空の上のにわとり

紫蘇ジュースの達人

第1話 空の上のにわとり

南の海の果てに、モロイ島という島がありました。


この島の人々はみな、食べるものは自分の畑で育て、にわとりや牛や豚を飼い、自然とともにくらしていました。


ヤソブは島で暮らす7人きょうだいの末っ子です。


ヤソブにはヒナから大切に育てていたにわとりが1羽いました。毎日一緒に起き、一緒に寝て、出かける時は肩に乗せました。ヤソブとにわとりはいつも一緒でした。


ある日、ヤソブが大切に育てていたにわとりが死んでしまいました。


ヤソブは島のはずれにあるながめの良い丘の上におはかを作ってやりました。


「ぼくの大切なにわとり、今まで一緒にいてくれてありがとう。おまえのおかげでぼくは今日まで元気に過ごすことができたよ。どうかゆっくり休んでおくれ。」


ヤソブは涙をふきながら、もと来た道を戻り、丘を下っていきました。


丘を下る途中、おばあさんが何かをつぶやきながらじっとヤソブを見ていました。


「レニーばあさんだ。」


島の大人たちは、レニーばあさんには近づいていけないと、子どもたちに言ってきかせていました。あやしげなお祈りをしたり、昔大きな国の国王に仕えていたことがあるという嘘を言ったりするので、島のはずれに追い出されたのです。


「ヤソブよ。魂は、深くむすばれておる。悲しむことはない。いのちはめぐるのだ。」


ヤソブはおばあさんと目を合わせないように、足早に坂道を下っていきました。


その夜ヤソブは夢を見ました。あのにわとりの夢です。



死んでしまったにわとりの体から魂が出てきて、ゆっくりと空の上にのぼっていきます。


空の上には大きな森があって、泥だらけのにわとりが10羽いました。にわとりたちは順番に死んでしまった者たちの魂を食べて、たまごを産みます。


産み落とされたたまごからかえったヒナが1羽、ヤソブに近づいて言いました。


「わたしはあなたに育てられたにわとりです。わたしはまたあなたに会いたい。ここで約束しましょう。わたしたちがまたいつか必ず会えるように。」


ヤソブはヒナを抱きしめて、うなずきました。


「約束だ。いつかまた必ず会おう。僕たちはいつも一緒だ。」


目が覚めるとヤソブは泣いていました。




月日は流れ、ヤソブは少年から立派な青年になりました。


少年の頃は毎日のように行っていたにわとりのお墓にも、ひと月に数回になり、だんだん回数が減り、いつの間にか全く行かなくなっていました。



今日はヤソブが島を出る日です。島中でヤソブの新しい旅立ちを祝います。


「父さん、母さん、僕を立派に育ててくれてありがとう。これから大きな町に行って、大きな仕事をしてみせるよ。」


「体に気をつけるんだよ。そうそう、カニレおばさんがあんたににわとりを1羽くれたんだよ。この子さ。」


「おばさんには悪いけど、都会にはにわとりは連れていけないよ。」



ヤソブはにわとりをじっと見つめました。にわとりもヤソブをじっと見つめます。



「おまえ、一緒に来るかい?」


にわとりはしばらくじっとヤソブの目を見てから、勢いよくヤソブの肩に飛び乗りました。


「父さん、母さん、行ってきます。」


ヤソブはにっこり笑ってにわとりを抱きしめると、港へと歩き出しました。



島の人々は、ヤソブのために島の歌を歌いました。


「たとえ忘れていたとしても、魂はまためぐり合う。空の上のにわとり。森での約束。魂はまためぐり合う。何度でも。」


おしまい

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空の上のにわとり 紫蘇ジュースの達人 @ryogon

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