第101話 綺麗なお顔……

 深夜になって戦勝パーティーが終わった。


 眠い目をこすりながら用意された部屋に入ると、ドアに備えづけられた鍵を三つほどかける。窓は鉄格子が付けられていて侵入できないようになっていて、ちょっとした牢獄のようだ。


 お酒も飲んじゃったからすごく眠い。


 スーツを脱ぎ捨てるとソファへ投げ捨てる。靴やズボンも脱いで下着姿になると、鍛えられた肉体が露わになった。


 腹筋は割れていて胸や腕は引き締まっている。


 男らしい体で誰かに自慢したくなるけど、間違いなく襲われてしまうので自重しなければいけない。ちょっと残念だけど、安全のためには必要なことだから我慢する。


 クローゼットから寝巻きを取って着替えるとベッドに倒れ込む。


 疲れが襲ってきて半目になり「もうすぐ寝るな-」と思っていると、部屋中にスーッとする爽やかな香りがしてきた。


 どこかに芳香剤みたいなものがあるのだろうか。


 頭がふわふわしてきて気分が良い。


 安眠効果もありそうだ。


 さすが王家が用意した部屋だね。気づかいが一流だよ。


 明日になったらイザベル王女に感謝の気持ちを伝えようと思う。


 きっと喜んでくれる――ッ!?


 鍵をかけたはずのドアが、キィと音を立てながらゆっくりと開いた。


 誰が入ってきたのか確認するために起き上がろうとしたけど、体が動かない。


 ドタドタと数人分の足音が近づいて内心焦ってしまう。


 逃げなきゃ! と思っても、金縛りに遭ったみたいに脳の命令を受け付けてくれなかった。さらにこんな状況だというのに意識が薄れてきた。


 これは眠気じゃない!


 薬で気を失う直前なんだ!


 もしかしてレベッタさんたちが襲いに来たのかな。


 だとしたら僕の貞操がヤバイ、危険だ。


 初めては、もっと違う形でお願いしたかったんだけど……って、え!? 視界が真っ暗になった。


 頭に布を被させられたみたい。


 顔を隠してプレイする気なの!?


 ちょっと上級過ぎないかなッ!!


「ミ――ェ――様、――――縛って――――行く」

「そう――――う。すぐに動――――さい」


 頭をすっぽりと覆い被さっている袋のせいで会話は中途半端にしかわからなかった。


 声からしてレベッタさんたちじゃないし、ルアンナさん、イザベル王女といった貴族の方々とも違う。でも全く知らないわけじゃなく、どこかで聞いた気がする。


 なんだか思い出せそうな気もするんだけど、薬によって思考が鈍っているので答えには辿り着けなさそう。抵抗する気力はおきない。


 なすがままにされていると、手足を縛られた。


 続いて、ふわっと体が持ち上がる。


 肩に乗せられたみたい。どこに行くのか知りたかったけど、意識が遠のいていく。


 どうしよう。


 僕は誘拐されてしまったみたい。


 * * *


 意識が戻って重い瞼を上げる。


 薬の影響が残っているみたいで、頭はぼーっとしている。何かを考えるなんてできず、ゆっくりと体を持ち上げて部屋を見た。


 壁や床、天上まで石で作られている。小さな木製のテーブルと椅子が一脚、右側に窓がある。外を見ると海が見えた。高さからして四階か五階ぐらいの高さだろうか。


 襲ってくる眠気に対抗しながらベッドを降りて、窓の前に立ち、下を見る。


 森が広がっていた。


 体を乗り出して左右を見ると森と海しかない。


 もしかしてここは島なのかな?


 世界地図なんて見たことないから、どのぐらい移動したか想像すらつかない。


 異世界に来てからずっと一緒にいたレベッタさんがいないだけで、すごい孤独感を覚えて不安になってしまう。


 もしかして世界で僕一人しかいないんじゃないか。


 そう思ってしまい必死に人の姿を探す。


 少し離れたところに井戸があった。


 水をくんでいるシスターの姿がある。


 それだけでほっとした。


 真っ白な法衣服を着ているシスターさんは、水が入った桶を抱きかかえるようにして持つと、僕がいる建物の方へ向かって歩く。フラフラして危なっかし……くはないか。この世界の女性は力強かったのを思いだす。


 見た目はほっそりとしているのに、地球にいた頃の成人男性よりも強いのだ。


 シスターさんは桶を落とすことなく建物中に入って姿が見えなくなった。


 どうやらここはには、僕以外の誰かも生活しているらしい。


 一人じゃなくて良かった。


 安心したので振り返ってベッドに横たわる。


 体内に薬が残っているのか、また意識が遠のきそうになった。


 寝ているのか、それとも起きているのか、わからない。


「綺麗なお顔……」


 頭を撫でられている。優しい手つきだ。小さい頃、母さんに優しくしてもらっていた時を思い出す。


 なんだか安心する。


「こんな素敵な男性なのに、どうして冒険者なんて野蛮な仕事をさせていたのか理解に苦しみます。テルルエ王国から助け出せて本当によかった」


 彼女が僕を誘拐した犯人のようだ。


 貞操を狙うようなことはせず、また暴行をするつもりもない。守るためにいる。そんな感じがした。


「準備を進めているので、もう少しお休みください」


 頭から手が離れて去って行ってしまった。


 名残惜しさを感じたまま、僕は深い眠りにつく。


 次に目覚めたら薬の影響が抜けていると良いなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る