UMAの本懐7

「その、ツチノコはどのくらいの大きさだったのかしら?色は?形は?」


 推理は矢継ぎ早に質問を重ねる。


「そんな近くで見た訳じゃねえからなんとも言えないが大きさはだいたい____」


 佐藤が答えようとするが、それを遮るようにして声をかけた。


「ちょっと、ストップ。推理先輩。少し良いですか」


 んだよと佐藤は不満タラタラな様子だが、そんな事を気にしている場合ではない。

 証言によっては彼らの見たものの正体の真贋を見極められるかもしれないのだから。


 俺個人としては、何らかの見間違いだとは思うが念のため。


 推理を木陰に招き寄せて耳元に口を寄せた。


「一斉に三人から聞くんじゃなくて、一人ずつバラバラに呼び出して聞いたほうがいいですよ」



「どうしてよ?」


 推理は俺の言っている意味が全く理解できない様子でそう答えた。


「三人は嘘をついているようには見えません。しかし、俺としてはツチノコはいない物だと思っています。先輩だって元々はツチノコが存在しない事を証明するためにこのイベントに参加した訳ですよね?」


 ツチノコはいない。UMAなぞこの世には存在しない。

 日本では太古の昔から、オカルトじみた事が信じられたきた。例を取ってみれば雨乞いだってそうだ。

 なんの科学的根拠もない。

 幽霊だってそうだ。

 現代の幽霊の目撃情報。なぜ、遥か昔の幽霊は存在しないのか、近代の服装の幽霊の目撃情報しかないのか?

 答えは簡単。誰かが無意識化に作り出した物だからだ。


「それは、そうだけど……」


 少し躊躇する推理の手に、メモ帳とボールペンを握らせてやる。


「なに、これ?」


「メモ帳とボールペンですけど?」


「そんなの見ればわかるわよ!どういうつもりかって聞いているの」


 推理は顔を赤くして、ムキになって反論をしてきた。


「三人それぞれに質問をした後、メモを残しておいてください。証拠を残すんです。それぞれの発言が食い違っていないか後で確認できるじゃないですか」


 嘘をついていないにしても、三人それぞれが勘違いや見間違いをしている可能性が高い。

 そうだったのならば、何かしらの矛盾が生じるはずなのだ。


「ふーん。なるほどね」


 推理は顎に手を当てがい、少し考え込むような仕草を見せた後親指を突き出し、サムズアップのポーズをしながら言った。


「グッドよ!さーすがっ私のパートナーね!」


「納得してくれて良かったです」


「で。探偵である私が証拠を集めている間に、パートナーの真悟は何をしているつもりなの?」


 俺の事を試すように、推理は片目を閉じて澄んだ瞳で俺を見定める。


「推理先輩が一人から事情聴取してる間、残りの二人が口裏合わせをしないように見張って置きますよ」


「ふーん。いいんじゃない。それはそれとしても___」


 片目は閉じたまま俺の足先から顔までをゆっくりと眺めた後、続けて「___具合はすっかり良くなったみたいね」と、言った。


「……たしかに、そうですね」


 推理の指摘通り、気がついたら車酔いはすっかり良くなっていた。いつ頃から良くなっていたのか自分でも気が付かなかった程だ。


「多かれ少なかれ、車酔いなんて思い込みの部分もあるのよ。違うことに集中すれば、案外酔わなかったりもするものよ」


「はあ。そうですかねぇ」


「そういうものなのよ。____じゃあ、戻るわよ。見張りはよろしくね」


「はい。わかりました」


 推理先輩は多人数の待つ崖に俺を残して、粗暴な坊主、伊藤を少し離れた場所に連れて行った。


 その間、他の二人の会話を注意深く聞いていたが、口裏合わせをしている、ような素振りは全く無かった。


 そして、次に、佐藤、有藤と順番に連れて行かれるが、同じくおかしな動きはなかった。


 そして___全員の聴取を終えた推理が戻ってきて、この場にいた人物達に解散が告げられる。


 推理の顔はやたら生き生きとしていた。


「推理先輩。どうだったんですか?」


「あの三人におかしな動きはあった?」


「いえ、ありませんでしたよ」


 俺の答えを受けて推理は、だだっ広い砂漠でオアシスを見つけた遭難者のような笑顔をむけて身震いをしてみせた。


「真悟。大変な事がわかったわ」

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