虚構の侵略

「つまり、貴方は本当にジュラガカンのいる世界から来たと」

「ああ。人類の希望をのせたタイムマシンに乗り、まだ存在が上長する前のジュラガカンを倒した。だが、その際に私は時空の狭間に迷い込んでしまった」


 “紫尾田”は、街を壊し日本を壊滅状態に陥らせた“ジュラガカン”を倒す為に、怪獣から逃げながらも長い年月を経て造られたタイムマシンで時を超え、まだ大きく成長する前の怪獣達に対して総攻撃を仕掛けた。それにより“ジュラガカン”討伐は達成されるが、“紫尾田”はその代償の為に未来に存在することを許されず、世界から弾き出されてしまった。


 誠一に身の上を語る“紫尾田”の話は、細部こそ違ったが、誠一の知る『大怪獣ジュラガカン』の話そのものだった。

 初めは紫尾田を演じた俳優、木村薫その人かとも思ったが、改めてスマホで検索して見比べると、木村薫の顔とは明らかに別人だ。

 しかし、それにしては似ていた。程に。


 それでは、映画を観て自分は紫尾田であると勘違いした、頭のおかしなそっくりさんか?


 そうとでも捉えなければ、彼の言うことには微塵も納得できない。しかし、それを言うならば──。


「私はジュラガカンを追って来た」


 “紫尾田”は誠一にはっきりとそう言った。




 地下のことは他の人間に任せた。

 あれからしばらくして警察や救急隊も到着し、病院に誘導され始めたというのもある。

 “紫尾田”と誠一は、見つからないように地下から外に出た。

 ビルは崩れ、瓦礫は散乱している。何とか命をつなぎ、怪我をした人々が呻き声をあげている。

 しかし、先程まで咆哮していた怪獣の姿はなくなっている。あれは夢だったかのように、跡形もなく。


「ジュラガカンとは畏れそのものだよ」


 “紫尾田”は誠一にそう語った。


「君の話では、この世界はジュラガカンは映画作品として上映されている。そこから漏れ出る畏れを受け取ったジュラガカンは、この世界マルチバースに顕れたんだ」

「でも、その映画にはあなたも」

「だからこそ、だ。私の世界のジュラガカンと、この世界のジュラガカンが呼応シンクロしたのだ」


 にわかには信じられない。というか、これだけ切り取ればやはり頭のイカれた人間の戯言にしか聞こえないが、残念ながら誠一は恐怖に襲われながら、あの怪獣から逃げのびたばかりだ。


「だが、それならばそれで逆に対処のしようがある。この世界のジュラガカンが私の世界のジュラガカンと同じで、まだ畏れを溜め切っていないというならば、時を超えずとも、同じ方法で倒せる筈だ」

「同じ方法……神剣」


 映画の中では、怪獣の身を削ることのできる物質GC-01製の巨大な槍で貫かれ、倒された。それは怪獣の伝説がある島にあった石から削り出された物質を分析、量産することで造られた。


「でも無理です」

「何故だ」

「そんな伝説、ありません」


 蔵河島は実際には存在しない。映画には存在する神話も、タイムマシンは当然、GC-01も存在する筈がない。


「だって、あくまで俺達にとってそれはフィクションなんだから──」

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