第80話 どこか痛いところありますか?

 レベッタさんたちに拉致されると、スカーテ王女の屋敷に戻り部屋へ押し込められてしまった。


 みんなは入ってこない。


 ドアが閉まって鍵がかかる。


 小さな窓はあるけど通り抜けられるほどじゃないので、部屋からは抜け出せないだろう。


 監禁された。


 誰が見ても同じ感想を抱く。


「出してください~~!」


 叫んでみても返事はない。


 ケガをしたみんなの治療を優先して後回しになってしまった、テレシアさんの安否やダイチへの対策について話したいのにどうしてこうなってしまったんだろう。


 何もすることがないので部屋に備え付けられたベッドへ腰掛ける。


 掛け布団が盛り上がっていた。


「誰かいる……?」


 驚いて思わず声が出ちゃったけど、動く気配がない。


 寝ているのかな。


 中にいる人が気になって枕の近くにある掛け布団を持ち上げて覗いてみる。


「…………」


 目が合った。ばっちり起きているじゃないか!


 しかも僕が探していたテレシアさんだ。頭に包帯を巻いているのでケガはしているみたいだけど、生きていて安心した。


「ぶじ――」


 話しかけようとしたらテレシアさんの腕が伸びて、ベッドの中に引きずり込まれてしまった。


 ぎゅっと、強めに抱きしめられている。さらに足を絡めてきて身動きが取れないにされる。僕の口は小さいけど弾力を感じる胸でふさがられてしまって、助けを求めることは難しそうだ。


 少し息苦しいなと思いながら息を吸い込む。シトラス系のすっきりとした香りがした。


 僕がイメージするダークエルフのイメージにぴったりだ。


「良い匂いだ。男性特有のすっぱい感じが本能を刺激してくる」


 どうやらテレシアさんは頭を嗅いでいたようだ。


 普段の凜々しい感じとは違って、甘い声で人によっては眠そうだと感じるだろう。


 もしかしたらケガが治りきってなく、ずっと寝ていたのかもしれない。そう思うとやはり抜け出そうと抵抗するのは気が引けてしまう。


 どうせ部屋から出られないんだし、されるがままにしよう。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 時間にして数分程度なんだけど、テレシアさんの息が乱れてきた。


 ケガの状態が悪くなったのかもしれない。心配になって声をかける。


「どこか痛いところありますか?」


「痛いところはないが、むずむずするところはある。手が届かないので触ってくれないか」


 治りかけでそうなっているのかな。かさぶたが取れそうな時ってかゆいもんね。


 他人に頼むぐらいだから背中とか、その辺りだろう。


「いいですよ」


 疑うことはなく肯定すると、テレシアさんが僕の腕を掴んだ。


 背後ではなく股の辺りに誘導される。服の下に入っていき薄く手触りの良い下着すら通り抜けて、暖かい人肌にまでたどり着いた。


 ツルツルとしていて弾力性がある。少し上下に動いているので生きているんだなって、不思議な感想を抱いてしまった。接着剤でくっついてしまったように離れない。


 暗くて何も見えないから妄想ばかりが広がっていく。


「もう少し下だ」


 腕は掴まれたままゆっくりと移動する。じゃりっとした感触があった。これは毛だ。


 酸素が不足していてぼーっとしていたけど、ようやくテレシアさんが何をしようとしているのか分かってしまった。


 指が小高い丘にまでたどりつく。湿度は高い感じがする。


 粘着性のある液体に触れてしまった。指を軽く前後に動かしてみると、ぺちゃぺちゃっと音が聞こえる。


 突然、液体がさらに出てしまい、下着がぐっしょりと濡れてしまった。


「んっ」


 色っぽい声が聞こえると、ようやく正気に戻る。


 このままじゃダメだ!


 まだ片方は自由に動かせるので、テレシアさんの体を押して離れようとする。


 動かない。


「落ち着いてください。ダメですよ!」


「いいじゃないか。楽しませてくれ」


 完全に暴走している。理性が吹き飛んでいて言葉が通じない。


 掴んでいる腕を引いてもびくともしない。


「スカーテ王女に言いつけますよ」


「それで私が引き下がるとでも?」


 法を守るために取り締まるお仕事をしているというのに、権力すら今のテレシアさんを止める力はないようだ。


 やりたくはなかったけど、最終手段を投入するしかないか。


「それ以上やったら嫌いになりますよ」


 効果はてきめんだった。ピタリと動きが止まって、僕の腕が解放される。


 テレシアさんは体を起こしたようで、視界が一気に明るくなった。


「すまない。許してくれ」


 頭を下げて謝っている。


 逃げるために言っただけで本当に嫌いになるわけじゃないので罪悪感を覚えた。


「もう強引なことはしませんか?」


「もちろんだ……と言いたいが、本能を抑えられるか自信がない」


「努力するけど、絶対とはいかないわけですね」


 女性たちは異性を求める本能に振り回されている。


 これはどうしようもないことだ。多少の強弱はあるけど、個人の意思で完全に制御できるものではない。


 そのことをちゃんと僕に伝えるテレシアさんは誠実だと感じた。


「努力してくれるなら許します。次から気をつけてくださいね」


 掛け布団の中にいるままテレシアさんを抱きしめた。


 これで安心してくれることだろうと思っていたら、部屋が騒がしくなってきた。



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