UMAの本懐4
役目を終えた推理は、綾と一言、二言交わした後、舞台からぴょんと飛び降りると一人でこちらへ戻ってきた。
「どうだった?私の晴れ舞台は」
なんて冗談めかして言ってくるが、本心なのか冗談なのか取りように困る所だ。
「突然だったから驚きましたよ」
「凄いかっこよかったです」
俺と葵木でほぼ同時にそれぞれの感想をかえすと、推理はニコリと微笑んで「ありがとう」と言った。
別に褒めた意図はなかったのだが。
「橋渡先輩はどうしたんですか?」
綾は推理と会話を交わした後、舞台袖に引っ込んでしまったのだ。
ただ単に着替えに行っただけかもしれないが。
「あー、それね。あの子ったら本当にだらしがないわよねー」
「だらしがない?それはどういう意味です」
「着ぐるみ着て動いてたら、具合悪くなっちゃったんですって。熱中症かもしれないわね」
「それ大丈夫なんですか?」
心配そうに葵木が推理の顔を覗き込む。
「雄馬さんも付いているし、大丈夫だと思うわ。あの子、昔からあまり強くないから」
「それだったら推理先輩が着ぐるみ着るの変わってあげれば良かったのに」
俺の主観にはなるが、推理はきっと体が強い。健康優良児。知り合ったこの一週間前後でそんな印象を覚えた。よく笑い。よく動き。よく話す。それが推理だ。
多少強引な所もあるが、決して悪いことだとは思わない。
「私だってそのつもりだったわよ。でもね、あの子が聞かなかったのよ。全く……
「つむぎ?」
先程も聞いた名前だった。たしか綾の祖父から出た名前だったか。
「綾の双子の片割れよ」
そう言い終えると、推理は身を翻した。それは彼女なり拒否。これ以上、この件については答えるつもりはないよという意思表示だった。
綾には兄妹、もしくは姉妹がいる。つむぎ。名前的には女の子っぽくはあるが、男である可能性も捨てきれない。
現段階でそのどちらなのか知りうる手段はないな。
後で、綾の体調が戻った時にでも聞いてみるか。
「じゃあ、行くわよ」
「はい」
言うやいなや推理は空き地の奥、ステージとは逆方向へと進み始める。その先には山があり、昔からツチノコの目撃談なんかもある山らしい。
さっき推理がステージ場で観衆に向かって話していた。
「あの、推理先輩ひとつ良いですか?」
そんな推理の背中に俺は投げかけた。
これだけは確認しておかなければならないことだ。今日の活動方針すらも揺るがしかねないその問は___
「結局、ツチノコは探すんですか?、それとも居ない根拠をさがすんですか」
推理はこちらに顔だけで振り返り、八重歯をキラリと光らせながら答えた。
「場面で」
場面で。それはつまり、行き当たりばったりと言う事だ。成り行き任せで、成るように成る的な言葉。逆を返せば何も考えてないよと言うことでもある言葉であるが。
「もしかして葵木の話を聞いて、もしかしたらいるんじゃないか?とか思い始めてませんか?」
「さあ、ごちゃごちゃ言ってないで、痕跡を探しに行くわよ!」
「ちょっと推理先輩?」
きっと図星だったんだ。だからなにも答えない。お構いなし。砂利の引かれた道に踏み出す推理。仕方無しに俺もその後に続くが葵木は立ち尽くしたままだった。
少し不思議に思いながらも数歩先を進んでいた葵木追い越そうとした瞬間、葵木は声をあげた。
「雨宮先輩。阿部君。僕、やっぱり橋渡先輩が心配なので、少し様子を見てきます」
「あらそう。じゃあ綾の事は葵木君に任せるわね」
「はいっ!」
推理の返事を聞くなり、葵木はステージの方へと走り出した。
そして、葵木の姿がステージ裏に消えたタイミングで推理はポツリと漏らした。
「葵木君は綾狙いだったのね。中々いい趣味をしているわ」
「えぇ!?そうだったんですか?!」
葵木と一緒に過ごしていて、そんな素振りがあるなんて全く持って思ってもいなかった。寝耳に水ってやつだ。
「綾は可愛いし、何と言ってもほら……胸があれ、じゃない?そりゃ男子が放っておかないわけよね。まあ、葵木君ならお目付け役の私も口出しする必要もなさそうだけど」
言いながら推理は胸を突き出して見せた。あなたも負けず劣らずの物をお持ちですよ……とは口が裂けても言えるはずがない。
「はははは」
笑って誤魔化すのが精一杯ってやつだ。
「じゃあ、綾の事は葵木君に任せて、私達はあっちに行くわよ。ツチノコの痕跡をさがしに」
言って推理は不敵な笑みを浮かべ、山を指差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます