『呪われた町』へのオマージュ『屍鬼』



屍鬼しき』/小野不由美・著/新潮社(1998)

新潮文庫(2002)

第52回日本推理作家協会賞長編部門候補。

上下巻1000ページ超。

登場人物150人超。


コミック版/ 作画・藤崎竜 ( 2008~2011)

漫画化の際、原作者・小野不由美から

「原作をなぞるのみにしない」という条件提示があり、

大幅なアレンジと娯楽性が追加されている。

アニメ版は、コミック版を元に制作。


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人口1300人の外場村。

外部とは1本の国道のみの繋がり。

周囲から隔離され、未だ残る土葬の習慣。

ある日、3人の村人の死体が発見される。

村で唯一の医者・尾崎は、不信感を持つが、

事件性無しと判断された。

通常の死として扱われたが、

その後も村人の死は続き、加速していく。


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作者自身が

「スティーブン・キングの『呪われた町』の

 オマージュ」と明言している作品。

作者である小野不由美、かねてより

熱烈なスティーブン・キングのファンである。


ファンタジー作品『十二国記』シリーズや

「ゴーストハント」シリーズ、

近年映画化もされた『残穢ざんえ』等

長年良質な作品を発表し続けている。



個人的に

「エンターテイメントなミステリー」の名手としての

印象が強い小野不由美。

最初に手に取ったのも『屍鬼しき』だった。



日本版『呪われた町』

一体どんな形になるのだろう。

スティーブン・キング好きとして確かめたい。

『呪われた町』のように

本書を触媒として、

その村で起こった一連の事件の「当事者」の一人に

なるのだろうか。


書店からの帰路。

事件の凶器ともなりそうな厚さの本は

期待を高めるばかり。

加わる重さを微塵も感じさせない。


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小野不由美、さすが、だ。


「オマージュ」作品は難しい。

ともすれば、原作となる作品に引きずられ

オリジナリティを維持出来なくなってしまう。



読みながら

まさしく

日本版『呪われた町』に違いないと思い。

その物語世界に没頭していた。

どこか遠い記憶の中に

『呪われた町』の匂いを感じていた。



吸血鬼となった少女の

始祖となった、であろう

「外国人」はのだ。


遠い遠いセイラムズ・ロットから

来た。



外場村の「起き上がり」たちも

訪れる。


『呪われた町』の吸血鬼たちは


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外場村は

死から隔絶された者たちの

悲哀と愛情に包まれている。


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スティーブン・キングの『呪われた町』他

どうしても日本人には馴染みのない習慣や

表現が存在する。


アメリカ人であるスティーブン・キングが持つ

「当たり前」すぎる「当たり前」の事象は

日本人にとっての「当たり前」が何一つない。

学んで理解するような事柄ではない「当たり前」

これは大きな壁となる。


映像化作品の多いスティーブン・キングだが

原作が「読み難い」のも

この辺りに起因すると思われ。


翻訳を手掛ける方の労たるや!

スティーブン・キングらしい文章を損なわず、

その上で日本人にも分かり易く。


ありがたい。


おかげでこうして

『呪われた町』を気楽に読み返すことが出来、

そして

屍鬼しき』という

壮大なオマージュにも出会える。


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オマージュ作は

かくありたい。


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京極夏彦氏の連作小説集『どすこい』

屍鬼しき』のパロディ作品『脂鬼』がある。




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『呪われた町'Salem's Lot』前日譚

『呪われた村ージェルサレムズ・ロット』

https://kakuyomu.jp/my/works/16817330655304598410/episodes/16817330655319263024

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