第17話 最上くんは宿題を手伝う
二人は──ヒナは派手な薔薇が彩られたモダンな浴衣、ユズハは薄紫色の
夕闇が街を覆おうとしていた。
通りを行き交う人々がいつもより多いのは今夜開催される花火大会のせいだ。
フミカ、ヒナ、ユズハが去年まで通っていた中学校の校門の前──フミカが小走りにやってくる。
「ごめん。待たせちゃって」
フミカはピンクと水色の朝顔の柄が入った浴衣を着ていた。髪の毛はアップにして頭のてっぺんにお団子をつくっている。
「おお! 天使がやってきたかと錯覚したス!」ユズハがいうと、
「いつもと雰囲気がちがうねぇ、フミカちゃん。色っぽいよ〜」とヒナが卑猥な視線をむけてくる。
「そっかな? そんな二人も可愛いよ」
それからしばらく、お互いを褒め合うという儀式をひと通り行い、
「さて、そろそろ行こっか」とヒナが突然冷静さを取り戻すと、
「そっスね。バカいってないでとっとと行きましょう」とユズハがつづいた。
三人は花火大会の会場へむかうことにした。
フミカたちの住む街は埋め立て地の上につくられた港湾地域で、船が運んできた積荷を保管するための巨大な倉庫がたくさんあった。さらにそれらを運搬するためにトラックが何十台も停められるような広大な駐車場もあった。その駐車場のひとつが花火大会の観覧会場になっていた。
海上から打ち上げられた火の玉が夜空に巨大な光の花を咲かせた。空一面が色とりどりの光の花で埋めつくされ、その光景はまさに圧巻だった──
「
花火大会が終わり、その帰り道ユズハがいった。
「うん。最上くんもすごい行きたそうだったけど、どうしても外せない用事があるって」とフミカ。
「最上くんのおかげで夏休みの宿題もはやく終わったし! 最上くんには感謝しかねえ!」とヒナが天を仰いだ。
じつは、図書館で行われていた最上とフミカの勉強会のことを嗅ぎつけたヒナとユズハは、悪びれることもなくその勉強会に参加し、夏休みの宿題を最上に手伝ってもらっていた。
ヒナはわざとらしく妖艶なポーズをとりながら、
「最上くんにならあたしの特別スペシャルサービスをご奉仕してあげてもよかったのに……残念ね」
とフミカの顔を覗きこんだ。
「な、なに?」
「あら、いけない。フミカちゃんが嫉妬しちゃうかしら」ヒナは、不適な笑みを浮かべ、いった。
「なっ!」フミカは言葉に詰まり、否定も肯定もしない。
「そんなことよりも」ユズハが割って入る。「最上氏、めちゃくちゃ賢くないスか? 学力がうちらの高校に見合ってないス。もっと上の高校に行けたんじゃないスかね」
「あー、わかるー」ヒナも賛同した。「それについて最上くんに訊いたことあるんだよね、あたし。そんな頭いいのになんでこの高校受けたのって」
「なんて?」フミカが食いつく。
「それがよくわかんないんだよね。『この高校にしかないものがあるから』とかなんとか」
「は? なんスか、それ? うちはただの公立高校スよ」
「だよね。進学校でもなければ運動部が強いわけでもないし……」
ヒナとユズハはフミカをみつめた。
「な、なんですか……」二人にみつめられて戸惑うフミカ。
ヒナとユズハは声をそろえてこういった。
「まさかねえ」
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