第28話 最上くんは見惚れる

 文化祭当日──


 この日ばかりは学校も開放され、生徒の親や地域住民らが大勢やってくる。


 蘆毛あしもフミカのクラス、1年1組の出し物は『メイド喫茶』だ。


 当初はメイドになることを嫌がっていた女子たちだが、いざメイド服を目の前にすると興味を示すようになり、しまいには全員で交代してメイドをやることに決まった。


 この状況に男子たちはほくそ笑み、みな眼福にあずかることとなった。


「えっろ!」ヒナとユズハは声をそろえて言った。


 メイド服のデザインが胸を強調するものになっており、豊かなバストをもっているフミカは恥ずかしそうに胸元を両腕で隠した。


「これじゃキツイよ。もっと大きいサイズのにして」


 とフミカは懇願したが、ヒナとユズハがその願いにこたえることは決してなかった。


(ナイス!)男子の大半が心のなかで称賛したという──


 そしてこの件を機に、一部にしか知られていなかったフミカのの存在がみなの知るところとなり、校内がざわついた。


 ちなみに──だれよりもはやくフミカの果実の存在を見抜いていた高橋タダフミは、ドヤ顔で優越感に浸っていたが、同時に、独占していたものが奪われたような悔しさを感じていた──らしい。




 一方──


 メイド喫茶で受けた注文は、家庭科室の調理台を借りてつくる段取りになっていた。


「どうせ客なんか来ないだろ」とみんな高をくくっていたから、部活の出し物と掛け持ちしている者やサボるつもりでいる者が調理担当となった。


 しかし予想に反してメイド喫茶は大反響! 注文が殺到し、家庭科室はてんやわんやの大騒ぎになっていた。


 萌え萌えオムライス、ツンデレパスタ、ぱふぱふパフェ……用意していた食材はすぐに底をつき、何度も買い出しにいく羽目になった。


 そんななか、八面六臂の活躍をみせたのが最上もがみガモンだ。


 同時進行で複数の調理をこなし、次々とくる注文を涼しい顔で淀みなくさばいていく。その所作は流麗で、まわりでみていた者はほうけたようになっていた。


 表舞台の裏で起きた最上ガモンのこの活躍は、知る人ぞ知る伝説として後世に語り継がれることになる──


 しかし昼をすぎた頃、


「ごめん。俺ももう行かなきゃ。あとは頼んだ」


 といって最上は家庭科室を出ていった。


 置いていかれた調理担当者たちははじめ事態を呑みこめず呆然としていたが、ことの重大さを理解すると絶望に打ちひしがれその場に崩れ落ちた。




 最上が来てみると、1年1組の教室の前に列ができていた。どうやらメイド喫茶の順番待ちをしている客のようだ。


 教室に入ると満席で、五人のメイドがそれぞれ、萌え萌えビームで接客していた。そのうちの一人がフミカだった。


「蘆毛さん」


 最上の声にフミカが振り返る。


「……」


 最上はメイド姿のフミカに見惚れて言葉に詰まった。


「最上くん?」


「あ、いや……うん……似合ってるね、それ」


「ありがと。ちょっと恥ずかしいんだけどね」


「いや、びっくりした。かわいくて」


「え」フミカは頬を赤らめた。「いやだ最上くん、お世辞ばっかり。それよりなに? なにか用があったんじゃない?」


「あ、そうだ。蘆毛さんにみてほしいものがあって。このあと音楽室に来れないかな?」


「え? うん、もう交代だから。着替えたら行けるけど」


「よかった。じゃ、あとで」


 というと最上は行ってしまった。


「?」

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