第99話 さあ、行くよ

 応接室で一通り騒いだ後、スカーテ王女が迎えに来た。


 首まで隠れる純白のドレスを着ていて一瞬清楚な印象を受けたけど、隠しきれないほどの大きな胸があるせいで何となくエロティックな雰囲気が漂っている。すごいバランスだ。


 頭に付いた王冠には赤い宝石がいくつもついており、正面には大きいものがある。第三の目みたいなデザインだ。


 優雅に歩いてくると僕の顎を指でくいっと上げる。スカーテ王女の顔が近づいた。


「準備は出来ているようだな。イオディプス君、いつも以上に綺麗だよ」


 顔が赤くなるほどドキドキしてしまった。


 こんな魅力的な人と子作りしても良いのだろうか。もっと他に相応しい男がいるんじゃないかって自信を失ってしまうほどだ。


「ありがとう……ございます」


 少し言葉に詰まってしまったけど、スカーテ王女は悪く捉えず微笑んでくれた。


「良い子だ。さ、会場へ行こう」


 手をつないで歩き部屋を出て行く。レベッタさんたちは後ろにいる。


 いつもなら空いている手の争奪戦が開始されるはずなんだけど、今日に限って大人しい。王侯貴族の集まるパーティーだから緊張でもしているのかな?


「大人しくすれば子作りし放題。我慢、我慢……」


 あ、違った。スカーテ王女と取引をしていたみたいだ。


 なんか僕を通り越して話が勝手に進んでいるみたいだけど、これで丸く収まるならいいやと思った。もう、みんなの共有財産扱いで良いから仲良くしてねって感じ。


 絨毯が敷かれた長い廊下を歩いていると、数人の着飾った女性たちとすれ違う。


 獲物を狙う鋭い視線をぶつけられていたけど声をかけられることはなかった。


 スカーテ王女という存在が守ってくれているのだ。レベッタさんたちがおかしいだけで、王族としての権威はしっかりあるみたい。


 大きな両開きのドアの前に立つ。


 左右に男装の女性がいた。


「私がエスコートするから君は何もしなくても良いよ。安心してくれ」


 優しい声をかけてもらいながら背を撫でられているとドアが開いた。


 会場の左右にテーブルが配置されていて、貴族の方々が食事やお酒を楽しんでいる。天上には小さめなシャンデリアが複数個付いていて、温かい光を放っていた。


 中心はぽっかりと空間が空いていて数人がダンスをしている。バラード調の音楽が流れているので、どこかで演奏している人がいるんだろう。


「スカーテ王女様、イオディプス君様ご一行の到着です」


 男装の女性たちが声を揃えて宣言すると音楽がピタリと止まって、ダンスをしていた人たちはさーっと会場の端へ移動した。


 みんな静かにしていて視線が僕に集まっている。チクチクと物理的な痛みを感じるほどだ。


 これならザワついていた方が良かったかもしれない。


「さあ、行くよ」


 手をつないだまま中に入っていく。


 助けてくれた人たちに恥はかかせたくないので、緊張はしているけど背筋を伸ばして堂々と歩いている。


 かっこよく見えているか気になって近くにいる少女を見る。気を失って倒れてしまった。


 他の人が支えてくれたので大事には至ってないけど……あ、また別の人と目が合ったら倒れた。


「どういうこと?」


「君みたいな魅力的な男性を見て気を失ってしまっただけだ。今頃は幸せな夢でも見ているだろうから、そのままにしてやれ」


 確かに気絶した貴族の女性は涎を垂らしながら、だらしなく笑っていた。


 本人が幸せなら良いか。


 前を向いて歩き続けているとパーティー会場の奥についた。振り返ると「あぁ……」という声が聞こえるのと同時に、バタバタと女性たちが倒れていく。貴族の方々だと思うんだけど、男性耐性が低すぎない!?


「今日のイオ君は普段の二倍以上の魅力がある。当然の結果」


 ぼそりとヘイリーさんが自慢げに言った。


 ありがとう、といった意味を込めて手に触れておく。


「みなよく集まってくれた! 感謝する!」


 会場に凜とした声が響き渡ったると、気絶をしていた数人が起き上がる。気付けの効果もあったみたいだ。


 王族になればこんなこともできるのか。


「早速だが私の隣にいる男性を紹介しよう。彼の名前はイオディプス。男性で初となるSSランクスキル持ちだっ!」


 ついに会場からどよめきが聞こえた。


 他国にも僕のスキルが知れ渡ってしまったので、隠すのではなく広めることにしたみたいだね。狙いはよく分からないけど他国へのけん制ぐらいにはなるのかな。


「婚約者は決まっているのですかっっっっ!!」


 十歳ぐらいの少女が手を上げてスカーテ王女の言葉を遮る。無礼だと思うんだけど誰も気にしていない。むしろよく言ったと周囲は賞賛を送っているぐらいだ。


 男が絡むとマナーとか常識とか、そんなものがよく吹っ飛ぶ国だなぁ。


「かわいい見た目、最高のスキル持ち、そして女性に優しい性格をしているイオディプス君を結婚で縛るなんてもったいない! 我が国が適切に管理させてもらう予定だ」


「ということは、私たちにもチャンスがあるんですね!!」


 肯定する代わりにスカーテ王女は満面の笑みを作った。


 会場の熱量が一気に上がる。


 争奪戦が始まりそうな剣呑な雰囲気になってきたぞ。僕の危機センサーが作動し始めたとき、パーティー会場の入り口に人が立っていることに気づく。


 真っ白な生地に金のラインや模様が入った法衣を着ている金髪の女性だ。頭には同じ色の帽子があって、手には水晶の入ったロッドがあり首には……え、嘘、あれってもしかして……男根のネックレスがぶら下がっている。脳の処理が追いつかない。


 理解できない存在の登場に、助けを徒揉めるようにしてスカーテ王女を見た。


「これは聖女ミシェル様。お越しいただいて感謝します」


 男根のネックレスをした女性が聖女!? 性女じゃなくて!?


 この世界の謎が、また一つ深まった気がした。



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