第74話 テレシアさんの安否がわかったら教えてもらえませんか?

 衛兵所から煙が立ち上っている光景を見ていると、レベッタさんに抱きかかえられてしまった。荷物のように運ばれてしまう。


 黙ってなすがままにされていると家が近づいてきた。

 ルアンナさんと他の女性騎士たちが周囲にいる。

 事件に気づいて駆けつけてくれたみたいだ。


「おケガはありませんか?」


「ないけど」


 ルアンナさんの問いに対して、ピリピリとした空気をまとったレベッタさんが返事をした。声の感じからして怒っているみたい。


 守るために駆けつけてくれた人たちに、どうしてそんな態度を取るのかわからない。


「ねぇ。なんでここにいるの?」


「それは……」


「あなたたちはイオちゃんの安全を守るのが仕事でしょ。どうしてすぐに駆けつけてこなかったの?」


 怒っている理由がわかった。


 なぜ近くで隠れて護衛していなかったのか。


 メスゴブリンの時みたいに、助けに来なかったことを怒っているらしい。


「例の事件調査に人員を割いておりました」


「イオちゃんよりも大事なの?」


「彼を守るために、優先していたのです」


「ふーーん」


 いつもは明るく優しいレベッタさんが珍しく問い詰めている。


 また衛兵所から爆発が起こった。


 女性たちが周囲を見る。


 誰もいない。けど、どこかに隠れている可能性は否定できない。


「文句は後で聞きます。まずは入ってください」


「わかった」


 ルアンナさんがドアを開けてくれたので、僕たちは家に入る。


 パーティメンバーの三人が玄関で待機していて、僕のことを心配してくれていたようだ。みんな本当に心優しい人たち。


「ケガはない?」


 ヘイリーさんが僕の体をペタペタと触り、首筋をペロリとなめた。


「大丈夫そう」


 えええ!? こんなんでわかるの?


 突っ込もうとしたらメヌさんが僕の股間を触る。


「こっちも無事だ。よかった」


 体じゃなくて息子の方を心配したの!?!?


 一気に緊張感が抜けてしまった。


 抱きかかえられているから抵抗できないので、まだ撫でられ続けている。そろそろ大きくなってしまいそうだ。どうしようと助けを求めるように、頼れるアグラエルさんを見た。


 微笑んでくれたので伝わっただろう。


「今度は私の番だ」


 レベッタさんから僕を奪い取り、ドラゴンの翼で包み込む。周りが見えなくなった。


「夫婦の時間をたっぷりと堪能しよう」


 抱きしめている腕に力が入った。


 抜け出すなんて不可能だ。


「ちょっと! ずるいっ!」


「独り占めは禁止」


「すぐに解放しないなら、その翼をもぎとるよ」


 仲間からクレームがきてもアグラエルさんは僕を抱きしめたまま。動かない。


 このままだとケンカが起きちゃいそうだ。


「お前たち、落ち着け! 今そんなことをしている暇はないぞ!」


 翼越しからでもはっきりとルアンナさんの声が聞こえた。


 珍しく本気で怒っているみたい。


 さすがにアグラエルさんも逆らうことは出来ないようで、僕を床の上に優しく立たせると、ドラゴンの翼を戻した。


「部下が衛兵所を確認している。安全が確認できるまでは、大人しくしていろ」


 レベッタさんたちは大人しく従って、リビングの方に行った。


 あえて残った僕はルアンナさんに話しかける。


「もしテレシアさんの安否がわかったら教えてもらえませんか?」


「あの傲慢な女か」


 苦虫を噛み潰したような顔って初めて見た。すごく嫌そうにしている。


 町を守る衛兵とスカーテ王女を守る騎士。どちらも似たようなお仕事だとは思うんだけど、だからこそ仲が悪いって感じなのかな。


「イオちゃんと仲がいいのか?」


「はい。一緒にご飯を食べる関係です」


「あの女、上手いことやりやがって」


 小さい声だけど、しっかりと聞こえてしまった。あの優しいルアンナさんが暴言を吐いたのだ。


 思っていたよりも二人の関係は悪いのかもしれない。


「仲がいいなら心配だろう。テレシアのこともちゃんと調べるから安心してくれ」


 先ほどと表情は一変して笑顔だ。キラキラと輝いている。


 女優になれるんじゃないかと思えるほど、先ほど表に出ていた嫌悪感を隠している。演技が上手だ。


 仲が悪いからといって手を抜かれたら困る。あざとくて嫌だけど、少しだけ男だという利点を使ってみるか。


 変装用の指輪と首輪を外すとルアンナさんの手を触り、優しく両手で包んだ。


「すごく心配なんです」


「そうだよね! 心配だよね!!」


 顔が真っ赤だ。口から涎が出ている。


 何か甘いフェロモンみたいなのがして、僕もドキドキしてきた。


「さっそく私も調べてくる! まっててねっ!」


 ドアを勢いよく開くと飛び出してしまった。


 部下の女性騎士たちは口をぽかんと開いて見送っている。何が起こったか分からず、あっけにとられているいたい。


 家の護衛は騎士が数十人もいるから大丈夫なのかな。


「イオディプス様、なにかあったんですか?」


 近くにいた一人の女性騎士が聞いてきた。


「衛兵所に向かったみたいです。それと様はいらないですよ。君とか呼び捨てで大丈夫です」


「いいんですか!?」


「もちろんです」


 許可を出すと他の女性騎士たちが一斉に近づいてきた。


「私もいいですか!?」


「ずるい、私も!」


「あたいだって君って呼びたい! いい!?」


 圧が強い。拒否なんて出来る空気じゃない。


「も、もちろんですよ。みなさん好きに呼んでください」


 歓声が上がった。ここに重要人物がいるってバレちゃうと思うんだけど、感情をコントロールできないみたい。


 男が絡むと理性が吹き飛んでしまうのは、どうにかならないのかな……。

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