第35話 最上くんはショタと出会う①
キャンプファイヤーの儀式をもって文化祭は大団円をむかえようとしていた。
文化祭に真剣に取り組んできた生徒はもちろん、サボっていた生徒ですらなにかしら感じ入るところがあったようで、炎を眺めながら泣いている生徒が少なからずいた。彼らにとって今日一日の出来事は大切な思い出として胸に刻まれることだろう。
しかし文化祭の最中に起きたある奇妙な事件のことを知る者はほとんどいない。
すこし時間をさかのぼる──
午前中のこと、一年一組の催し物『メイド喫茶』に一人の少年が訪れたところから事件ははじまる。
「あれ? フトシじゃーん!」
そこに立っていたのは蘆毛フミカの弟フトシだった。
フトシはクラス中の注目を浴びたことに動揺し、その原因をつくったヒナに、
「ちょっ、デカい声だすな! バカヒナ!」
と不服を申し立てた。しかしヒナはフトシの苦情など耳に入らず、
「フミカ~! シスコンでキモショタの弟ちゃんが来てるよ~!」
とさらに声のボリュームを上げて叫んだ。
「くっ……」フトシはヒナにデリカシーある言動を求めた自分が馬鹿だったのだ、と諦めた。
ヒナの言葉に反応したフミカが顔を上げた。フトシも実姉を視認した──が、姉の姿にフトシは後頭部をバットで殴られたような衝撃を受けた。
フミカがメイドのコスプレをしていたのだ!
しかも否応なしに視線がそちらに向いてしまうほど胸部が強調されたデザインの服だった。さらにサイズが合っていないのか、その部分がはち切れそうなっている。
フトシは頬を紅潮させて目を見開き、水面に口を出す魚のように口をぱくぱくさせた。
フミカが手を小さく振りながらこちらにやってきた。すると足を一歩踏み出すたびに前に飛び出した胸の膨らみが上下に弾んだ。
それを同級生の男子や客で来ている男どもが横目で盗み見ているのがわかる。
フトシは激昂した。同時に、いますぐ姉をこの場から連れ出し家に帰ろう、と即断した。
フトシが姉のもとへ駆け出そうとした刹那、目の前に人の壁があらわれた。
「ええ! フミカの弟ちゃんなの!」
「かわいー」
「けっこうイケメンじゃない?」
女子高生の集団がフトシを囲んでいた。
フトシは女子高生の壁を押し返し、掻き分けようと
「ちょっ……どいてください……どいて……どけって!」
しかし必死の訴えも虚しく、女子高生たちの陽気でひとりよがりなノリの渦の中へ、フトシは呑みこまれてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます