのね、真人。聞いて欲しい話があるのよ」
「ん?なに?」
「実は……」
「なんだよ。早く言えよ」
「母さん、二年前から付き合ってる人がいるの」
「はぁ!? マジ?」驚いて目を見開いた。「い、いや、まぁ……」ちょっと動揺。「母さんが好きになった人ならいいんじゃない? オレ再婚とかぜんぜん反対してないし。で、どんなヤツ?」
継父になる可能性もあるわけだから訊いてみた。
美由紀は俯きながら正直に答えた。
「向かいのコンビニの店長さん」
あまりに唐突。驚きの返事にカレーを吹き出した。
「ブッ!」
「きゃ、汚いわね!」
「マジ言ってんの!?」
「うん」
「いい人だけど、ガチでビビった」
(だからオレの名前を知っていたのか)
「でね、明日の午後3時から智也さんと二泊三日で旅行に行こうかって話になって……」
「旅行……」
「いいよ、行ってこいよ」
(なるほどね、店長がオレに話し掛けてきた理由も、機嫌がよかった理由も合致したよ。そ~ゆ~ことね)
「いいの?」
「うん。女手一つでオレを育ててくれたんだ。苦労ばかりじゃなく、そろそろ羽を伸ばしてもいいじゃない?」優しい言葉をかけた後、悪戯な笑みを浮かべて言った。「オレが大学に進学したら、母さんも独り暮らしじゃん。店長と同棲しちゃえば?」
息子に愛する彼氏の存在を認めてもらい、嬉しく思った。
「気が早いわ」
母を独りにするのは心配だったし、再婚でもしてくれれば安心だ。あの店長ならギャンブルに溺れる事もなさそうだ。
真人は食べ終えたカレー皿を美由紀に差し出した。
「おかわり!」
「はい」カレー皿を受けとった。「いっぱい食べてね」
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