第11話 人中の呂布、馬中の赤兎
劉曄は7歳の頃、母親に『あの役人の顔をよく覚えましたね? 私亡き後はあの者を迷わず殺すのです。』と言いつけられてきた。
乱世には女の戦いもあり、腐った役人は女からも金を毟り取るもの、結局悪人は殺さねばならない宿命。
13になった劉曄は兄と共に奸臣を殺すように協力を求める。
しかし、劉曄の兄はそれを受け入れなかったために一人で決行、奸臣を殺した後は悪役人共から追われることを計算して行方を暗ました。
正義の為に戦ったが、上の人間が税金ばかり食ってるゴミでは逃れるのが賢明だったのだろう。
劉曄の気持ちを察した者たちはこう評価する。
冷静沈着で豪胆な人物だと………
劉曄は曹操にあるものを献上した。
それを見た曹操は尋ねる。
「これは何だ?」
劉曄が言うには『投石機』といって、岩を遠くに投げ付ける兵器だということ、その後でこう言う。
「これで呂布を城の外へ誘き出します。後はあの城の中に私のことを理解してくれる腹心が呂布を追い出してくれるでしょう。」
それを聞いて曹操は劉曄に従った。
劉曄の用意した投石機は呂布が立て籠もる城に大量の岩を雨霰と降らせた。
『ガシャーン』
「何事だ!!?」
呂布が酒を飲み、演舞を楽しんでいるところに岩が振ってきた。
小さな石は遠くに多数降り注ぎ城内は大騒ぎとなる。
「おのれ曹操め!! これでは心も休まらん!!」
苛立つ呂布に対して陳宮が冷静に徹して助言する。
「敵は脅しを掛けているに過ぎません。今は援軍を待つべきです。」
陳宮には、曹操の挑発が目に見えていた。
しかし、呂布には実績がある。
それは、呂布が王允亡き後、袁術を頼ったが受け入れてもらえず、袁紹の元に身を寄せる。
袁紹はこの頃、張燕と戦っていた。
張燕は精鋭1万に対して呂布は千の騎馬隊だけで一日に3度から4度の突撃を繰り返し、張燕を破った。
そのため袁紹から『人中の呂布、馬中の赤兎』と呼ばれた。
呂布が兵士の補充を袁紹にお願いすると袁紹配下の文官らが呂布の裏切りを懸念して袁紹を唆した。
最もだと思った袁紹は呂布への援助を拒否する。
これに怒った呂布は袁紹の元で略奪を行い。
呂布に恐怖した袁紹は命からがらも逃れて城に立て籠もったという。
「この俺様を挑発だと!!? 面白い。曹操軍など千の騎馬隊で木端微塵にしてくれるわ!!」
そう言うと呂布は陳宮の忠告を無視して城門を開き、まんまと城から出てきたのである。
しかし、呂布と赤兎の猛攻は天下無双に相応しく、曹操軍は呂布の突撃を何度も受けて総崩れになってしまう。
曹操軍はたちまち、呂布が向かってくるだけで逃げ出すようになってしまった。
「なんて奴だ!! 『孫堅』はあの『呂布』を相手に何度も後退させた。しかも、あの時は呂布軍の兵力が今の50倍はあったというのに!!?」
驚く曹操の顔を見て許褚が呂布に一騎打ちを申し込む。
「貴様が呂布だな!! このオラが相手だ!!」
呂布は許褚を見るなり瞬時に槍を払い除けてしまった。
すかさず剣を引き抜くも呂布の武芸は100年技量を磨いたとしても敵うものでもなく、許褚は死を覚悟した。
その時、典韋が現れた。
「今度は典韋が相手だ!! 許褚!! 休んでおれ!!」
典韋は短戟で呂布の槍を受けてもう一方の短戟で呂布を斬り殺そうとした。
しかし、呂布は典韋の馬を蹴って短い短戟の攻撃範囲から逃れると剣を引き抜いて典韋を切ろうとする。
典韋の命が危ういと思った許褚は呂布に斬りかかる。
これにより、呂布は典韋を殺せず、許褚の剣を受け止めてこう言う。
「フン、少し遊んでやるか………」
そう言うと呂布が戦場の中で自慢の武芸を披露する。
その武芸の見事なこと、それを見ていた曹操も呂布に感心してしまうほどであった。
「あの許褚と典韋二人がかりでも呂布は倒せんのか、夏侯惇、夏侯淵!! 楽進、李典!! 二人を助けよ!!」
夏侯兄弟が弓と槍で呂布を牽制すると、呂布の武芸も乱れてきた。
その後で楽進と李典が迫ってくるため、呂布が要約して引き下がってくれた。
「ふふ、曹操軍もこれだけ崩されればしばらくは大人しくなるだろう。」
呂布が戦況を見渡すと高順が呂布のもとにやってきて報告する。
「あのおかしな『投石機』は全部この『陥陣営』がぶっ壊しておきました。」
高順は攻撃した敵を必ず打ち破る猛将であったために『陥陣営』の異名を持ってしまう。
「陳宮の策がなくても俺なら戦えば敵が落ちるってのによ!!」
一方、高順は陳宮をよく思ってはいなかった。
「ははは、流石は高順、この俺も貴様に嫉妬してしまいそうだ!!」
呂布は高順の功績に嫉妬してしまい。
高順から兵士を取り上げて魏続に高順の兵士を預けたが、わざわざ魏続の兵士を高順に指揮させたという。
「いえいえ、俺なんかでは呂布様には敵いませんよ。ちゃんと理解してますから………」
高順は呂布から兵士を取り上げられても呂布の武芸に感服しているため、恨んではいなかった。
寧ろ、尊敬していたという。
「さ、帰って残っている酒を一緒に飲もうではないか!! 呂布と高順の凱旋だ!! 城門を開けよ!!」
呂布と高順はいい汗をかいた後の酒を楽しみにしていた。
しかし、いつまで待っても城門を開けてもらえず不穏に思い始める。
「どうしたのだ? 城門を開けよ!!」
呂布が再び命じるも応じず、曹操の罠だったと悟ったときには遅かった。
「ふはは、呂布、貴様の残していった酒なら私が飲み干してしまったぞ!!」
そう言って城壁から空の酒甁が投げつけられた。
呂布が上を向けば城壁の上には劉曄の父、劉普が立っていた。
呂布が言う。
「陳宮はどうした!!?」
城には陳宮が残っていたはず、しかし、陳宮は部下から暗殺の知らせを聞き、一足先に逃げ出していたのである。
「とっくに逃げ出したわ!! 逃げ足の早いやつだ!!」
呂布と高順は逃げ出した陳宮に対して多いに激怒した。
「陳宮の奴はどっちに逃げたんだ!!」
劉普は何のことだと思いながらも陳宮の逃げた方向を指さすと呂布と高順はその方角に馬を全力で走らせた。
この後、陳宮をめっちゃくちゃに怒鳴り散らかせば陳宮も『あんな策に乗ってしまうとは』と言い返したのであった。
曹操は要約して兗州の城を一つ奪い返したのである。
しかし、曹操が兗州の城を一つ奪い返せば徐州の陶謙が死んだことを知る。
「何? 陶謙が死んだだと!!?」
曹操の父を殺したという逆恨みの大義を失い、徐州を攻める理由も無くなった。
このために曹操は己を見失ってしまい、こんなことを言い出した。
「今すぐ徐州を攻め落とすのだ!!」
これに対して荀彧が曹操を宥める。
「今徐州を攻略しても兗州の呂布が黙っておりません。それに、この城は劉曄の計略が無ければ『不落の城』、この『城』無くして『天下』を治めることはできませんぞ!!」
その言葉に曹操は最もだと思い劉曄を招いた。
「劉曄が居なければこの城は手に入らず、私は袁紹を頼ることになっていたかもしれん。望むものをできる限り与えよう。」
その言葉に劉曄は感服し曹操に忠誠を誓った。
だが、流石の呂布であり、曹操との戦いは100日も続いたが勝負はつかず、お互いに秤量が突きてしまったために、一時休戦となってしまう。
そんな時、袁紹に動きがあった。
「公孫瓚め………手こずらせおって………衰弱している公孫瓚など、最早時間の問題だろう………」
公孫瓚の白馬陣が麴義によって壊滅的な大打撃を受ける。
この頃、趙雲は兄が無くなり、しきたりによって数年ほど墓参りをするとのこと、公孫瓚の元から離れていた。
「袁紹様、私に曹操と呂布を同時に滅ぼす策がございます………」
袁紹が耳を傾けると『なるほど』と思い、こういう。
「『埋伏の毒』というやつだな………良し、それに従おう!!」
袁紹は相当前から頼まれていた呂布への援軍を1万程送った。
呂布は袁紹からの援軍に『なぜ、今頃になって』と思った。
「陳宮、これはどういうことだ?」
陳宮は答える。
「袁紹の奴、今頃になって援軍とは、恐らく、曹操を我らに落とさせた後で、この援軍は寝返り、我らに災いを向けることになるでしょう。ここは一つ、彼らに曹操を攻めさせればよいのです。」
呂布は陳宮の言葉に疑問を持った。
「そんなことをさせたら、我々は袁術本軍と袁術の援軍、双方から攻め込まれてしまうぞ?」
陳宮は懸念を抱く呂布に耳打ちした。
「なるほど、そういうことなら早速攻めさせよう。」
呂布は袁紹の援軍を城に入れず冷たい態度を取り、曹操の所へと攻め込ませた。
「呂布の野郎め!! なんて態度だ!! 曹操の後は貴様を殺してやるからな!!」
この頃、曹操は秤量を強奪するために主力を向かわせていたために、城内のまもりは1000にも満たなかった。
そこへ1万の兵力が押し寄せて来たために大慌て、東西南北の門に250名の兵士を配備するが多勢に無勢であった。
そのために、曹操は民や女、子供にまで戦に強制参加させた。
「死にたくない奴らは必死で城を守るのだ!!」
民たちは泣きながら夜通しで城を守り、眠ることも許されなかった。
眠るものがいれば女子供でも容赦無く殺して全力で守らせたのである。
この最大の危機に大半の者が命を落としたため、城は死守されることになる。
主力部隊が戻って来ると袁紹の援軍は撤退してしまった。
「そ、曹操様!! こ、これは一体!!?」
曹操の残虐な一面は主力部隊に見られることがなく、勝ち誇って大げさに言う。
「呂布軍1万の兵士を持ってとしても、この曹操は1000でそれを防ぎきったのだ!!」
それと同時に、曹操は劉曄が居なければ、今頃は袁紹に殺されていたかもしれんと思うのでもあった。
主力部隊は留守を守った曹操に平伏した。
民たちは戦争から開放されたが曹操のことをよく思っていない様子、これを見た荀彧が何かを察してこっそりと民に事情を伺った。
話を聞けば民は奴隷のように扱われたが、戦争なら仕方ないと思い、荀彧は曹操を疑うのを辞めることにした。
それを見ていた民たちはがっかりと方を落としたのである。
例え、自動虐待や暴虐があっても、そこに大義があるならば、人はそれを疑わず、奸雄を崇める。
曹操は悠々と玉座に座っていた。
「さて、『袁紹』のお陰で兗州の攻略も目の前となってしまったわ!!」
曹操は袁紹の浅知恵に歓喜して酒を飲んだかと思えば主力部隊を即座に呼び寄せて行動に移した。
曹操は酒も満足に飲まず兗州制覇へと向かった。
一方、その頃、袁紹はというと、美酒に酔いながらのうのうと時を過ごしていた。
「そろそろ、曹操の野郎、死んだ頃じゃないのか?」
そう思っていたところ、密偵の者が報告に参った。
袁紹は『待ちわびたぞ!』と立ち上がる。
「袁紹様!! 曹操は袁紹援軍を退け、その日の内に呂布軍を討伐!! 曹操は最早目の前まで来ています!!」
この報告に袁紹はびっくり仰天して一度たった席に座り直した。
続いて、報告がまたやってくる。
「一大事です!! 『麴義』が公孫瓚に寝返りました!!」
袁紹は再び席から立ち上がって驚いた。
「何だと!!?」
気が付けば前からは公孫瓚、後ろからは曹操が攻めてくる危険な状況に陥ってしまった。
「おい、先程、埋伏の毒を進言したやつを呼んでこい!!」
袁紹が腹いせに死刑にしてやろうととりあえず着座する。
しかし、その者が逃げ出したということを知って席を立ち、馬に乗り、酔っていたために転げ落ちたとか………
そして、天に向かって叫ぶ。
「我は、我はどこに向かえばよいのだ!!」
これを見ていた一人の男が不穏に思いつつも袁紹に申し出る。
「あ、あの………曹操軍は私が退けて差し上げましょうか?」
その言葉に袁紹は縋りつきながら言った。
「本当だな!! お前は嘘を付かないのだな!!」
その男は許攸と言って、かつて、曹操の友人でもあり、よく知恵比べをしていた者であった。
「はッ!! この許攸にお任せくださいませ!!」
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