第39話 聖地巡礼と言う建前と家族旅行と言う本音

 「いやーまさか息子が旅行をプレゼントしてくれるとは思ってもみなかったぞ!」


 「これでも運には恵まれたからね」


 俺達は旅行をしている。

 両親は二人で楽しんで貰い、俺の方は好きに楽しませて貰う予定だ。

 両親は夜の祭りに少しだけ向かうと言っていた。

 宿とかは一緒で違う部屋となっている。


 晩御飯は一緒である。


 「さて、地域限定販売、買いに行くか」


 ほんと、その場所限定でしか購入出来ないグッズとか止めて欲しいぜ。

 こうして出向く必要があるからな。


 でも、推しへの愛さえあれば乗り越えられる!

 さーて、早速行きますか!


 「日向くん!」


 もちろん、俺達の旅行には愛梨も一緒にいる。

 きちんと愛梨の両親から許可を貰っての同行である。

 愛梨だけ置いていくのは可哀想だし、俺は普通に世話になってるからだ。


 弁当とかそこら辺は愛梨が率先して作ってくれる。


 「それで、あんな建前まで用意して、そんなに重要なの?」


 「当たり前だろ! ここは聖地だぞ! それ限定なんだからさ。売り切れる前に買わないと」


 今回はリイアたん絡みではなく、純粋なアニメだ。

 聖地を巡ったり、限定グッズを購入したり、そんな時間を過ごす。


 「別に愛梨は俺について来なくても良いんだぞ? 自分の好きなようにすれば⋯⋯」


 「私は私の意思で好きにやらせて貰ってますよ。それにさ、私一人だとナンパされたり、怪しい人に襲われちゃうかもよ?」


 「自意識過剰と言いたいが、言えないな」


 実際にそう言う場面を昔に見た事あるので、俺は何も言えなかった。

 今の愛梨なら、そんなヤツら、返り討ちにする事は可能だ。


 しかも、いざとなったらダンジョンに逃げれば良い。

 ダンジョンの中なら、愛梨はきっと負けない。

 この辺にあるかな?


 「聖地撮影のために高級カメラも買ったし、いざゆかん!」


 「撮影技術無い癖に⋯⋯権利は、買ってないのか。お義父さん達がこの事実を知ったら悲しむだろうな〜」


 「知らぬが仏」


 それから数時間、楽しんで昼ごはんの時間となる。

 適当な店に入る。


 愛梨を見た店員は男女問わず、目を見開いて注目していた。

 幼馴染ながら、その容姿にはため息すら出ない。


 そんな人の隣にいる俺は、まるで他人扱いされる。

 何度も「二名」と言っても、信じてくれなかった。

 適当な物で愛梨が攻撃しそうな勢いで激怒した時は、流石に肝が冷えた。


 これも楽しみ、SNS用に適当に撮影した。

 俺と愛梨が配信者繋がりで仲が良いと、これで決定的になるだろう。


 ま、助っ人やイベントの事で皆は確信しているけどね。

 明言した覚えは無い。

 今更、隠せるような事じゃないしね。


 「これで日陰はアニオタと言う設定も出来る訳だ。クール剣士が実はアニメ大好きのオタク⋯⋯ギャップ萌えがあるだろうか?」


 「え、狙ってるの?」


 「狙ってない」


 SNSに公開するのは、旅行が終わってからだ。

 昼食を終えたら、近くの刀剣博物館に向かう。


 「やっぱ、剣士としては真剣は見たいよね」


 偽物か本物か、質の良さとはいまいち分からない。

 でも、やっぱり興奮する気持ちになるのは、俺が剣士だからだろう。


 「男の子だからじゃない?」


 「エスパー愛梨、何も思わないのか?」


 「まぁ確かに、振るってみたくはある」


 「危険思想だな」


 それから時間となり、旅館に帰る事にする。

 晩御飯はそこで食べる予定だ。


 両親も楽しんでくれていると嬉しい。

 今度は、愛梨家族とも行ってみたいモノだ。


 どんな仕事してるんだろうか?

 ま、俺が聞ける事では無いな。


 帰り道、俺は路地裏にある店が目に入った。

 強く気持ちが引っ張られる、そのような建物だ。


 気持ち悪いさと言うか、好奇心と言うか、そう言うのが駆り立てられる。


 「ちょっと見に行っても良い?」


 「時間がやばいよ?」


 「うん。すぐ戻って来る」


 この感覚が何なのかは説明が出来ない。

 だけど、行かないとダメな気がするのだ。


 引き寄せられるように入った場所では、年配のおじいさんが一人で居座っていた。


 「いらっしゃい」


 「⋯⋯えっと、ここは」


 「見ての通り、真剣を売っているよ」


 壁に飾られる沢山の刀。

 その中で俺は、迷わず一振の刀を手に取る。

 床に立てられた刀で、鞘に収まっている。


 それを抜き取り、中身を確認する。


 「⋯⋯」


 その刀は見惚れてしまう程に黒く、鮮やかっただった。

 見ているだけで吸い込まれてしまいそうな、魅力を感じる。


 「お目が高いの。それは妖刀『白夜』じゃ。どうじゃ、買ってみるかの?」


 なんか、白夜コイツが俺を呼んでいた気がする。

 俺の厨二的な心が疼いただけかもしれんが、これは買わないとダメな気がする。


 値札があるので確認すると⋯⋯想定以上のお値段がした。


 「い、一億って、大丈夫ですか? 他の刀よりも、二段階ほど上な気がしますが?」


 「それはワシの先祖が二代かけて鍛えた刀じゃ。それだけの価値はある」


 「え、そんな家宝物を売りに出すんですか?」


 「その刀は昔から、使用者を選ぶ。使用者が亡くなったら、この場所に戻ってくる。そう言う言い伝えがあるからの。店に出しているんじゃ。ただ、先祖の魂の塊を、いくら選ばれたからと言って容易くは渡せんがな」


 「⋯⋯俺は、白夜に呼び出されたのか?」


 「あくまで言い伝えで事実かは分からん。もしそうなら、面白いの。金はなかろう。ワシが出す⋯⋯」


 俺は迷わずに一億円をデータから取り出した。

 引かれる税金が大きいけど、別に気にならない。

 なんか、コイツだけは自分の手元に置いていかないとダメな気がするのだ。


 本当に、具体的な言葉には出来ない、感情的な判断だ。

 愛梨に無駄遣いだつて怒られちゃうや。


 「うむ。家に送ろう。住所などを教えてくれ」


 「えぇ」


 それは流石に⋯⋯。


 「安心しろ! きちんと信用でここは成り立っておる!」


 俺はそのおじいさんを信用して、家に届けて貰う事にした。

 持ち歩けないしね。


 愛梨のところに戻ると、かなり焦った様子だった。


 「時間が近いよ。走ろ!」


 「悪い。結構集中してた」


 俺達は走って向かった。

 アニメのグッズなどが買えたのは良かったが、今回の一番の買い物は白夜だ。

 そう思う。


 晩御飯を食べ終える。

 豪華だ。流石は高級旅館。


 「それじゃ、俺達は温泉の方に行くけど、二人は?」


 「少しゆっくりしてから行く」


 「そうね。二人で行ってらっしゃい」


 「分かった。愛梨、行こ?」


 「う、うん!」


 温泉も中々に良かった。

 チャーシューに成った気分だ。


 自動販売機で適当な缶ジュースを購入して、軽く飲む。


 「白夜。衝動的に購入してしまったけど、本当に良かったんだろうか? いや、後悔しても良くないな。買わないといけないから買ったんだ。それ以下でもそれ以上でもない」


 その決意を込めて、手に力を入れてしまった。

 缶が潰れて、中身が浴衣に少しだけ零れてしまった。

 力み過ぎたみたいだ。


 「あの太っている人力つよーい」


 「こら、人を指ささないの! すみません。ほら、行くよ」


 母娘に見つかった。

 ふ、俺の握力を見たか。


 愛梨が来たので、部屋に戻った。


 「良かったね〜」


 「そうだな。また来たい」


 「お金の使いすぎは将来、自分の首を絞めるからね?」


 「分かってるって。今日を境に当分は節約する」


 星空を眺めながらそう呟く。

 布団が二つ敷いてある。


 くっついているので、離そうとしたが、愛梨が止めて来た。

 俺の体型的に狭く感じると思うのだが、愛梨は何を考えているんだろうか?

 俺は時々、愛梨の事が本当に分からなくなる。


 「ね、日向くん」


 「ん?」


 「その、私に何かさ、言う事とか、ない?」


 上目遣いの浴衣愛梨がそう呟いた。

 髪型は同じ⋯⋯シャンプーとかは当然変わってるし⋯⋯わからんな。


 「あ、筋トレやりすぎて、筋肉増えて、体重が上がった?」


 「斬るよ?」


 「冗談だよ。愛梨は、いつもと変わらないと思うぞ?」


 「いつもどんな風に見てるのよ」


 「そりゃあ、家が隣で、ご飯とか一緒にする程には仲が良い、幼馴染」


 「本当に、それだけ?」


 俺は迷いなく頭を倒した。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 誰かに言えば、納得して貰えるだろう。


 「私は、一人の女の子として、見た事はないの?」


 「え、愛梨って女の子じゃないの?」


 それは知らなかった。

 体型的にも女性だと思ってた。昔からそう思ってた。

 まさか違うとは。


 「間違ってないよ合ってるよ! 失礼だよ、全く⋯⋯はぁ」


 「愛梨、どうした?」


 今日は少し変だな。

 浴衣だから?


 「やっぱり、自分から言わないと分からないか」


 ボソリと呟いた。


 「日向くん」


 「ん?」


 真剣な顔をされる。


 「私は⋯⋯」


 愛梨が何かを言おうとした、ほぼ同タイミングで空に華が舞う。

 同時に聞こえるのは腹を揺らすような轟音。


 「父さん達が行っている祭りの花火かな? ここからでも綺麗に見えるな」


 「⋯⋯そうだね」


 窓を開けて乗り出し、よく見る。

 打ち上がる度に、昔の花火大会を思い出す。


 「綺麗だな」


 「そうだね。うん。すごく」


 花火を見終わったら、俺達は就寝した。


 「夏祭り、今年もあるんだろうな」


 「だね」


 「小学の時みたいに、行くか?」


 「うん。行きたいな。日向くんと」


 「友達に誘われたら、そっち優先しろよ」

 

 翌朝、少しだけ愛梨は寝不足気味だった。

 理由を聞いたら「色々と考えてた」と言った。




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