第12話 30億ゲットだぜ!

 30億と言う大金を受け取りに、俺はギルドにやって来た。

 さっさと貰って、来週のイベントに向けて装備を整えようと思う。


 『あ』


 「ん?」


 入ると、受け付けの人が俺を見て、一人を除いて全員が席を離れた。

 ギルドの中には俺しか居ない。


 「仕方ない、か。別に誰でも変わらんし」


 いつもの人ではないが、俺はその人のところに向かった。

 前の人よりも見た目は若そうだったのだが、何か掴みどころのない気配を感じた。


 「オークションのお金のお受け取りですね?」


 「あ、そうです」


 「リアルマネーかデータマネー、どちらでお受け取りしますか?」


 「えっと、データの方でお願いします」


 現実で使うのではなく、データの方で使う。

 現実で使う時に勿体ない気分になるだろうが、仕方ないだろう。


 「それでは、アプリの方をお開きください」


 俺は専用の画面を開いて見せる。

 受け付けの人が操作をして、業務用スマホをかざすと、俺のスマホに30億以上の大金が入った。


 「ありがとうございます」


 俺はその場を去ろうと踵を返した。


 「お名前を伺ってもよろしいですか?」


 「お断りします」


 「⋯⋯最近、日陰さんと言うダンジョン配信者が居るのですが、お知り合いですか?」


 「違います」


 「今回の一級モンスターカード、どのように入手しましたか?」


 「教える必要はございません」


 「ギルドとして知っておくべき情報です。貴方は最近、ダンジョンに行くようになりましたよね? もしも教えて下さらないのであれば、盗品と疑われるかもしれません。今回は違くても、今後はどうかは分かりません」


 え、脅し?

 なんかこの人、淡々としているし怖いな。


 「ちなみに私は西野と申します」


 「⋯⋯霧外です」


 相手が苗字を名乗るなら、俺も名乗るべきだろう。

 疑われるのは面倒だし、何か言い訳を考えないと。

 初心者って事はバレているようだし⋯⋯あ、そうだ。


 「実はネットにも出回ってないレアモンスターを運良く倒さて、落ちたんですよ」


 「そんなレアモンスターに何回も遭遇したと?」


 「いえ、一回です。その一回で、たまたま一級が出たんですよ」


 「⋯⋯そうですか」


 これ以上の言及は無かったので、俺は去る事にした。

 この人⋯⋯と言うかギルド?

 もしかしたら、俺がまた一級のモンスターカードをオークションに出すと疑っているのでは無いだろうか?

 残念ながら、これで俺は十分稼いだし、出さないだろう。


 「それと、今後の対応は私が致しますので、ギルドに来たら誰でも良いので、ギルド職員に『西野』を呼んでくるように申し付けください」


 「特別待遇なのが気になりますが、わかりました」


 日陰との関係が疑われているのは厄介だな。

 はぁ、オークションに出した一級モンスターカードが原因なのは火を見るより明らか。

 だってどいつもこいつもメイドだもん!


 俺は家に帰った。

 ゆっくりとイベントに向けた装備を整えたかったからだ。


 「そう言えば日向くん」


 「なに?」


 「お金受け取る時、何か聞かれなかった?」


 「あー、どうやって手に入れたかは聞かれた」


 「⋯⋯なんて答えた?」


 「それりゃあ⋯⋯」


 「ネットにも出てないレアモンスターを偶然発見して倒したらたまたま一級モンスターカードがドロップした?」


 愛梨がエスパー系のスキルを入手して、現実世界でも使えるようにしたらしい。

 それ系のスキルは現実世界でも使えるのだろうか?


 「やっぱりか。もしかして、一回って言っちゃった?」


 「おー、本当に凄いな」


 すると、愛梨が「なにやってんのよ」とも言いたげな顔をした。


 「なにやってんのよ」


 言われた。


 「なぜ?」


 「そんな偶然信じたとしてもさ。それだったら自分で使うって考えるよね? フツー。しかも、一級なんだからかなりの高ランクでも挑めるし、スキルは上がらなくてもレベルは上がるから、高ランクダンジョンでモンスターに寄生すればレベリングは出来る。そうなると、高ランクでも金稼ぎは出来る。一級一枚売るよりも、後々は稼げる。なのに、自分では使わずに売る。たったの一つしかないのに」


 「⋯⋯あぁ!」


 た、確かに。

 なんか西野さん、疑っていた気がするけど、完全に嘘だって思われた。

 あの人、どことなく嫌な感じな人だって分かるし。絶対になんか俺の事を探って来たし。

 そう考えると、なんか初心者として調べられたってよりも、カマかけされた気がする!


 「ミスった」


 「ごめん。私もちゃんと考えるべきだった」


 「いやいや。この事に愛梨が謝る必要は無いよ。⋯⋯まぁ、ギルドが絡んで来た時はその時の俺に任せるか」


 「そうやって後回しにするから後悔するのでは?」


 それが人生ってもんだ。


 まずはステータスを改竄出来る権利システムを購入して、名前と呪いスキル、ガチャスキルを消しておく。

 それだけすれば良いだろう。


 「⋯⋯おっけ。ログの方にも日陰になってるね」


 愛梨がそう言ったので、問題ないだろう。

 これで愛梨の友達に日陰の正体がバレてしまう事は阻止できた。

 八億と言う少なくない出費はしてしまったが。


  日陰(霧外日向)

レベル:24

称号:なし(《ガチャ中毒者》)

スキル:(【データ転性】《モンスターカードガチャ》)〈剣技.7〉〈剣術の才〉〈殺人の才〉〈作業厨.1〉〈集中力強化.2〉

魔法:なし


 なんで初めての称号が《ガチャ中毒者》なのかは疑問に残るが、一応隠しておく。

 適正レベルよりもかなり低い状態でオーガ達と戦っていたんだからさ、『格上殺し』とか『鬼討伐者オーガスレイヤー』とかないのかね?


 「さて、めんどくさかったから一式装備に頼ってたし、細かい部分の装備を弄るか」


 靴には跳躍力強化や落下耐性などのスキルを持ったのがあるので、それらを買いたい。


 「高いな」


 俺は三億を使って、『敏速シューズ』と言う靴を購入して、日陰に装備させる。

 これは動くスピードを上げると言う効果がある。


 次に二億の『黒熊のローブ』を購入して装備する。

 これには魔法攻撃への耐性を高める効果があり、武器などを隠すにも有用だ。

 俺的には今後、もしも現実世界でPVPをする羽目に成った時に、日陰とバレないための身を隠す装備だ。フードがあるしね。


 その為には声を変える装備も購入したいのだが、今は手を出せない。

 すぐにはオークションをしないと思っていたが、もしかしたら再び近いうちにするかもしれない。

 ⋯⋯だけど、メイド系列だと日陰との繋がりが濃くなってしまうし、ノーマルガチャの方で一級を粘るか。そっちの方がポイントは安いし。


 次に防具の方も新調したいけど、今回は武器を優先にしようと思う。


 「簡単に数億が溶けるが金銭感覚がバグる」


 「そもそも、数億稼げるのって、かなりの実力者だからね? それをこの段階で買えてるのは普通に凄い事だからね? ガチャのせいで既に日向くんの感覚はおかしいから、気にしちゃダメだよ」


 「その言葉に俺はどのような反応を示せば良いんだ?」


 まぁたしかに、数千円の武器とかもあるしな。

 俺は皆から見たらずるい存在なのだろう。

 もしも知識があったら、無料引き直しガチャで高そうなのを狙っていたと思う。


 「本当はリイアたんに近づくために、配信を始めたけど、今は隠れ蓑の為に利用している感じだな」


 なんか愛梨が自分の事を指さしているが、無視しておく。


 日陰が有名になれば、俺と言う存在は影に隠れる。

 そのせいで色々と気を張る必要はあるけど。絶対にクラスメイトにはバレないで行きたい。


 「武器はコレだな」


 俺は十億とする、『黒霊斬刀』を購入した。これは精霊なども斬れる刀だ。

 当然、普通の刀としても使える。黒色を選ぶのは、日陰のイメージを保つ為だ。


 「おかしい。既に二十億以上が溶けている」


 なんだよこれ。

 ま、まぁ。1億以上は貢げると考えたら、うん。


 「そう言えば、愛梨の刀っていくらしたの?」


 「虐滅刀? レアドロップアイテムを加工して貰ったんだけど、なんか凄いのか知らないけど、九十億くらいはしたよ?」


 えっぐ。


 「その分強いけどね」


 「良く払えたな」


 「え、払えてないよ?」


 「ん?」


 「えっとね」


 スマホを操作して確認している。


 「あと、二十億三千万の借金が残ってる。その時はレイド攻略に向けて装備やらアイテムやらを全力で揃えて、所持金が数千円になってたからね」


 「い、一級のモンカド、売る?」


 「日向くんに頼る為に言った訳じゃないよ。ちまちまやってれば返せるし。本気出せばすぐに返せる。世界ランカー探索者を舐めるなよ〜。⋯⋯それに、自分の専用武器なんだから、自分で払いたい」


 その顔はどことなく、儚げに見えた。


 『虐滅刀』その名前に込められた意味を俺は考えること無く、理解していた。

 まだ彼女は過去の事を引きずっている。俺と同じように。

 だから、これ以上愛梨の武器について触れる事は無かった。


 回復ポーションとか俺も購入しておこうかな。

 ⋯⋯あれぇ? 30億が簡単に吹っ飛ぶぞぉ?

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