第14話 曹操、献帝を利用し袁紹を貶める。袁術、兄に対抗して天下の大笑い者になる。
献帝が長安を逃れて洛陽に留まっているとのこと、この知らせに許攸が誰よりも早く袁紹のもとへと駆けつけてくる。
「袁紹様!! 袁紹様~~~!!!」
袁紹は許攸の慌てっぷりに対して何も悟れずにこう尋ねる。
「許攸よ。そんなに慌ててどうしたというのだ?」
許攸は事の重大性に気づいていない袁紹に対して慌てながらも説明する。
「献帝を助ければ天下統一は目前です!! これは天が我々にくださった好機、最早、我々に敵はございません!!」
しかし、袁紹、並びに文官らはそう思っては居なかった。
「袁紹様、許攸は大騒ぎするのが大好きなのでしょう。献帝など、今では何の意味があるのか? ただの子供を救って天下が得られるなどと、ホラ吹きも良いところです。」
袁紹、並びに文官ら、おまけに無能な将軍各位も許攸を笑う始末である。
これに対して笑わないものが3人居た。
沮授と張郃、そして、高覧である。
まず、張郃が袁紹に進言する。
「献帝は我らにとって軍旗!! 公孫瓚が麴義の軍旗を見ただけで兵馬を退きました。献帝の軍旗は麴義の10倍は優れます!!」
続いて、沮授。
「漢王朝は確かに力はございません。しかし、漢室に忠義を持つ者たちは献帝のために忠誠を尽くすでしょう。」
最後に、高覧。
「私も許攸様の意見に賛成です!! 曹操もこれには黙っていないでしょう!!」
しかし、文官らがそれを許さない。
「献帝は皇帝陛下、それを迎えれば袁紹様が皇帝になることはできません。我らを散々利用して最後にはボロ雑巾のように捨て、天下に号令をするでしょう。献帝など捨て置いてくださいませ。そんなことよりも当面の麴義を倒すために兵力を揃え、秤量を蓄えるのが先決と存じ上げます。」
袁紹は全くもってその通りだと思い、4人を下がらせたのである。
4人は袁紹を後にして口々にこう言い合った。
「一番近いのに静観していたとは、呂布は天下一の英雄になり、汚名返上した。しかし、袁紹は呂布にも劣る不忠者だ!!」
一方、その頃、曹操は悩んでいた。
「劉備と呂布が手を組んでしまった以上、徐州を落とすのは不可能だ!! どうすればよいのだ!!」
呂布相手に互角の戦いを強いられた今、劉備と呂布が手を組んだ。
これは曹操にとって脅威といえよう。
しかし、徐州を狙っているのは曹操だけではない。袁術、孫策、劉表、全てに狙われている。
劉備を助けてくれる英雄はどこにも居ない。
公孫瓚がやられれば袁紹も黙っては居ない。
それだけに、劉備と呂布を警戒する諸侯らは多かった。
ここで動いたのが荀彧である。
「曹操様、密偵のものから情報が入りました。献帝が李傕らの悪政に耐えかねて長安から洛陽へと逃れているご様子、ここは一つ、献帝を助けに行ってはどうでしょうか?」
この言葉に曹操は大いに笑った。
そして、大慌てする。
「いや、待てよ。洛陽から一番近いのは袁紹、袁紹の元には許攸がいる。許攸なら私と知恵比べするために袁紹へ献帝を助けるよう進言するだろう。こうしてはおれん!!」
曹操の予想通り、許攸は袁紹に献帝救出を進言した。
しかし、袁紹は献帝を助けることを拒んだ。
この時の曹操はいくら袁紹でも献帝の重要性はわかっていると思っていたのだろう。
「今すぐにでも出立する!! 急いで向かうぞ!!」
曹操は主力部隊の半数以上を引き連れて洛陽へと向かった。
しかし、洛陽に着いたときには袁紹の者を誰一人として見かけることもなく、全てを悟った曹操は多いに笑って主力部隊を7割程帰らせた。
曹操はその後で荀彧に言う。
「はっはっは、袁紹にしてやられたわ!! まさか、袁紹がこれほどまでに馬鹿だとは、私は袁紹を過大評価しすぎたな? わっはっはっはっは!!」
それを聞いた荀彧は全くだと頷いた後で曹操が再び聞く。
「しかし、帝への謁見には必ず進物を用意せねばなるまい。急いで城を飛び出した私は何も用意していない。どうすればよいだろうか?」
それに関しては荀彧が言った。
「そのご心配は無用です。帝は長旅できっと空腹でしょう。こういう時の進物はどのような金品宝石もガラクタ同然、肉や米こそ最高の進物となりましょう。」
曹操の不安は消し飛んだ。
「荀彧の才には驚かされる。流石は『王佐の才』だ!!」
曹操は急いで馬を殺し、鳥を捕まえて部下たちに料理をさせた。
その後で、献帝に謁見した。
献帝はこの時ばかりは袁紹が来ると思っていた。
しかし、曹操が現れて吃驚する。
「曹操が陛下に拝謁します!!」
だが、曹操が献帝に対する礼節を辨えて居たために献帝は安心した。
「曹操が陛下に献上します!!」
そう言って曹操は荀彧に献上品を持ってこさせた。
献上品は分厚くも豪華な布で隠されている。
献帝が曹操に聞く。
「これはなんだ?」
そう聞くと曹操はこういうのである。
「陛下、お当てください………」
献帝は曹操に尋ねる。
「玉璽か?」
そう聞くと曹操は首を横に振る。
続いて、『琥珀か?』と聞いても首を横に降った。
「全く検討もつかぬ………これは一体何なのだ?」
そこで曹操が答える。
「では、御覧ください………」
献帝は布を手に取ると生暖かった。
蓋を開けてみれば鳥の汁ものであった。
献帝はそれを見ただけで『ゴクリ』と喉を鳴らしてしまった。
気がつけば持っていた蓋を落とし、一口、また一口と口に運んでは曹操から汁ものを取り上げていた。
そして、涙を流した後で言う。
「う、うまい………これ程までに鳥肉が旨いとは朕も知らなかった………」
それを聞いた曹操も献上品が気に入ってもらえて安心し、献帝を援護していた文武百官には馬の鍋を与えた。
「皆様の分もございます。どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください。」
逃亡生活により、空腹の文武百官も曹操に礼を言って召し上がる。
皆が食事を終えるまで曹操も待てば満腹になった献帝が言う。
「曹操、朕は満足だ。一番近い袁紹ではなく、曹操は遠路はるばると駆けつけてくれた。誠に大義である。よって、褒賞を授けようと思う。」
その言葉に曹操は深く頭を下げて言うのだ。
「勿体なきお言葉、褒賞のために陛下を助けたのではありません。陛下がご無事であれば褒賞など不要でございます。」
曹操の言葉にますます感服した献帝に曹操が進言する。
「陛下、私のような不才の者に褒賞を与えるよりもここに書かれた方々に褒賞をお授けください。」
そう言って曹操は書巻を献帝に差し出した。
そこには以下のように書かれていた。
『現在、洛陽は荒れ果てており、危険な状況、ここは許に遷都し、年号を改め、許を許都とし、袁紹を大将軍、各々の諸侯らにも褒賞を与えること』
この内容に献帝は驚いた。
「洛陽は200年の帝都、その歴史もこれまでか………しかし、董卓は自分の褒賞を真っ先に奏上してきた。これはどういうことか?」
曹操はこれに対してこう答える。
「陛下、この曹操は200年続いた漢室の歴史に泥を塗りました。罪人が褒賞を強請るなど恥知らずも良いところです。」
献帝は躊躇してしまう。
洛陽を離れることを………
それを見た曹操は兵士に号令を賭けるために剣を引き抜いて天へと翳した。
兵士らは時の声を上げて天を突かんばかり、その声は目の前まで来ていた李傕らも警戒して逃げ出してしまうほどであった。
「洛陽は賊軍の隣、ここを本拠地にすれば折角の精鋭も散り散りになるでしょう。乱世に置いては仕方なきこと、洛陽の復興は日を改めるのが最善と存じ上げます。」
献帝に選択の余地はなかった。
「奏上を認めよう………」
こうして、袁紹の元に詔が届いた。
その褒賞に大満足して詔を受けることにする。
これには許攸もがっかりしたために、袁紹はその態度が気に入らず、許攸を牢獄に閉じ込めた。
しかし、翌日、こんな詔が届くことになる。
『袁紹は洛陽に一番近くに居たが、朕を助けず静観していた。諸侯らも袁紹の大将軍に異を唱えるものばかり、よって、然るべき献上品を持参して朕への忠誠を示すことで静観の一件を忘れることとする。要求する品はーーー』
この詔を見た袁紹は椅子から立ち上がって速歩きして詔を地面に叩きつけた後でこういう。
「誰か!! 許攸をここに!!」
袁紹が気づいたときには遅かったのである。
袁紹が献帝を真っ先に助けなかったために天下の笑いものにされてしまった。
これにより、莫大な税を20年以上は収めなければならなくなってしまうばかりか、献上品まで要求されてしまった。
献帝の詔を拒否すれば中国全土を敵に回すことになる。
「許攸………ここに………」
袁紹が許攸を見れば溜め息を付いてこう言う。
「あの時、そちの言うことを聞いていれば、この詔を曹操に渡すのは私だったかもしれない。どうすればよいか?」
袁紹が許攸に助けを求めるも許攸は首を振ってこう答える。
「こうなれば謝罪して陛下の詔、いや、曹操の詔に一生従うしか無いでしょう………逆らえば、曹操との決戦は避けられません。現在、我らは曹操と公孫瓚から挟み撃ちにされております。ここは大将軍をお返しし、罰を受け入れるのです。」
袁紹や文官らが凡人であるがゆえに招いた結果だ。
献帝の存在は麴義の旗とは比べ物にならなかった。
袁紹は何の取り柄もない献帝という大きな旗を見上げるしかなかった。
「何をおっしゃいますか、ならば曹操を撃破して献帝を奪い取るまでです!!」
無能な文官らが今頃になって献帝の価値を知ると同時に逆賊ななり変わろうとしている。
この申し出に袁紹も剣を引き抜いて言う。
「このまま曹操の言いなりになってたまるか!! 必ず献帝を手に入れて見せる!!」
これに対して、許攸合わせて4人が反対を申し出る。
「なりません!! 曹操と戦うことは献帝に刃を向けるも同然です!! そのようなことをすれば、我々は天下の逆賊!! 永遠の笑いものになるでしょう!!」
しかし、袁紹は聞かなかった。
「うるさい!! 必ずや曹操の首を切って落としてやる!!」
最早、袁紹は天下の逆賊として中国全土の敵とされてしまうはずであった。
しかし、袁紹よりも愚かな人物が居た。
「袁紹様!! 大変です!! 袁術が皇帝を名乗りました!!」
袁術は兄である袁紹の大将軍に納得ができなかった。
兄よりも大いに優れる自惚れ袁術が袁紹に変わって天下の大笑い物になってしまったのである。
袁術はそんな風には考えていないだろう。
無論袁紹もだ。
曹操の思惑はまさかの袁術によって打ち砕かれる。
許攸らは大喜びして袁紹に言う。
「袁紹様!! 弟の袁術が兄に代わって天下の逆賊になってくれましたぞ!!」
無能な袁紹は最初に『生意気な弟め』と思うが、許攸らの言葉を聞いてようやく悟る。
「ふっはっはっはっは、なるほどなるほど、そうかそうか………」
曹操の計略は天下の大馬鹿者である袁術が打ち砕いた。
これには曹操も大笑い。
「あはッ!! うはッ!!? が~~~はっはっはっはっは!! 袁術め………この俺の計略を打ち砕いた上に笑い死にでも狙ってきたのか? これは一本取られたわい………まさか、袁紹よりも愚かなやつが居たとは………しかも、揃いも揃って袁家の者は………余程、天下を笑わせたいと見える………あーーー、これほど笑えたことはない………馬鹿と天才は紙一重というが、危うく袁術に笑い殺されるところであった。袁術め………侮れん奴よの………くふッ!!ーーーはっはっはっはっは!!!」
曹操は手を叩いて大いに笑った。
曹操軍もようやく理解して曹操につられて笑ったという。
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