破滅ルート回避の為に令嬢は頑張ります(仮)

@baka1

第1話始まり

暗い暗い暗い意識の中、明るい光が灯される。暗い所が嫌いな私は重たくて動きにくい四肢を動かしてその光へと向かって手を伸ばす。必死に、必死に、必死になってまるで空を飛ぶ虫みたいに私は光の方へと手を伸ばした。


 けれどいくら手を伸ばしても、どれだけ体を動かして前へと進もうにも決してその光の先へと手は届くことはなかった。待って、待って、と声を上げても光はだんだんと薄れていき、まるで遠ざかっているようであった。


 体が重くて、息が苦しくて海に溺れてしまいそうな感覚に頭の中は何も理解出来ずに、そのまま暗い世界の中で私は意識を失った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 重苦しい瞼をゆっくりと開けて私は目を覚ました。

 目に入って来たのは散った花にも葉にも連想させる模様が入った知らない天井であった。


 柔らかくて暖かい布団を肌で感じながら体を起こそうと利き手である右腕を支えにして起きあがろうとした。

 けれどある筈の右肘から先の動かす感覚もない為、仕方なく左腕を使ってふんわりと沈む高級そうなベッドからゆっくりと起き上がった。


 やはりと言うべきなのか、次に見た物も広々とした見知らぬ部屋。部屋は黒色が印象強く、部屋の壁には黒と白で花の絵柄で埋め尽くされ、タンス、椅子、机、布団、寝巻きすらも黒色をベースにカラーリングされており部屋が黒一色と思える程に黒が目立つ。

 幸いにも女の子ぽくピンク色をした兎のぬいぐるみとかや茶色テディベアがベッドの中に顔を出して置いてあった。


 全く知らない赤の他人の部屋に居ることが確認出来て、次は身体に異常が無いかを確認する為に自分の腕を見た時、自分の右腕が無い事に思考が急停止した。

 息が苦しくて、左腕が震える。本来在るべき筈の右腕が無い事に恐怖の余りに叫んでしまいそうであったが寸でのところで叫びを抑える。もしもこれが誘拐の類なら誘拐犯を起こしてしまい逃げ出すチャンスを失うかもしれない。落ち着け私、落ち着け私。

 頭を冷静に保ちすぐさまに脚の方に異常がないか確認して、光が刺す窓の近くに置いてある鏡で外見に変化が無いかを調べる。

 ゆっくりと慎重にベッドから降りて鏡に向かって自分の姿を確認する。


「え、これが私?」


 ぼそっと自分の姿を鏡で見てそんな声を発した。まるで夢を見ているような、そんな驚くべき私の姿。いやこの姿を見て驚かずにはいられない。


 鏡の前に立っていたのは黒色をした艶のあるロングヘアーにぱっちりとした黒い瞳。日に余り当たっていないのか白々しいスラリとした綺麗な体。まさにゲームやアニメのキャラクオリティーの究極が生み出したとしか思えない美少女が私を映し出していた。


 本当に自分なのか再確認する為に左手で自分の頬を軽くつねってみる。ちょっとだけ痛かったけど、鏡も同じ動き同じ反応からしてこれは私だと思うことができた。

 それにしてもこの顔何処かで見覚えがある。確か、最近やっていたあの『聖女と七つ』で悪役令嬢の、


 何かを思い出す寸前、頭が割れてしまうような激しい痛みに襲われた。あまりの痛さに立っていられずにその場に座り込んでしまう。左手で頭を抑えようにも痛みは止まない上に痛みが増して酷く頭が痛い。


 聖女、攻略対象、リンギング王国、魔法、破滅…………


 次々と頭の中に何かが焼かれるように記憶の奥底に眠っていた前世の記憶が単語となって蘇っては今世の記憶とゴチャゴチャにかき混ぜられて頭の中に焼かれる。痛みが止まず、続く痛みに頭が蝕まられながら手で深く頭を抑えた。


 痛い、痛い、痛い。誰か助けて、助けて!助けて!!


 苦痛の叫びと共に心の底から助けを願った。それでも言葉は言葉にできない叫びとなり鳴り止まない痛みの音色が頭をかち割るほどの苦しみを与え続けた。


 誰かの声が聞こえた気がした。けれども痛みの中では私に言葉は通じず、姿も涙か溜まってぼやけてしまう。ただそこに誰かが居ると思うと、咄嗟に左手で服であろう布を掴む。助けを求める為に、助けて欲しいが為に強くギュッと布を掴んだ。

 長い酷い痛みを耐え凌いだ時、前世の記憶の最後であるピースが埋まるように頭の中に記憶として焼かれる。

 そしてようやく…、


「大丈夫ですか!お嬢様。」


 近くに寄り添ってくれた自分の専属であるメイドの声が聞こえた。

 瞼に溜めていた涙を溢し、ぼやけていた彼女の姿形に鮮やかな色合いが付き、表情までもはっきりと分かるようになった。うぅぅ、これは心配させ過ぎちゃったな。


「大丈夫。心配しなくても今さっき頭痛は収まったばかりだから、もう平気。」


 涙を左腕で拭い、平気だと伝える為に少し笑って見せる。

 正直に言えば少しばかり頭痛がするし、目も眩んでいる。苦痛の後にやる嘘の笑顔はとても酷く、きっと苦笑をしているようにしかいないだろうな。多分、私が我慢して笑顔を見えていることが彼女にはバレているかもしれない。


 案の定、メイドの彼女には私が我慢していることはお見通しのようで「ご無礼を失礼致します。」と私をお姫様抱っこで持ち上げて動物のぬいぐるみが陳列しているベッドに再び戻った。

 そしてパタパタと私をベッドに寝かせて布団を被せられた。頭にヒヤリとした何処からともなく現れた濡れた布を載せられ、「それでは朝食を作り致しますのでお嬢様はごゆっくりお休み下さい。」と綺麗な一礼をして部屋から出て行った。

 私の専属メイドさんってキッチリしているなと私の中で感心した後、ふかふかなベッドと暖か布団に挟まれて思い出した私の前世の記憶を整理する。


 蘇った前世の記憶を順序よく整理すると、前世の私はどうやら平凡で卒業間際の女子高生だったらしい。平凡と言っても友達の一人もいないボッチのステータスを持った、只のゲームオタクである。それでも一応は生活にはゆとりがあったらしく自由気ままで順風満帆な私生活を行なっていた。

 いつものように学校帰りの帰路で横断歩道を渡っていると、赤信号なのに車が走るスピードと変わらない大きなトラックが私に突撃してきて、そのままトラックに私は撥はねられたらしい。

 何とも言えない呆気ない終わり方であった。まだ成人にもなっていないし、親孝行もしていない。凄く泣きたい気分だ

 こんな死かたに異議を申し立てたいが死んでしまってはもう遅い。過ぎた時間は巻き戻せない。私は前向きにこの転生を受け入れるべきなのだろう。いや受け入れるしかない。

 まあ、問題は私が転生した先なのだが……、


 私が問題視しているのは自分の転生先黒髪黒い瞳の見た目が神にでも作られたかと思うぐらいの美少女、ディア・エスタークは私が死ぬ前に攻略した乙女ゲーム『聖女の魔法と七つの光』通常、『聖女と七つ』の登場キャラであり、主人公と対立する悪役令嬢であった。


 そう、悪役令嬢なのだ。主人公が幸せハッピーエンドでしかないのと対照的に破滅バッドエンドしかない悪役令嬢。

 主人公に数々の嫌がらせをし、途中は主人公たちの仲間になるが最終的には敵に寝返っても主人公の殺害までも試みた残酷な悪役令嬢だ。

 勿論、主人公と攻略対象にやられてしまう。最後は罵詈雑言を民衆に吐かれながら彼らの前で虚ろな目をしたまま斬首されるイラストは見ていて心にくるものがあった。


 いやいや、なぜ私は感傷に浸っているのだ。それが今から私の歩む道に成るかもしれないのだから呑気にしている暇はない。


 そうだ変えるのだ。前世を思い出した今ならこれからの人生が変えられる筈だ。何せ全攻略対象のストーリーから全エンディングまでクリアしてたのだ。

 この記憶させ有れば私の破滅エンドルートは回避が出来るかもしれない。主人公がハーレムになっても構わない。取り敢えず破滅フラグを全て折って、安定した順風満帆の私生活を送る為に今日から色々と頑張るんだ。

 最終目標を決めて、私は自身のメイドが朝食を作り終えるのをベッドの上でゆっくりと天井のシミをを数えてながら大人しく待っていた。

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