第10話
「カ、カレン・・・?」
戸惑いの色を滲ませ、顔を青くしたウィリアムは、カレンの目元に指を添えたまま硬直した。
「・・・・・・ウィリアム、やっぱり婚約は止めましょう。」
涙を流すカレンには、ウィリアムの表情はよく見えない。
「ウィリアムは、責任を取ろうとしてくれたんでしょう。ありがとう。」
ウィリアムからの返事は無い。
「だけど、やっぱり好きな人と結ばれてほしいわ。」
カレンの目元に優しく触れていたウィリアムの指がピクリと動いた。
「・・・・・・・・・好きな人?」
揶揄う声とも、甘く囁く声とも違う、初めて聞く、ウィリアムの低い声に、カレンの涙は余計に溢れてしまう。
「好きな人、いるでしょう。その人と結ばれないと。」
「・・・違う、そんな相手いない。」
身体の奥底から出てきたような冷たい声が怖い。
「ウィリアム、怖いのいやだ・・・・・・。」
感情がぐちゃぐちゃになって、子どものように駄々を捏ねる声が出た。どうにか落ち着いて婚約破棄の話をしたかったのに、この意地悪な男はどうしてそうさせてくれないのだろう。こんな恰好のつかない終わりなんて嫌なのに。
「・・・カレンが可笑しなこと言うからだろう。」
「な、なんで。」
「俺はずっと、カレンだけが好きなのに。」
「へ?」
ウィリアムは苦しみに満ちた表情を浮かべ、カレンを引き寄せ強く抱き締めた。
「好きだ、好きだよ。カレンのことだけ、ずっと好きだ。」
絞り出すように伝えられる言葉と、ウィリアムの熱い体温を感じ、カレンの涙はいつの間にか止まっていた。
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