第86話 最後までヤってたぞ……

「謝らないでください。僕が悪いんですから」


 正確に言うなら襲ってきたダイチなんだけどね。この場にいない相手を責めても仕方がない。


 だからこの手で捕まえて、責任を取らせるつもりだ。


「先ほどの話ですが、いいですよ。協力します」


「大丈夫か? 危ない仕事になるぞ?」


 心配してくれているようでスカーテ王女が純粋な気持ちで聞いてくれた。


 男どもは女性に守られることを当然だと思っていて、危険な仕事には就きたがらない。いや、働くのですら拒否する。無職がスタンダードだから、念押ししたくなる気持ちはわかる。


「この程度の危険なら問題ありません。僕はこの国にいる女性が全員幸せになって欲しいんです! そのためなら何でもやりますよッ!」


 いつもなら恥ずかしくて言えないことも、今ならちゃんと伝えられる。コミュニケーション能力がレベルアップしたみたいだ。


 大人になったのだーー!


 僕は、もっといい男になれるぞーーッ!


「イオディプス君っ!!」


 急にスカーテ王女が抱きしめてきた。色々と柔らかく、また年上の女性が発する包容力みたいなものを感じて嬉しい。


 彼女の口が耳に近づく。


「君と出会えて良かった。ありがとう。大好き」


「僕も好きですよ」


 好意に対しては好意を返す。


 当たり前のことだから素直に伝えた。


 腕に力が入ったように感じたけど、スカーテ王女は押し倒すようなことはしない。すぐに体が離れる。


 さすが王族だ。感情のコントロールがレベッタさんたちよりもできている。


「危なかった。イザベル王女がいなかったら最後までヤってたぞ……」


 ぼそぼそとつぶやきながら、スカーテ王女はワインボトルを手に取ると一気に飲み干した。


「ぷはぁ!」


 唇に付いた赤い液体を手の甲で拭う。ワイルドだ。マナー違反な気がしたけどいいのかな。


「イザベル王女、話は聞いたな?」


「それよりもさっきの抱擁は何? 見せつけたの? 結構、むかついているよ?」


「王女として自国民に愛を伝えただけだ」


「……ずるい。私も欲しい」


 スカーテ王女が自慢げな顔をした。同盟国相手に張り合ってどうするの。可哀想じゃないか。


「イザベル王女もやります?」


「「え!?」」


 なぜか二人に驚かれてしまった。


 未確認生物を見つけたときにするような、マジ? って顔だ。


 待っていても来ないので、僕の方から隣に座ったままのイザベル王女を抱きしめる。


「どどどどどうして!?」


「他国にまできて問題解決に奔走している王女様へのご褒美です。受け取ってもらえますか?」


「ももももももももちろん! このまま結――ぶふぇ」


 スカーテ王女がイザベル王女の首を絞めていた。


 同盟解消されるぞ。


「暴力はダメです」


「でも……」


「みんな仲良くしましょうよ」


 イザベル王女を解放すると左右にいる二人を交互に見てから、肩に腕を乗せて抱き寄せる。


「もっとワイン飲みます?」


「うん」


 スカーテ王女がパチンと指を弾くと、侍女がワインボトルを持ってきた。グラスに注ぐと僕の口に持ってくる。


 どうやら飲ませてくれるようだ。


 口を開けてるとグラスが傾けられて入ってくる。味はわからないからゴクゴクと飲んでいく。


 また胃が熱くなったけど気のせいと言うことにしておいた。


「それで何をすればいいんですか?」


 僕はスキルブースターを使うぐらいしか価値がない。どうすれば役に立つのかさっぱりわからない。


「ダイチは男だけが人として扱われる国を作ろうとしている。それに反対する君は邪魔者として即刻排除したいはずだ」


「女性の素晴らしさに気づけない哀れな男が狙ってくると。そう言いたいんですね」


「う、うむ」


 褒めたらイザベル王女の頬が赤くなった。かわいい。


 腕に力を入れて密着度を上げた。ああ、幸せ!


 なんか二人の体から漂ってくる甘い匂いが強くなったみたいだけど、心地良いから問題ない。全部受け入れちゃうよ!


「それでだな……ダイチの居場所を見つけたら一緒に来てくれないか。イオディプス君を見つけたら逃げずに戦おうとするはずだ」


「囮みたいな仕事をすれば良いんですね」


「いやか?」


「そんなことありません。女性の盾になれるんだからむしろ歓迎です」


「そう言ってもらえると嬉しい。暗殺スキルを持つヘンリエッタも同行させるから絶対にケガはさせないぞ。その点だけは安心してくれ」


「心強いですね……ってあれ? ダイチはスキルを無効化させる能力ありませんでした?」


「スキルキャンセラーの話だな。あれは効果の維持に莫大な体力を使う。ここぞと言うときにしか発動させないので、重要な局面でない限り使わない」


 この話には一定の説得力がある。ダイチと戦ったときも最初はスキルキャンセラーを使わなかった。僕が援護をしようとしたときからだったはず。あとシャナルンだっけ? あの女性が範囲を拡大しない限りは、接触しないと効果を発揮しないと聞いている。意外と不便なようだ。


「他にも認識できてない相手には効果を発揮しないという欠点があることもわかった。イオディプス君とは違って比べて、つけいる隙の多いスキルなんだよ」


 だったら何も心配はいらないね。堅い話は終わりにして三人で今の時間を楽しまなきゃ。


 ご飯をお腹いっぱい食べたら、同じベッドで横になってたわいもないはなしをする。枕投げとかして楽しむのも良いかも。眠くなるまでずっとおしゃべりするんだ。


 僕が前世で夢見ていたやりたいことリストの一つ。


 お泊まり会をするぞー!


 と思っていたら急に意識が途切れてしまった。



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