櫻川さんは、サクラがお嫌い。

新佐名ハローズ

櫻川さんは、サクラがお嫌い?

 

 

 私は、サクラが嫌いだ。


 誤解無きように補足すると、サクラなんぞ滅んでしまえという過激派では決してない。


 ただ世間一般がこぞって持て囃すように、自分自身の心が踊らないというだけの事。


 咲き誇るサクラの下で楽しげにしている人達には何の罪もなく、自らの主張を押し付けるような無粋な真似は微塵もする気が起きない。


 ……あぁ、川辺のサクラ並木でイチャコラしてるク◯カップル共には内心イラッとしてたけどね。


 これはもうしゅを継いでいく生物として刷り込まれた本能的なもんだから、止むなしだ。


 しかしまぁ……


「誰やねん、この世界にサクラ持って来よったやつ」


 うららかな春の小川にこれでもかと存在を主張する満開のサクラサクラサクラ。あっちにもこっちにもサクラまみれ。


 そんなサクラを間近に見られるオープンカフェスペースには窮屈にならないギリギリの密度でテーブルが置かれ、老若男女な紳士淑女の皆様方でみっちりとお詰まり中。


 サクラ激推しなんだから和カフェかと思ったら残念、店舗自体も外に置かれたテーブルも普通に洋風。


 今はサクラが見頃で置いてないけれど、普段のこの店には野点傘のだてがさという日除けのデッカい和傘がテーブル毎にドヤ顔で立っている。何故かそこだけは和要素を猛アピール。


 現地人としては全然違和感ないらしいから、あのチグハグさ加減が気になってるのは元々こっちの世界生まれじゃない私ぐらいみたい。


 異文化の扱いなんて地球でも同じようなもんだろうし、これ以上とやかくは言うまい。


「……真偽の程は知らぬが、商会を興して後に男爵となったヨシノリ・ダガーヤが広めたと言われている。どこから持ち込んだのかまでは商売上の秘密だという理由で最後まで明かさなかったらしいぞ?」


 私の向かいに座ってドカ盛りのパフェを淡々とパクつく、小柄で青髪の鬼っ娘が琥珀色の蛇眼をこちらに向けながら、無表情にしか見えない顔で言ってくる。


 彼女は雷神姫らいじんきという異名を持つ鬼族のサッサーラ・エモラ。自らを風神や雷神なんかに連なる神の末裔だと信じて疑わない一族に嫌気がさして小国から飛び出した、生粋のお嬢様だ。


 なんでも国の中枢に関わる五大勢力のうちの一派の生まれだとかで。本人が細かいことを話したがらないからそれ以上は分からずじまい。


 稀に同族の人と遭遇すると、ひと目見ただけで相手側がビビり倒してたりするから、実家は相当な名門か逆に武闘派とかで名前が轟いているのかも知れない。


 それにしても、ダガーヤはともかくってのはどう考えても日本人くさいよねぇ。目の前に咲いてるこれ、ソメイヨシノっぽいし。


 植物生成だか異次元召喚だか特殊スキルなんだかは知らんけど、何かしらの手を使ってこの世界にサクラを持ち込んだのか。


 花びらもド派手にわんさか咲くから、お貴族様の好みにも何かにつけて酒飲んで騒ぎたい庶民にもハマる。


 商会立ち上げてるぐらいだし、そのヨシノリさんとやら元々は営業とかだったんじゃなかろうか。

 

 

 

 

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