第5話 最上くんは告白する②

 あしフミカは濡れた髪を拭きながら浴室を出た。リビングにいくとフトシがソファーに寝っ転がって、買ってもらったばかりのスマートフォンで動画をみていた。


「フトシ、お風呂入っちゃって」


「はいはい」


「動画ばっかりみてないでちゃんと──」


「う・る・さ・い」


「……」


(はあ、小さいころは可愛かったのになあ。いまじや生意気ばかり……)


 フミカは諦めて自室に入った。




 フミカは理数系の科目が苦手だった。数字や記号の羅列をみるだけでうんざりしてしまう。それでも自分に苦行を課すように数学の復習をした。


 しばらくして玄関のドアが開いた音がした。父が帰ってきたのだろう。時計の針は午後八時二十三分を指していた。


 廊下に出ると、父がいた。


「パパ、おかえり。いまご飯あたためるね」


「ただいま。いや、大丈夫。自分でやるよ」


「でも……」


「勉強してたんだろ。つづけなさい」


「うん」


「先にお風呂に入ろうかな。今日は暑くて汗かいたから」


「パパ、またお風呂のなかで寝ないでね」


「わかった」


 フミカは数学の復習を再開しようと机にもどったが、


(あ。まだ最上もがみくんに献立のお礼してない)


 とおもいだした。


 スマートフォンを取り出す。


〈鮭のホイル焼き、好評でした。ありが──〉


 送信。


 ヴヴヴ──


 返信あり。


「はやっ」


〈それはよかったです。お役に立てて──〉




   ×   ×   ×




「部活終わるまで教室で待ってます」




 ──フミカは部活後にドキドキしながら教室にもどってきた。


 おそるおそる教室のなかをのぞくと最上がいた。席にすわって本を読んでいるようだった。


「最上くん」


 その声に最上の背中が一瞬ビクッと動いた。最上は本を閉じると静かに立ち上がった。


「蘆毛さん。きてくれたんだ。ありがとう」


「うん」


「呼び出して、ごめん」


「うん……話って、なに?」


「ああ、話っていうのは……」


 最上は「ふうう」と息を吐いてから、つづけた。


「蘆毛さんが好きです」


「え……あ、ありがとうございます」


「できれば、いっしょに帰ってもらえますか」


「あ、はい……わたしでよければ」




   ×   ×   ×




(あれから二人で帰るようになったんだよなあ)


 すごい昔のような気がするが、じつはたった二週間前の出来事だった。


 それに「付き合ってもらえますか」ではなく「いっしょに帰ってもらえますか」だった。


(これってなんなんだろ? 彼氏彼女じゃ──ないよね)


 フミカは数学よりややこしい問題をかかえていた。

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