第76話 黙らせるぞ

「俺の提案を断るのか」


 ダイチは驚いた顔をしていた。僕の対応が予想外だったらしい。


 この世界の男と同じにして欲しくないね! 女性に優しく生きるって決めてるんだからッ!


「そんな男は、存在してはいけない。ヤれ」


 スタッフを持ったラレンが走ってきた。


 まさか提案を断ったら殺しに来るとは思わなかった。バングルの発動は間に合わない。


 スキルを使ってないのに思っていたよりも動きが速い。できるかわからないけど避けなければ。


 覚悟を決めて敵の動きをじっくりと見る。スタッフが振り上げられた。


「イオ君っっ!!」


 二階からレベッタさんの声が聞こえるのと同時に、矢がラレンに向かって連続して放つ。一本目はスタッフで弾いたみたいだけど、残りは無理だと判断したみたいで後ろに飛んで回避されてしまう。


 続いてドンと音がするのと同時に地面が少し揺れた。大きいハンマーを持ったメヌさんが二階から飛び降りたみたい。


「ケガはない?」


「うん。僕は大丈夫ですがヘイリーさんが……」


 倒れている彼女を見てメヌさんが静かに怒ったように感じた。無言で走り出すとラレンに向かってハンマーを振る。ぶんっと空気を斬るような音も聞こえるけど、相手の方が技量は高いみたいで当たらない。


 レベッタさんも矢を放って攻撃しているのに、それすら見越して回避しているのだ。しかもスキルなしで。このままじゃ勝てないので僕も援護に回ろう。


『起動』


 キーワードを唱えるとバングルが淡く光る。氷のように冷たい印象を与える青色だ。


 これだけじゃ氷魔法は使えないので続けて、特別な言葉を口にする。


『アイスランス』


 周囲に氷で作られた槍が三本浮かんだ。冷気を放っていて触ったら凍傷してしまいそう。


 そんな凶暴な武器をこれから女性に向けなければいけない。その事実が僕の決心を揺らいでくる。


 早くあいつらを倒してヘイリーさんの容体を確認しなきゃいけないのに、すぐ行動に移せないでいるのだ。


「面倒な魔道具を持っているな。黙らせるぞ」


「はい」


 ガリガリの女性シャナルンがダイチに抱きついた。二人の瞳が光る。


 スキル攻撃を警戒して様子をうかがっていると氷の槍が消えてしまった。レベッタさんにも異変が起きたのか矢が止まる。


 ハンマーを振り回しているメヌさんは攻撃を続けていたけど、援護がなくなったので攻められる立場に変わった。手が止まって後ろに下がって避けている。


『起動』


 助けようとしてキーワードを言ったけど、バングルは動かない。青い光すら発してない。沈黙している。


「どうして!?」


 作ったばかりなので壊れたとは思いにくいど、現実問題として起動すらせずに困っている。


 何が起こったのか分からず打つ手が見つからない。


 こうなったら大声を出してアグラエルさんに来てもらい、スキルブースターと氷魔法の組み合わせで――。


「きゃっ!」


 メヌさんの腹にラレンの蹴りが入って吹き飛ばされてしまった。立っているのは僕だけになると、レベッタさんが二階から飛び降りた。


 守るようにして僕の前に立つ。


「イオ君は絶対、前に出ないでね」


 力強い言葉に少し安心してしまった。


 弓を構えて警戒しているけど、敵との距離が近いためレベッタさんは不利な状況だ。


「あの女が邪魔だ。ラレン、さっさと殺せ」


「また私に命令した。一人じゃ何も出来ないんだね」


 ラレンは命令を実行しないでダイチを軽く抱擁した。愛情を感じているような、とろけた顔をしていて恋人関係のようにも見える。けど彼は違うようだ。眉間にしわを寄せて嫌そうにしており、まるで汚物を見るような目になっていた。


 片思い。それも激しく重い愛を向けている。


「さっさと動けよ。こののろまがッ!」


 なんとダイチはラレンの顔を殴った。よろけて体が離れると、さらに腹を蹴り上げる。痛みによってうずくまった彼女を何度も踏みつけ、暴力を振るっていた。


 慣れた手つきだ。


 見慣れた光景だからわかる。間違いなく何年も同じことをしてきた。


「やめろ!」


「断る。これは教育なんだよ」


 不快な笑い声を出しやがった。何が教育だ。女性に暴力を振るうヤツらは、みんな似たようなことを言うけど、そんなこと絶対に認めない。


「お前もそう思うだろ?」


「うん。そうだね。愛しいダイチが暴力を振るうはずがない。何かの間違いだよ」


 蹴られ続けているのに、どうして笑っていられるの?


 母さんもずっとそんな顔をしていた。そしていつも同じことばかり言うんだ。


「それに私がいないと何もできないもんね。ちゃんと頑張って守ってあげないと」


 理屈なんてまったくわからないけど、暴力を振るわれているのに何故か依存している。


 足を止めたダイチは優しい表情を浮かべた。


「そうだ。ラレンがいないと怖くて外もでれない。だから弓を持った女を殺してくれよ」


「うん! 任せて! 愛のために殺してあげるっ!」


 甘えてもらえたのが嬉しかったみたいで、立ち上がるとスタッフを持ちながらこっちに向かってくる。


 瞳は光っていて何らかのスキルを発動させたと察せられた。


『起動』


 正しい発音をしているのにバングルは動かないままだ。スキルブースターも発動する気配がなく、何かが起こっている。



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