第41話 夏休み計画と新ガチャ

 「夏が近くなったね」


 「だな〜暑い。暑さ耐性のスキルが欲しい」


 「確かにそう言うスキルあったよね〜何億だっけ?」


 「データ世界オンリーなら三億、リアルでも使うなら、三十億」


 「高いね〜」


 夏休みも近く、暑い季節だ。

 先日のクラゲマンと出会った日は、ここまで暑くはなかった。


 耳をすませば、隣の剣道場で剣道の学びに励む小学生から中学生の声が聞こえる。

 暑い中、防具を着て動くとか大変だよね。


 俺は愛梨と並んでかき氷を食べる。


 「日向くんはクランを創るの? 創るなら、私は絶対に入るよ? 日向くんがクランに入るなら、私はそのクランに入る」


 「ストーカーか」


 「幼馴染よ。今はね」


 今は?

 愛梨って、俺と幼馴染止めたいのかな?


 「嫌なことしてたらごめん」


 「え、急にどうしたの?」


 クランか⋯⋯。

 考えたけど、やっぱりまずはレベル上げだろうね。


 入ったら、きっと世間から色々と言われるだろう。

 面倒だ。

 ギルマスとも相談して、入るのはまだ考えた方が良いと言われたし。

 西野さんは我関せずだった。


 創るにしても、メンバーは最低五人必要だ。

 愛梨は確定としても後四人、神楽が入ってくれるか分からないけど、入ると仮定しても三人必要だ。

 俺がクランを立ち上げたら、入りたい人は殺到するだろう。


 そして、最初はゴマをすって、こう言うようになるのだ。

 「今後とも活躍したいので、お力をお貸しください」って。

 直訳すると、モンカド貸してくれ、だ。


 そんなのは嫌に決まっている。


 「あ、12時か」


 「差し入れ行く?」


 「そうだな」


 頼まれた物を道場の方に運んで行く。

 剣道をやっている人達は休憩タイムだ。


 愛梨の登場に、中学生男子は頬を赤らめていた。

 これは人が増えそうだな。思春期男子達め。


 俺は女子に人気が出る事もなく、差し入れに感謝された。

 小学生低学年には囲まれたよ。

 潔癖症と思われる人は、愛梨の方に行ったので、きっと潔癖症じゃない。


 差し入れが終わると、俺達は家の方に戻る。

 男子達が愛梨に話しかけていたが、俺を盾に逃げてきた。

 あの目は⋯⋯敵意だな。後は侮りか。

 殺意を返すと、大人しくなった。


 大人気ない事をしたと反省している。

 昼ご飯をこちらも食べて、イベントガチャの画面をピックアップする。


 「やっぱりな」


 「ん?」


 「イベントが終わって少しの期間を設けて、次のイベント。音ゲーあるあるだ。新たなイベントガチャに成ってる」


 「え! 次は何!」


 「えーと、夏ガチャだな。水着だ」


 女や男、化け物まで幅広く揃っている。

 これは貯めてたポイントを放出する時だな。

 狙いは当然シークレットである。


 一万ポイントずつ消費されるのは辛いけどな。


 「水着⋯⋯そんなんで戦っても大丈夫かな?」


 特に配信的な問題で。

 ダンジョン配信はある程度の制限は緩いらしいけど、水着で戦うモンスターは大丈夫なのだろか?

 ま、自分で使う分なら問題ないしね。


 「うっし、引くか」


 「わ、私も引いてみたい!」


 「いけるかな? どうぞ」


 普通に押せて、ガチャが始まった。

 演出も夏イベント仕様となっているのか、海をイメージされていた。

 虹色の海とか、色々な意味で嫌だわ。


 「お、一級が出たね」


 「一級が一枚と二級が一枚、普通に当たりだな」


 一級はグラビアアイドル級のボディを持った、顔がマグロの女だった。


 「相変わらずのアンバランスだな」


 顔だけがマグロで体は女だ。

 気味が悪い。

 ある種のハズレだ。一級の中でも弱い部類。

 アンバランスは弱い部類だ。


 イラストの武器的に⋯⋯トライデントか。

 スキルもそれにちなんでおり、戦闘型だ。


 「やっぱメイドガチャは至高だったか」


 あそこまでの芸術性が高い女性達は中々居ないぞ。

 このガチャのシークレットも気になって来たな。

 もしかしたら、水着関係ないやつもいるかもしれない。


 だって、ガチャ名は『夏だよ、海だよ、モンスターガチャだよ!』だからだ。

 夏イコール水着イベントはゲームエンジョイ勢から見たら当然の常識ではある。

 でも、水着と明言はしてない。


 「⋯⋯リイアたんには黒ビキニの水着が似合うと思う!」


 「私はともかく、Vには着せないわよ!」


 ヤクザキックがボディに炸裂した。


 「⋯⋯ね、日向くん。夏休み入ったらさ、海に行かない?」


 「暑い、だるい、めんどい、日光強い、日光怖い、化学サイコー、つーわけで、連れていくなら両親にしてくれ」


 「日向くんが居ないと意味ないし⋯⋯市民プールでも良いよ?」


 「人多い、カップル多い、家族多い、子供多い、恋人多い、だるい、めんどい、水アレルギー」


 「同じ意味が聞こえたよ。最後の一言は冗談だよね?」


 俺は冷房の利いた部屋で、ゲームで水着キャラを眺めたり、操作したり、プレイするのが、夏の楽しみだって思ってる。

 なんでわざわざプールだの海だの行かないといけないんだ。

 くっそめんどくさいじゃないか。


 「それよりも俺も引こうっと」


 おら! 四級一枚!

 最低保証だやったあああああああ! 死ねぇぇええええ!


 「日向くん、スマホ投げちゃダメ! 投げちゃダメ! ここだと普通に壊れる! まだ最初の十連じゃん!」


 「無課金は最初の十連でも爆死したらその先が見えないんだよ! お先真っ暗なんだよ! 確率の神に見放されたら、オール爆死のメシウマ案件なんだよ! 台パン案件なんだよ!」


 「大丈夫だから、次は出るから!」


 俺の二十連目、合計三十連目、最低保証を見た。

 海なんて、嫌いだ! 大っ嫌いだ!


 「愛梨、引いて良いよ」


 「あ、ありがとう」


 残り、三十連。

 もう全部愛梨に引かせよう。

 その方が出る気がする。


 結果、本当に出たよ。シークレットは出なかったけどね。

 とりま、ダンジョンに行って本気でポイント集めるか。

 なんか、メイを使う度に『殺戮モード日陰』がSNSに出て来るけど、気にしない。


 ダンジョンの観光名物っぽくなりつつあるメイは探索者が見物アンド守ってくれたりもする。

 仲間じゃないので、ちょっとした事でメイは死ぬけどね。

 少しでも触れようとした人は、近くに居るメイドがフルボッコにする。


 「ん?」


 ダンジョンに向かう準備をしていたら、メッセージの着信が入る。

 相手は神楽だ。


 『データ世界の方に大型プールが建設されたそうですよ! 一緒に行きませんか!』


 「⋯⋯色々とまずくね? 俺のデータアバターは女だぞ? はっ! 更衣室に入っても怪しまれない?」


 「日向くんも男の子だね〜。プールエリアに入ったら、選択した水着に強制的に変更されるらしいよ。ポロリとかも無いし、装備破壊も無いっぽい」


 「流石は神様だな」


 「水着は見た目の選択が無限にあり、サイズもアバターに完璧に合う。能力も金を払えば与えれるから、泳げない人でも泳げちゃう⋯⋯レンタルや購入、どっちもあるっぽい」


 「ほへー神ってスゲー」


 「広さは夢の国三つ分くらいらしいよ。特別の亜空間に入るらしい。ガチめにこのプール用意したの神陣営っぽいね」


 「ユーザーじゃないのか。なんかありそうだな」


 「だね。しかも、データ世界に入れなくても、この施設は三百円で利用出来るらしい」


 異世界データアプリがあれば、三百円でどこからでも、めっちゃくちゃ広い場所で遊べるのか?

 何よりも、子供が迷子になっても危険性は無い⋯⋯場所くらいはすぐに把握出来るだろうな。

 プール以外にも色々とあるのか。


 あれ? なんかすごく楽しそう。


 「あー、これをなんで日陰状態で行かないといけないのだろうか」


 「宿命だね⋯⋯え、ちょっと、行くの?」


 「うんまぁ、神楽が誘ってくれたからね。水着とか、そこら辺の問題がないなら行くよ」


 「へ、へぇ〜随分と神楽さんに甘いですね〜」


 「ま、まぁね。神楽には色々とお世話になってるし、一緒に居て楽しいし⋯⋯あ、愛梨。さっきから怖いよ?」


 なんでそんなに殺気を出しているの?

 止めて、怖い。


 その後、愛梨も遊びに参加許可を得た。

 いつの間にか、愛梨も連絡先を交換していたようだ。

 遊びは、8月の中旬なので、当分先になる。


 ダンジョンに向かって、全力でガチャを引いて、今日は終わるのだった。




【あとがき】


19時くらいに、もう1話投稿します!

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