第82話 レベッタ:でも私のイオ君が

 急いでイオ君を監禁……じゃなかった! 閉じ込めた……でもなく、滞在してもらっている部屋に入った。


 姿がない。まさか逃げ出した!?


 部屋の右側を見ると化粧台や椅子、クローゼットがあった。あそこにいるのかな。


 足音を立てながら近づいてから扉を開く。女物の服がぶら下がっているだけ。探してみるけど中に隠れているわけではなさそう。


「レベッタ! こっち!」


 魔物と戦うときだって冷静なヘイリーが珍しく声を張り上げていた。


 急いで振り返る。


 視界に入ったのは天蓋付きのベッド。回りにはパーティメンバーとスカーテ王女、ルアンナがいて、腕を組んでじっと盛り上がっている掛け布団を見ていた。


 まさか、まさか、まさかっっっっ!!


 テレシアにイオ君の初めてを取られたって言うの!?


 許さない。全員殺して私も死ぬっ!


 全力で走ってベッドに飛びかかろうとしたら、アグラエルとメヌに抱きつかれて止められてしまった。


「バカ! 落ち着け!」


「邪魔しないで! もうこの世に未練はない! みんな殺して私も死ぬんだからっ!」


 ちっこいくせにメヌはびくともしない。ドワーフのバカ力が邪魔だ。


 ドラゴンの尻尾が腕に絡んで動きにくいし最悪。早く殺さないとっ!


「ヘイリー! 助けて!」


 長年連れ添った彼女なら私の気持ちをわかってくれるはず。


 邪魔をしている二人を排除して……あれ、なんで後ろに回るの?


「いたっ!」


 頭をグーで殴られてしまった。


「落ち着け」


「でも私のイオ君が」


 ヘイリーを見ると呆れた顔をしていた。


 なんでそんなに落ち着いていられるの?

 取られたんだよ?

 許せないってなるのが普通じゃない?


 一緒に殺して死のうよ。


「大丈夫。未遂」


 ヘイリーの腕がスーッとあがってベッドの方を指さす。


 バサッと布の動いた音がした。


 前を向くと服を着たままのイオ君とテレシアが横になっていた。


 よかった。何もなかったんだ。


 気が抜けて足から力抜けそうになるけど、重要なことに気づいてしまった。


 イオ君の右手がテレシアの服の中に入っている。しかも股の部分に。


 この事態はみんなも予想外だったらしく、あっけにとられた顔をしている。


「えーーと、これは、ですね」


 慌てて立ち上がったイオ君は焦っているみたい。何か言い訳をしようとしているけど、そんなの聞きたくない。早く敵を倒して上書きしなきゃ。


 拘束が緩んだ隙に抜け出すとベッドの上に立つ。手を伸ばすとテレシアに止められた。


「あとちょっとで彼の手によってイけそうだんったんだぞ」


「だから何? 木の棒でも突っ込んで続きでもおけば」


「ほう。この私にケンカを売ってるのか? いい度胸だな。牢にぶち込んで一生出られなくしてやる」


「やれるなら、やってみな」


 テレシアの腕を掴んで背を向けると肩に乗せて投げた。


 空中でくるりと回転して足から着地されたけど距離は取れたので問題なし。天蓋を支えている柱の一つを折って抜き取る。


 振ってみる。意外と使い心地は悪くない。


「あれ高かったんだぞ……」


 スカーテ王女がよろめいてルアンナが支えていた。


 柱には宝石がいっぱい付いているし確かに高いんだろうけど、今は関係ないよね。私のイオ君の初めてを奪おうとした敵を倒さなきゃ。


 体をひねって力を溜める。


「死ねぇぇぇええええ!!!」


 声を出しながら力の限り柱を投げつけてやった。竜巻のように回転しながらテレシアの方に向かう。受け止められないはずだから、左右のどっちかに避けるはず。その時に追撃してやるんだから!


「あのバカ女っ!」


 予想していたとおり転がりながら左側に避けた。立ち上がろうとしたらヘイリーが羽交い締めにする。


 ナイス! やっぱり頼るべきは相棒だ!


 すかさずメヌとアグラエルもテレシアの足を押さえると動けなくなった。


 これで確実に息の根が止められる。


「ダメです! レベッタさん!」


 背中にイオ君が抱きついてきた。手が私のお腹にある。


 右の人差し指が濡れていて、照明の光を反射させてテカテカと光っていた。


 私じゃない女の臭いがする。


 テレシアのだ。


 敵を倒すよりも先に上書きしないと気持ちが落ち着かない。


「イオ君!」


 可愛い将来の夫をベッドに押し倒した。


「レベッタさん?」


 驚いた顔も素敵。一口で食べたくなるほど。


 でも本当に食べたらなくなっちゃうから我慢しなきゃ。その代わり、右の指を使わせてもらうからね。


「私とはもっと激しいことをしようね」


「ええええ!?」


 拒否の声じゃなかったから合意は取れた。これで何をしても大丈夫っ!!


 筋肉質な腕を掴んで私のパンツの下に指を滑り込ませる。股の近くに触れると、ビリビリと電撃のようなものが全身を駆け巡った。何かのスイッチが入って考えられない。


 もっともっと、欲しい。


「王女殿下! 何がありましたか!」


 騒がしいなぁ。なんか騎士が増えているみたいだけど混ざりたいの?


 ダメ。最初は絶対に譲らない。


「我が国の宝が壊される! あの馬鹿者を止めろっ!!」


 じっくりと味わうために指をゆっくりと動かしていく。


 私は外側が好きだから優しく撫でてもらおう。その後は中にまで――。


 ここで視界が暗くなり、私の意識は途絶えてしまった。



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