ライラプスの残穢
乾杯野郎
第1話
降りしきる雨
テントに当たる雨音がリズミカルだ
「はぁ…雨だよ、もう帰りてぇよ…」
交代で戻ってきた武装した傭兵がボヤいていた
「俺の番か…雨は嫌なんだよな、早く帰って熱いシャワーの後にビールやりてぇ」
「ちげぇねぇな!」
「もう少し休みてぇけど行くわ」
傭兵が外に出た後に眠りにつこうと目をつぶった時
ドサァっ!
「なんだよ、寝ぼけてコケたかぁ?」
帰ってきたのは雨音だけ
「おーい、大丈夫かぁ?」
不審に思い外の様子を見に行こうとテントを出て左を見たら先程交代した男が倒れていた
「おい!どうした!ー本部!本部!異常…」
首元で冷たい感触の物が左から右へ抜け何が起きた脳が判断する前に首から大量に出血し男は倒れた
そこには黒ずくめの女が立っていた…
ーーーーーーーーーーーー
飛行機から長身の男、銀髪の女、小柄で筋肉質の男の3人組が降りてきた
「やっぱり日本は熱いねぇ!あー嫌だ嫌だ」
長身でサングラスを掛けた男が文句をたらたらだ
「僕の好きなアイスとビールとビキニはぁ?」
男の名前は総合商社「ピースカンパニー」代表 松田啓介
総合商社と謳っているが実際は武器、弾薬、車両、はたまたヘリコプターまで頼まれればなんでも用立てる武器商人
「もう!恥ずかしいから時と場合を考えてください!久しぶりの日本だからってオタク街とか行く暇ありませんから!取引先へのメールちゃんとしてくださいね!」
横にいる銀髪の女は社長付きメイド兼護衛の名城 椿
松田の先代から仕えていて給仕、護衛、掃除、書類整理となんでもこなせる有能メイド、特に刃物を使うと鬼神の如く強い。出自は謎で先代しか知らないがその事を松田が気にしていない
「ねーーーー!車は!君は運転手でしょ〜?暑いよー僕死ぬーーー!」
ネクタイを緩ませてシャツで襟元を仰ぎながら小柄で少々筋肉質な体でジャケットを着た男に詰め寄った
「車なら用意してるから、それくらい我慢してください」
この男は運転手兼護衛 弟村 史
メイドの椿が忙しくて自分の相手をしてくれない(そもそも社長が掃除もしない)からと言う理由で雇った男
戦闘の腕は椿には及ばないが銃器の扱いは一通り可能、運転手と言うと車だけかと思いきや車、バイクは当たり前、スノーモービル、船、ヘリコプター、はたまた小型飛行機まで操縦できて語学も堪能
正直2人ともここの会社にいるのは勿体ないレベルなのだ
ピースカンパニーはこの3人で経営している、先代の頃はもっと人もいたのだが代替わりをして人が離れていったが
「僕は来る者は選び去るもの追わず」
と言い引き止めすらしなかった
「車回してくるので遊んだり他所へ行ったりしないでくださいね、置いていきますよ」
と窘め車を取りに向かった
「何これ?僕は小さい子供なの?」
「大して変わらないですよ、知恵がある分子供よりタチが悪いですから、社長は」
「あのね…僕一応君たちの雇い主って事忘れないでよ…?あ!見て!椿ちゃん!あいつ武器持ってる!」
松田が指した方向に綺麗な女性がいた、名城は警戒したが
「ありゃ立派な武器だね!F、G…Iはあるねありゃ」
この人は心底ダメだと椿は呆れた時椿のスマホに弟村から連絡が入った
ー東13番ゲートに車を回したよ、ウロウロされる前に連れてきてくださいー
「弟村さんが車用意できましたって!行きますよ!」
「えー!なんか食べようよーお腹すいた!」
問答無用で首を掴み引きずるように松田を引っ張って行った
東13番ゲートは旅行客や見送り客、出迎えの人々で溢れかえっていた
「もー!人混みきらーーーーい!」
名城は無視
「ねーーー!もう聞いてる?」
弟村が車から降りてきた
「用意できました、さっさと乗ってください、名城さん荷物くれたら積みますよ」
「弟村さんありがとう」
名城が荷物を渡してるのに松田は車に興味津々だ
「ちょっと…これ…小さくない?」
弟村が用意したのは日本産のNOTEという車、エンジンの出力で発電しそれを動力にする車だ
「てかね?そもそも君達荷物より「社長どうぞ」とか言って後ろのドア開けたりしないの?」
呆れ口調で松田が言っても
「車ぐらいご自身でお乗りくださいね」
「俺は荷物があるから」
と威厳ゼロ
「あー嫌んなってきた」
荷物も積み終わり車が出発した
ーーーーーーーーーーーーー
「ねー?お腹空いた!あ!椿ちゃん、昨日の取引の入金確認してね」
いい歳して子供のようだ
「はい社長」
名城がスマホを操作した
「確認とれました、ニューヨーク銀行口座に入金されています」
「あそこは払いがいいねぇ〜僕そういう人大好き!」
「例のホテルに向かえば良いですか?」
「うん、頼むよ、2人共ホントにありがとう」
名城はキョトンとし弟村もサングラスをずらしミラー越しに松田の顔見た
「何?何何何何?お礼も言っちゃダメなの僕は?」
名城、弟村がクスッと笑った
おそらく2人共松田のこういう所が好きなのだ
ーーーーーーーーーーーー
ホテル正面玄関に到着し車から松田が降りようとした
「社長ね?一応貴方は狙われる立場なのですから少しくらい緊張感持ってください、それにこういう所は人の出入りチェックが難しいのでくれぐれも知らない人についていかないように」
と名城に窘められた
名城が助手席から降り周囲を警戒後に後部座席のドアを開け松田を降ろした
運転席から弟村も降りベルパーソンに鍵を預け松田の後ろを警戒
そんな2人をよそに勝手に松田がロビーへ
「ちょっと!言ったそばから!」
名城が追いかけた
東京湾の埋立地は一時期ほどではないが観光名所でクラントベイホテルから見る景色はとても綺麗だ
一流とまではいかないがロビーのシャンデリア、内装、スタッフの質は一流ホテルに引けを取らない
「いらっしゃいませ、ご予約名を伺ってよろしいでしょうか?」
このクラスのホテルになるとフロントスタッフも身なり、所作が綺麗だ
松田が口を開こうとした時に名城が割って入り
「長期滞在の松田です、お世話になります」
「松田様、3名様ですね、お待ちしておりました。お部屋の希望は最上階で承っております、1638号室をお取りしてございます。お部屋までご案内させて頂きますのでお荷物等はそのままで結構ですよ」
「んーーー僕の荷物は僕が持つよ、だから大丈夫!」
「…こういう所は運んでもらうんです!」
「なんで?」
「お仕事だから!」
「んーー、じゃあ小物持ってよ!重いのは僕と弟村が持つから」
松田の提案にベルガールが困惑していた
そんなやり取りをしていると
「こら!松田!お前いつ日本に来たんだ!」
黒いシャツにカーゴパンツの場違いな男が大きな声を上げてきた
この男はアメリカ育ちのタツオ・カミサカ
「あちゃーーー!なんでこんな所にあんたがいるの?ラングレーはここに泊まれる程給料いいの?」
「俺は仕事だ」
「ラングレーの仕事?こんないいホテルで仕事できるっていいねぇ、さすがは公務員、僕みたいな民間人はとてもとても…」
「ふざけるなよ…てめぇがゲーム感覚にあっちこっちに物を売るからこっちは大迷惑してんだ!」
「ゲーム感覚って…君の国がキチンとパワーバランスを取ってれば良いだけの話だよ」
「…お前みたいに遊びじゃねんだ、いいか!大人しくとけよ!メイド!運転手!ちゃんとこいつを見張っとけ!」
名城がカミサカを睨んだ
「なんだよ、メイド」
「別になんでも…」
そう言うとタツオ・カミサカはロビーから出ていった
「イーーーーーーッだ!僕嫌い!アメリカ育ちのくせにいつもタバコ臭いし!」
「私も」「俺も苦手だ」
「ラングレーが日本になんの用なんだろ?暇なのかな、まぁいいや」
1638号室からの眺めは圧巻で東京湾にかかる橋を挟み対面の高層ビル郡が現実感と非現実感の丁度いいバランスを取っている
「こちらのお部屋でございます」
「うわーーー広ーーーい!ルームサービス♪ルームサービス♪」
松田ははしゃぎ過ぎ
「あ、荷物ありがと!これ…チップね、さっき日本に着いたばかりだしいつもカードだからドルでごめんね」
輪ゴムで束ねたドル札を渡した
「こんなに…?!」
ベルガールは驚いたようで凄い顔をしていた
「いーのいーの!女の子は男が渡した物を素直に受け取りなさーい!」
「それではごゆっくりおくつろぎくださいませ、御用の際はなんでもコンシェルジュにご相談ください、それでは失礼致します」
ベルガールが深々とお辞儀をして部屋を後にした。
「凄いな流石にこれは。社長、お車まだ使いますか?」
「僕これから神座…」
「弟村さん、社長は沢山やる事があるので部屋から出るなんてとてもとても。なので車の心配ありませんからお酒どうぞ、良いですよね?!社長?!」
弟村には労うように社長にはほぼ脅迫だ
「……はい…弟村君、お酒飲んでいいよ」
「あ、社長?私今日これから出てきても良いですか?」
「はぁ?僕に仕事させて椿ちゃんは遊びに行くの?!」
「せっかくの東京ですから、欲しい物もありますし行きたい所あるんですよ。ルームサービスは好きな物を頼んでも良いですから」
「やだ!僕も椿ちゃんと出かける!」
「これから取引先にメール、今回の取引のリスト確認、お金持ち相手に講釈してお金を稼ぐ社長様にお暇はございますか?」
「はい……」
項垂れた松田が答えた
「弟村さん、社長が抜け出そうにしたら死なない程度に力づくで机に縛りつけても構いませんから」
弟村は「えっいいの?」みたいな顔
直ぐにいつもの無表情に戻り
「わかった、名城さんも旅疲れあると思うからほどほどに…」
「ありがとうございます、では、社長!ちゃんと大人しく仕事してくださいね!」
「勝手にすればぁ!イーーーっだ!」
ーーーーーーーーーーーー
名城は小型のアタッシュケースを持っている反対の手でスマホを操作し電話をかけた
「もしもし、お久しぶりです。例の物の検査をお願いしたいのですが…はい…はい…連絡するなの約束を破ってすみません…でも私は貴方以上有能な方を知りません。…はい…ありがとうございます!…では」
電話を切った目はメイドの目では無かった
まるで何かを見据えるように遠くを見ていた…
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