第7話 最上くんは目が光る

(僕だけ──僕だけがあしフミカの魅力を知ってるんだ)


 高橋タダフミはいきどおっていた。


 高橋は入学式のときから同じクラスの蘆毛フミカをみていた。


 クラスでも目立つほうではないフミカだが、よくみれば──短めにそろえられた前髪とすこしカールしたポニーテール、緑色を帯びた瞳、スカートからのぞく身長に不釣り合いなほど長い脚──などなど、常人では見過ごしてしまう魅力を、じつはそなえていた。


(そしてなによりも)と高橋はつよくおもう。(蘆毛フミカのなによりの魅力は制服の下に隠された──)


 普段は制服を着ていてわかりづらいが、高橋の目測で──推定F。すくなくともE──と踏んでいた。


 高橋はその道のプロであり、サイズの目測には自信があった。


(蘆毛フミカはおそらく学年で……いや、校内でもトップクラスの逸材)


 美術品を愛でる美術愛好家のような崇高な精神で、高橋はフミカのを視界の隅にとらえることを至福の悦びとしていた。その悦びのためだけにフミカとおなじテニス部に入部したほどだ。


(それなのに、なんなんだアイツは!)高橋は憤っていた。


 この日、部活で存分にフミカのを堪能した高橋は、一日のシメとしてフミカの後ろ姿を鑑賞しようと下校するフミカのあとを追った。しかしフミカの隣にいつもならいないはずの男子生徒の存在があった。おなじ一組のがみガモンだった。


(なんだよアイツ。蘆毛フミカは僕が手に入れる予定なんだぞ。横入りしやがって)


 高橋は苛つきながらもフミカのあとをつけた。横で自転車を押しながら歩く最上が邪魔だった。


 フミカと最上の二人が駅前まできた。おそらくここで二人は別れるはずだ。


 高橋は電車通学だったから、


(邪魔が入ったけど、電車のなかで蘆毛フミカを堪能するとしよう)


 とおもっていた。




   ×   ×   ×




「じゃあ最上くん。わたし電車だから」


「うん。今日はいっしょに帰ってくれてありがとう」


「うん。それじゃあ──」


 みると、最上が後ろを振り返ってなにかを睨みつけていた。フミカも最上の視線の先を追ったがとくになにもない。


「どうしたの、最上くん?」


「いや……」


 最上はすこし考えこんでいた。そして、


「蘆毛さん。もしよかったら明日もいっしょに帰ってもらえないかな」


「え? 明日も部活あるから遅くなっちゃうけど」


「待っててもいい?」


「え……うん……まあ、いいけど」




   ×   ×   ×




 最上が急にこちらを振り返ったから高橋はおもわず横道に入って隠れてしまった。


(僕があとをつけてたのがバレた? ……まさか)


 高橋は焦った。


 こちらをみた最上の両目が夜行性の動物のように光っているような気がした。高橋は正直、肉食獣にみつかった小動物のように、震え上がっていた。

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