第4話



「エミリー、貴女大丈夫なの?」



 所長のポーラが気遣わしげに尋ねた。エミリーの顔色の悪さを心配しているのだ。



 エミリーがアランへ、嘘の引き継ぎを告げたあの日から一週間。エミリーは無理矢理、職場に残れるような用事を作り出した。




 エミリーはポーラへ「子どもたちへ贈り物を作りたい。」と伝え、定時後も託児所の一室を借りる許可を貰った。ポーラは快く了承してくれた。



 勤務時間を終え、日が落ちる前に帰る。アランが帰ってくるのは、エミリーが帰った後だが、残業をしていることで、アランが帰ってからも家事でバタバタしていても、「疲れたから」と早めに就寝しても、不自然ではない。そんな子ども騙しな方法で、アランと過ごす時間を極力減らしていた。




 エミリーが顔色が悪いのは、身体的な疲れが原因ではない。自分で作り出した状況であるにも関わらず、アランとの時間がないことが、エミリーにとって大きなストレスとなっていた。




「エミリー、今日は帰りなさい。」



 まだ出勤したばかりだが、ポーラは厳しい声色でそう言った。



「そんな顔色の人、子ども達と遊ばせる訳にはいかないわ。」



「す、すみません。」



「環境が変わるから忙しいと思うけど、子ども達も私達も、最後まで元気な貴女に会いたいのよ。」



 ポーラに諭されるように言われ、エミリーはハッとした。大事にしていた仕事を、疎かにしていたことに漸く気付いたのだ。エミリーはポーラへ頭を下げた。



「所長、すみません。今日は帰って、明日からはしっかり働きます!」




「それがいいわ。」



 笑顔で頷いたポーラに見送られ、エミリーは身支度をして帰ろうとすると、先日喧嘩していたジャンとケニーが走り寄ってきた。




「エミリーせんせい!もうかえるの?」



「ごめんね。体調が悪くて、今日は帰るわね。」



 つい子ども達へついてしまった嘘に、エミリーはチクリと心が痛む。



「やっぱりな!せんせい、げんきなかったもん。」




「わたしたち、しんぱいしていたんだよ!」




 子ども達にも気付かれるほど、自分の様子が可笑しかったのだと、エミリーは猛省した。そんなエミリーへ、ジャンとケニーはおずおずとある物を取り出した。




「これは・・・。」



「せんせいにおみまい!ふたりでつくったんだよ!」



「きのう、こっそりつくったんだ。きづかなかっただろ?」



 粘土で作られたそれは、可愛らしい花の形をしていた。思い返すと、昨日二人は教室の隅でこそこそと遊んでいた。仲良くしているので見守っていたが、まさかこんな物を作っていたとは。エミリーの胸はじわじわと暖かくなった。




「二人ともありがとう。おみまいのおかげで、先生すぐ元気になれるわ!」



 エミリーは涙を堪え、笑顔を見せると、ジャンとケニーも満面の笑顔で頷いた。

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