第42話 アメリカ代表ジャックが来た

 俺は愛梨と模擬戦練習を終えて、休憩している。


 「だいぶ、その体に慣れたみたいだな」


 「ああ。愛梨にもう少しで一太刀入れられそうだよ」


 父と会話をする。


 昔の俺はスピードを生かした戦い方をしていた。

 そもそも、霧外流は機動力を重視した感じがあるので、仕方ないとも言える。


 体型が変わった今、それは難しい。

 だから俺は、スピードではなくパワーを重視した戦い方をしている。

 ある程度のスピードは必要だけどね。


 目先の問題は体力だろうか?

 体力が無ければ集中力も上がらない。

 リアルではまだ、『道』を見つけ出す程の集中力が出せないで居る。


 「はい、日向くん」


 「あんがと」


 愛梨から飲み物を受け取り、飲み干す。

 暑い日にやるととことん疲れる。


 「なぁ、父さん。あの人は誰?」


 「さぁ?」


 外人風の男が道場の入口でこちらを見ていた。

 気配が極限まで薄いが、あそこまでジロジロと見られていたら嫌でも気づく。

 埼玉は気づいていなかったのか、驚いたように見ていた。


 彼女は現在、母がみっちりしごいている。


 「お邪魔する」


 外人にしては礼儀正しい(偏見)動きで入って来る。

 金髪のイケメン⋯⋯金持ちそうだ。


 「今日はどう言った要件でしょうか?」


 歩き方的に素人では無い。

 父の剣道室に入りに来た感じでは無いのがすぐに分かる。

 愛梨も警戒心を高める。


 イケメンにも警戒する愛梨。この人は将来、どんな人と添い遂げるのだろうか?

 さて、俺は俺でなぜかある既視感の正体を探ろう。


 この人、どっかで見た事があるんだよな。

 筋肉を露出させているその服⋯⋯あとちょってで出て来る。

 んーと。


 「俺はジャック。アメリカ代表の探索者だ」


 「「⋯⋯ッ!」」


 なるほど、それが既視感の正体か。

 愛梨も知っているようで、驚いている。


 アメリカ代表の探索者、ジャック。超有名人じゃないか。

 探索者について調べていたら、この人の名前は出て来た。

 世界ランカー三位。


 「この道場に日陰と言う人は居るか?」


 「どうしてそのような事を聞いてくるかは存じませんが、日陰と言う人はいませんよ。近い名前で、息子の日向はいますがね」


 「ふむ。息子⋯⋯さっきの模擬戦拝見させていただいた。二人とも良い動きだった」


 なんか上から目線が鼻につくな。


 「そっちの銀髪レディーはリイアだな?」


 「さぁ? どうでしょう」


 「リアルにアバターを寄せ過ぎているぞ。動きが全く同じなら、簡単に分かる」


 まじか。あの一瞬でリイアの動きと重ねるのか。

 こいつ、素人じゃないってレベルじゃないな。

 もしかしたら、俺の正体も分かって接触して来ている可能性があるな。


 「リイアの動きに近かった。日陰は必ず、ここの剣術を使っている。今日ここに来て確信した。そっちの筋トレガールか?」


 「ウチは違う。こっちも日陰を尋ねた身だ。元々はここの剣道をしていた。そして、このように、弟子入りしているのだ」


 「ほら、茜ちゃん。もっと真剣に腕立てしなさい」


 「もっと、重りを軽く⋯⋯」


 埼玉がそろそろ死にそうである。


 ジャックは考え込む。


 「無駄足⋯⋯か」


 よかった。俺が日陰だとは微塵たりとも思ってないようだ。

 それりゃそうか。

 この体と日陰の体では戦い方を変えているのだから。


 日陰の動きを日向では出来ない。


 「ふむ。だが、見てて面白そうだ。俺と模擬戦をしないか日向よ」


 「面白そうだね。良いですよ」


 ジャック、アメリカ代表のリアルスキルを見せて貰いますよ。


 「データのスキル使用は無しですよ」


 「もちろんだ。俺の磨いた技術で相手する」


 やる気満々の俺を愛梨は止めて来た。


 「先に私がやる」


 「おいおい。俺はリアルレディーに対して武器を振るう心は無いぜ」


 「そう言う事だ。ここは俺がやる」


 父も戦ってみたいぞ、って言う雰囲気を出しているが無視だ。

 父がやったらジャックはあっさり負ける。

 相当な実力者でも、父には勝てない。


 互いに木刀を構える。


 「ジャックさんも木刀で良いんですか?」


 「問題ない。呼び捨てで構わん。歳など、戦闘では些細の事。剣を交えた相手を俺は下とは思わん」


 「そうですか」


 父の合図と共に互いに動き出す。

 俺は両手で握り、縦一文字で攻撃をする。

 反対にジャックは片手で握り、大振りの一閃を薙ぐ。


 「ぬっ。重いな。日向、女の前では手加減していたのか?」


 「してないさ。ただ、幼馴染を現実で攻撃する勇気が一歩、無かっただけ!」


 俺は強く飛ばす。

 飛ばしたと同時にバックステップをされて、そこまでのダメージはなかったと思う。


 手練だ。

 だけど、剣術だけで見たら愛梨よりも下と思われる。

 構えは何かしらの流儀ではなく、完全なる独学で作り出した我流。

 その荒さ故の暴力的な強さ、それに対応するのは至難の業だ。


 「でも、なんかおかしいんだよな」


 剣と剣の闘いなのに、剣相手に闘っている気がしない。


 「どうした? 俺相手に考え事とは悠長だな! 俺の強さは、リアルでも健在だぞ!」


 突きの構えっ!

 急いで防御に移る。


 かんっ! 強い衝撃が加わる。

 片手の突きでここまでの衝撃を出すのか。


 面白い⋯⋯とは思うけど、気持ち悪さも存在する。

 この気持ち悪さがなんなのか、俺には分からない。


 「どうした? もっと全力を出せ。本気のお前と闘ってみたい。そして、それを真っ向から倒したい。安心しろ、俺はお前がいくら真剣を使おうとも負けはしない」


 「随分な自信ですね」


 「この俺が可能だと思った事は、今までも遂行している。俺は自分自身と言う存在を正しく価値化し、評価している。謙遜、謙虚、くだらんな。我が持つ力を自信に変えて何が悪い。傲慢、強欲? 大いに結構!」


 「なるほどね」


 俺は低姿勢をとる。


 「霧外流、滑昇霧かっしょうぎり!」


 「ふんっ!」


 突きを繰り出すが、防がれる。

 そんな楽しそうに防がれると、こっちも気分が上がるじゃん。


 「速い、日向くん。そんなスピード出せたんだ」


 「そのようだな。だけど、体に与える負荷が大きい」


 ズキズキと足が痛む。だけど、今は関係ない。

 今後とも闘える相手とは限らないんだ。今、ここで、ジャックと全力で闘う。

 その価値は高いし、どんな結果だろうと、俺の糧になる。


 「ならば、俺はこうしよう」


 同じ構えをとりやがった。

 一目見ただけで、俺の構えや動きを見切ったと言うのか?

 違うな。


 あくまで大まかな見よう見まねだ。

 少しだけ姿勢が高い。

 冷静に観察すれば、ただの騙し技だと言うのは容易に分かる。


 なのに、何だこのなんとも言えない違和感と言うか恐怖は。

 まるで狼と見つめ合っているかのようだ。

 相手の思考が全く分からない。


 俺を狙っているのか、それともただ考え事をしているのか。

 その得体の分からぬ恐怖が俺の心を煽ってきやがる。


 「霧外流、滑昇霧」


 「そんなパクリで、俺は取れない!」


 「ふん。防御に徹するか!」


 威力が⋯⋯高い!

 見よう見まねの技の中に我流を混ぜてやがる。

 こんな臨機応変な対応に、一瞬でオリジナリティを加えるのか。


 これは、戦闘の天才だ。


 「使えるモノは全て使い、大切なモノを守る。それが俺のモットーだ。スラム街に住んでいるとな、野生の勘が強いんだよ」


 「野生の獣、失礼かもしれませんが、あなたにピッタリの言葉だと思いますよ」


 今を生きるのに全力を出す、野獣だ。

 それが今、俺がジャックに対して出せるたった一つの感想。


 「良く言われる」


 再び構え直し、相手の出方を伺う。

 しかし、相手の迎撃の構えをとり、譲らない。


 なら⋯⋯。


 「霧外流、蜃気楼」


 俺は静かに、気配を殺し、相手の横に移動する。

 すると、ジャックは強く、両手で木刀を握る。


 「うっらあああああ!」


 ただ純粋な力で弧を描くように、適当に振るう。

 だけど、空気を揺らす程の一撃である。


 刀を扱うやり方じゃない。

 俺の場所が分からないから、全方位を攻撃しようとする、そんな感じだ。


 「違和感があったと思ったら、いつの間に横に移動していた?」


 「違和感に迷いなく、一瞬で従う⋯⋯命のやり取りでもした事があるような、判断力ですね」


 正直、恐ろしいぞ。


 「これでも俺は器用でな。色々な訓練は受けているんだよ」


 「器用⋯⋯それは確かにその通りですね」

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