第22話 普通に戦うってなったら俺は弱いで

 「はぁ。はぁ。ふぅぅぅぅぅ。はあああああ。まだ、終わらないよ。日陰さん」


 「そうだね。リイアさん」


 放送禁止アリアが終わってしまったので、俺達は演技をしながら全力でぶつかっていた。

 リイアがスキルを使ってないのは見ても分かるだろう。


 「行くよ!」


 「ええ!」


 そのタイミングだった、愛梨に向かってモーニングスターが放たれ、俺にはブレスが放たれた。

 すぐに反応して避ける。


 「何!」


 ゆっくりと降りて来るのは、白い龍だった。

 純白の鱗に立派な角。


 「ホワイトスターの八神」


 「知ってるの?」


 「ええ。日本五天皇の一人で、その名前を広めた張本人。強いよ」


 「まじか」


 八神と呼ばれ男が俺達を見下ろす。

 その右手にはモーニングスターが握られており、鎖で繋がれているので射程が長いようである。


 「くはははは! ここで俺様同等の力を持つリイアを倒せるのか! つーか、本当に探したぞ! 日本を代表する奴らは三人にしか参加してないから退屈する所だった!」


 「ねぇ、降りて来て戦おうよ!」


 「断る! お前に勝てるビジョンが見えんからな。二人まとめて、死ね」


 「女の子相手に死ねとか最低だな」


 「そうだよ。八神さんは昔から超最低人間なんだよ」


 「おいリイア、いくらなんでも酷くないか? 一緒にAランクダンジョン攻略レイドをした仲だろ? 少しはフォローしろよ」


 「行くよ、日陰さん!」


 「おっけー!」


 「無視すんな! 白龍、ぶっ殺せ!」


 周囲を簡単に破壊する純白のブレスが辺りを包み込む。

 その一撃は神楽とイフリートのコンビ魔法、つまりは精霊魔法の『黎明』と同程度だった。

 だが、範囲が段違いだ。


 龍、そのモンスターはどのランクでも上位クラスの実力がある。

 今回は確実に一級のモンスターカードだろう。


 「くっそ。戦いに水を刺した相手がチートプレイヤーかよ」


 俺は建物をよじ登り近づく。

 しかし、しっぽの攻撃で破壊され、足場が完全に崩れて⋯⋯無いな。

 瓦礫を使って俺はさらに接近する。


 「中々やるな。だが、強化系のスキルが足りてないな。遅いぞ! ギャラクシアスター!」


 普通に真っ直ぐ投擲されたモーニングスターは肥大化して、巨大な球体となった。


 「少しの足場がある。氷じゃないから滑らない。なら、問題ない。霧外流、蜃気楼!」


 命中したと思っただろう。

 だが、俺は既にお前の上空にいる。


 息を殺し、気配を消せ。

 倒したと油断しているその一瞬を攻撃しろ。


 愛梨との長期戦で削られた集中力では『道』が見えない。

 だけど、全く問題ない。


 「白龍」


 『ギガアアアアアア!』


 「なんっ!」


 白龍があげる咆哮が俺を吹き飛ばした。

 地面に綺麗に着地する。


 「やっぱりか。殴った感覚がしなかったんだよなぁ。白龍のスキル〈咆哮〉だ。白龍の主である俺よりもレベルが圧倒的に低かったら、『恐怖』のデバフが入るんだがな。同レベルだから仕方ないか」


 「私を忘れないでね!」


 「ずっと集中してたさ! サポートカード発動『結界バリア』」


 白龍共々守る結界が愛梨の攻撃を防ぐ。


 「リイア、お前の攻撃は危険過ぎる。個人で出して良い火力じゃない。当然、対策はしてきたんだよ!」


 おい待て。

 愛梨の対策をしているなら、攻撃方法が同じ俺の対策にもなってるだろ。

 本気の愛梨では俺と全く釣り合わない。


 この戦いに俺は⋯⋯弱すぎる。


 「でも、やるだけやってやるさ」


 あのまま勝負がお預けなのは気分が晴れないからな!


 俺は再び建物の壁を使って上る。


 「無意味! 白龍、ここら一帯を整地しろ」


 白龍の体が光る。

 まずいのは本能的に分かる。


 「スキル、『断絶』」


 愛梨が俺の足場である建物を切り裂き、中に引っ張ってくれる。


 「逃げるよ!」


 「おっけ」


 俺達は白龍とは反対方向に突き進み、建物を突き破る。

 刹那、白龍を中心に白い光に包まれる。


 大爆発が起きたのだ。

 お陰で、俺達はだいぶ離れた距離まで吹き飛ばされた。


 「ありがとう」


 愛梨の防具は優秀で、俺は特にダメージを受けずに済んだ。

 愛梨がクッション代わりになってしまったが。


 「あ、うん。大丈夫なら、良かったよ。へへ」


 「なんで顔を赤らめてるの? ⋯⋯あーなるほど」


 愛梨は同棲愛⋯⋯。


 「今脳裏に過ぎった事を捨てないとぶった斬るよ」


 「はは、なんの事やら」


 愛梨がエスパーなの、まじで合っていると思う。


 と、馬鹿な考えは終わりだ。

 強敵のお出ましだ。


 「ほう。生き残ったか。白龍の〈ホワイトノバ〉を前にして生き残ったのはお前らが初めてだ」


 「とか言いながら、一度も使った事がなかったりしてね」


 相手からの返事がなかった。

 これはあれだ。図星ってやつだ。


 「その、ごめんなさい」


 「素直に謝るなこの野郎!」


 「野郎とはなんだ! この声を聞いてもそう思うか!」


 「確かに。レディーに対して野郎は失礼だったな。謝罪しよう」


 「すんなよ!」


 「なんでだよ!」


 「二人で会話しないでよ!」


 と、こんなふざけている間にも次の攻撃が来よった。

 八神からの攻撃は受け流せるから良い。

 問題は白龍の攻撃だ。


 一発一発が即死級。

 周囲は真っ平ら⋯⋯クレーターのように消滅している。

 魔法攻撃が厄介だ。


 「ちくしょう。強すぎんだろ」


 神楽とイフリートはまだ、戦いになっていたし倒せていた。

 全力を出している感じはしなかったけどね。

 神楽は良い子だ。そんな彼女に俺は女性だと嘘ついてるんだよなぁ。


 「って、なんかこっちばっかり狙ってない!」


 「ざ⋯⋯弱い奴から倒すのは戦闘の基本だ!」


 「言い直しな! 別に雑魚でも構わんって!」


 クレーターを登って地面に足を着け、走る。

 相手からは魔法陣を出して、そこから白い閃光を出す攻撃を受けている。

 直線的な攻撃だから魔法陣の展開位置を把握していたら躱す事は可能。


 「可能でけど、攻める手が見つからない」


 これが飛行能力の持つモンスターか。

 厄介過ぎる。


 「白爆!」


 「無駄無駄! リイアが扱う魔法では、白龍に傷はつかん!」


 「だったら、直接斬る! 跳躍強化!」


 リイアが一気に跳ぶ。

 刹那、八神の口角が吊り上がる。


 「上がれ!」


 白龍が上に向かって進み、愛梨の攻撃が空振りに終わる。

 なんて面倒な事をするのか、俺達はそのような目で八神を睨む。


 「ふははは! 地の利を活かした戦い方、これぞ本当の戦闘だ! 馬鹿正直に剣での打ち合いなど無意味! モンスターの絶大な力を前にしたら、所詮プレイヤーなど雑魚!」


 「は?」


 「意味が、ないって?」


 愛梨がブチ切れた。俺もだ。


 剣での打ち合いがあるからこそ、俺達は互いの複雑な想いをなんとなく分かるようになったんだ。

 言葉では伝えきれない、そのような想いを伝える為の戦いだったんだ。


 第三者からしたら、イベント的に見たら無意味だったのかもしれない。

 意味不明な行為だったのかもしれない。


 でも、愛梨にとってはあれが精一杯だったんだ。

 俺のせいとか、愛梨のせいとか、過去のしがらみのせいで複雑化した俺達の関係を戻すために、愛梨が選んだ選択なんだ。


 それを貶すような言い方に俺は、無性に腹が立つ。

 愛梨は剣を愛してるし、きっと俺も同じ想いだ。


 互いに尊重して戦っていたのを無意味と言われて、怒らない奴が居るか?

 剣の道を進んで来た俺達にとって、剣を貶される事は嫌なんだよ。


 「何が無意味だ」


 「時間を無駄に消費してポイント集めを止める行為が無意味だと言っているのだ。剣での攻撃は否定しない。だが、スキルを使わないのはおかしいだろ! お前らの戦いになんの価値がある! 時間は有限なんだ。大切に使えよ」


 「⋯⋯時間稼いで」


 「わかった」


 愛梨が突き進む。

 イベント的に見たら無意味、確かにその通りだよ。

 でも、俺達からしたら無意味なんて言葉からは程遠いんだ。


 もうすぐイベントも終了する頃だろう。

 足場のない状態で俺は白龍、さらには八神にも攻撃出来ない。

 でも、俺にはまだ手札がある。

 

 『アレ』を使うなら今が一番タイミング的には最高だ。

 俺はスマホを操作する。


 「見せてやるよ、日本に。常識を覆し、一級を凌駕する、最強の切り札を」





【あとがき】

およみくださりありがとうございます!

明日もこのくらいの時間に投稿したいと考えております!

ようやく、シークレットメイドを披露する事が出来るので、内心とても喜んでおります!

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