第14話 最上くんは断言する

「俺といっしょに全国目指そうぜ!」


 球技大会が終わり誰もいなくなった教室で、サッカー部の塚本はがみガモンをスカウトしていた。


「……」最上は沈黙している。


「最上、お前のほど技術がある奴がなんでサッカー部に入らない? ……もしかしてクラブチームに所属してるのか?」


「いや」


「じゃあ、なおさら──」


「塚本には悪いんだが、サッカーはもういいんだ」最上はすまなそうにいった。「俺としては充分やりきったんだよ」


「やりきったって……俺たちまだ高一だぞ」塚本はいった。


「……」最上はふたたび沈黙した。


 塚本はおもむろに語り出した。


「俺、じつは中学までクラブのジュニアチームにいたんだ。だけど、ユースには上がれなかった。だから高校で実績をのこして、卒業したらプロになりたいとおもっている。自分勝手なことはわかってい──」


「大丈夫だよ」


「……え」


「塚本、お前は大丈夫だ。かならずプロになれる」最上は確信に満ちた表情で断言した。「でもそのためにはポジションをいまの前線から中盤の底にコンバートしたほうがいい。そこで戦局を見極める力をつけるんだ。そうすれば塚本の才能は開花する」


 塚本は最上の言葉を咀嚼そしゃくするのに時間が必要だった。


「いや、そのポジションは最上──お前のポジションだろ。俺はお前のプレイをみてておもったよ。こいつには敵わないって。だからお前といっしょに──」


「それは逆だな」最上は塚本の話を遮った。「敵わなかったのは俺のほうだよ。俺が通用したのは高校まで。だけどお前はもっと上のレベルで活躍する……って、いってる意味わかんねえよな。わりぃ……ともかく、塚本はサッカー選手として成功する。それは決定事項だ。俺が保証する」


「……」


 塚本はなにもいうことができなかった。


 急に最上がまわりをキョロキョロと見渡し、落ち着きがなくなった。


「あれ? まさかみんなもう帰っちゃった? あれ? うそ……ウガアアアア!」


 最上が試合中にも出さなかったほどの大声で叫んだから、塚本は驚いて固まってしまった。


「おい塚本、ふざけんな! お前の話が長いからあしさん、帰っちゃったじゃないか! あああ、クソ!」などと文句をいいながら最上は慌てて教室から出ていった。


 教室に一人のこされた塚本はつぶやいた。


「……え、そこ?」

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