第85話 手を出したら戦争だからな

 頭の位置が定まらず、前後左右にフラフラと揺れている。


 今日は風が強いのかな?


「良い感じに酔ってきたな」


「イザベル、手を出したら戦争だからな」


「わかっている。だが、少し触るぐらいは良いだろ? むろんスカーテと一緒にだ」


「…………いいだろう」


 二カ国の王女が力強く握手をした。


 何を話していたのかよくわからないけど、仲が良いことは喜ばしい。平和で穏やかな日々というのは脆く壊れやすいので、ことの大小は別として、意識して行動しないとすぐに人は争いあってしまうからね。


 優しい気持ちになっていると王女の二人が僕を見た。


「笑顔もかわいいな」


「うむ。食べてしまいたくなるほど愛おしい」


 急に褒められて嬉しけど過剰評価だ。

 少しでも男を手に入れるためなのか、この世界は綺麗な女性が多い。


 レベッタさんを見たときは芸能人のような顔立ちに見蕩れてしまったほどである。もちろん王女だって負けていない。頼りがいもあるし、見た目も中身も僕なんかよりも評価されるべき人たちである。


「ありがとうございます。お二人とも綺麗ですよ」


 お礼を言ったら二人とも固まってしまった。

 目を開いたまま動かない。


「スープです」


 王女に異変が発生しているというのに侍女は気にしていない。配膳してくれている。


 置かれた皿には黄色いスープが入っている。香りからしてカボチャみたいな味がしそうだ。


 飲んでみたいと思ったけどスプーンが見当たらない。これから持ってきてくれるのかな。


「食べさせてあげるね」


 ルアンナさんが隣にきてくれた。手にはスプーンがあって黄色いスープをすくう。


「あーーん」


 何の疑いもなく口を開いた。


 止まっていた王女たちが立ち上がった。スープが入ってきたので慌てて口を閉じる。甘くとろみがあって美味しい。意外なことにちょっと冷たかった。


 味わっているとスプーンが抜かれた。


「今日は重要な話があるんですよね? ちゃんと大人として振る舞ってください」


 勝ち誇った顔をしたルアンナさんが食堂を出て行ってしまった。


 侍女たちやヘンリエッタさんまで追いかけてしまい、三人だけが取り残されてしまう。


 護衛はいらないの? 配膳はどうするの? 王女たちにスープがないんだけど!


 僕もスプーンがないから何もできない。


 しかたがないのでワインを飲み続ける。

 運が良いことにボトルは置きっぱなしなので飲み放題だ。


「スカーテどうする?」


「スプーンぐらいくれてやれ。我々には本命が残されている」


 立ったままだった王女が椅子を持つと僕の左右に座った。


 良い匂いがする。


 権力者とは仲良くなれば色々と融通が利くことは、レベッタさんが起こした騒動から学んでいる。


 そして僕は貴重な男で高貴な方に対して多少失礼なことをしても許される身分だ。


 二人の肩に腕を回して抱き寄せる。こんな大胆なことをしても怒られないのだッ!!


 ほら。驚いているけどいや嫌な顔はしていない。むしろ喜んでいるようだ。


「お話って何ですか? レベッタさんの件を不問にしてもらえた恩があるので、僕が出来ることなら協力しますよ」


 口を鯉のようにパクパクと動かしているスカーテ王女の代わりに、息の荒いイザベル王女が答える。


「大胆な行動をした後に真面目な話をするとか、お前は何を考えているんだ?」


「みんなで楽しく過ごしたいなーって思ってます」


「そのみんなには私も含まれて――」


「そこまでだ。本題に入れっ!」


 イザベル王女から舌打ちが聞こえた。何を言いたかったんだろう。


 頭がふわふわして聞くのが面倒になってしまったので黙った間だけどね。


「イオディプス君の家を襲ったダイチだが、地下道から町の外に出たらしい」


 さすがに逃げたかーーー。そうなるよなぁ。


 女性を奴隷のように扱う国を作るなんて許せない発言をしていた男だ。


 きっとデブガエルも協力者として同行しているんだろうー。


 男という理由だけで贅沢な暮らしをしていたのに逃亡生活が続けられるか疑問は残るけど、今のところ捕まってないのであれば何とかなったんだな。


 だらしない体型をしていたくせに生意気だ。


「今は騎士たちが追跡していて、ほどなく居場所を突き止めるだろう。そうなればダイチ捕獲作戦が始まる」


「殺さないんですね」


「大罪人でも男性だからな。生かすことに決めている」


 国外逃亡やテロ活動をしても許される性別であることに驚きだ。そりゃぁデブガエルは野放しにされるよね。


 きっと王族を殺しても許されるんだろうなーーー。僕はそんなことしないけどね。一緒にイチャイチャするのを希望する。


「話を戻すが、ダイチを捕まえるのに協力してくれないか? イオディプス君のスキルを貸して欲しい」


 スキルブースターは極秘情報だったはず! 何でバラしたの!?


 責めるような目でスカーテ王女を見る。


「この前戦った時、ヘンリエッタの前でスキルを使っただろ? あれでバレてしまったんだ。すまん」


 ああ! そうだったーーーー! 忘れてたよーーー!


 みんなを守るためとはいえスキルを使ったんなら、そりゃぁバレるよね。僕が悪い。



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