第47話 すぐ抜いてあげるからねっ!!
「私が行くっ!」
普段とは違う力強い声でヘイリーさんが駆け出した。
メスゴブリンの集団から、数十本の矢が連続して放たれる。逃げ道なんてない密集度だが、ヘイリーさんは左手のバックラーで弾き、剣を振るってまとめて斬り落としていく。ありえないことだが、高速で動く矢を全て目で追えているようだ。
ヘイリーさんは足を止めずに矢の雨を突っ切り、メスゴブリンの集団と接敵した。矢が止まって斬り合いが始まる。ヘイリーさんは全ての攻撃をかわし、反撃してメスゴブリンを攻撃している。一人でも勝てるんじゃないかと思ってしまいそうだが、さすがに背中に目はついてないようで、弓で背中を狙っているメスゴブリンには気づいてないようだ。
声を出して注意しようとしたら、ヘイリーさんを狙っているゴブリンの頭に矢が刺さった。
レベッタさんが遠距離から狙ったのだ。遠視のスキルが強化されたから、メスゴブリンが入り乱れる中から、的確に危険度の高い相手だけを選んで攻撃している。
「じゃ、私も行ってくる」
投げキッスをして走り出したのはメヌさんだ。足が遅いのでメスゴブリンと近づくのに時間がかかっている。ヘイリーさんの時よりも本数は減ったが、数本の矢が飛んできた。
「そのまま走れっ!」
アグラエルさんが叫びながら氷魔法のスキルを使った。メヌさんの左右に氷の壁が伸び、先端が丸まっていく。両方がくっついて一つのトンネルになった。
「これはすごい! 今なら何でもできる気がする!!」
スキルの使用によって体力や精神力を削られたアグラエルさんは、息を切らしながら喜んでいる。スキルブースターの効果で、実力以上の魔法が使えて興奮しているのかも。
連続して矢を放ちながらレベッタさんが援護していると、ようやくメヌさんもメスゴブリンの集団に飛び込んだ。ハンマーを振り回して吹き飛ばしている。ヘイリーさんの背中を守るように動いていて、非常によい連携ができている。慣れているみたいだ。突発的な戦闘でも優位に進めていて、さすがベテラン冒険者だと感じる。
普段からこういった凜々しい姿を見せてくれれば、彼女たちの印象も結構かわるんだけどな。
しばらく戦いを見守っていると、氷魔法で攻撃を続けていたアグラエルさんは膝をついてしまったが、メスゴブリンの数は減ってきたのがわかる。
このままなら三人だけでも勝てそうだと安堵した瞬間、弓を構えているメスゴブリンが視界に入った。
狙いはレベッタさんだ。
ヘイリーさんの援護に忙しいようで気づけていない。
このままでは当たるかもしれないぞッ!
「あぶないッ!!」
考えるよりも先に体が動いていた。レベッタさんに飛びつくと、右腕に激しい痛みを感じつつ二人とも地面に転がる。
「イオ君!!」
泣きそうな顔をしているレベッタさんが体を起こすと、俺の腕に刺さった矢を抜こうとしている。今はそんなとことをしている場合じゃない!
「俺よりも敵をッ!!」
先ほど攻撃してきたメスゴブリンが居た場所を指さした。
新しい矢を取り出し、第二射を放つ準備をしている。
「でも、血を止めないと死んじゃうっ!」
「死なないから! 先に敵を倒して!」
「…………ごめんね」
ぎゅっと唇を噛むと、レベッタさんが弓を持って立ち上がる。素早く矢を取り出すと構えた。
流れるような動作、すっと伸びた背筋、きりっとした眉、スキルを使って光る目、その全てが美しい。この一瞬だけ痛みを忘れて魅了されてしまった。
「死ね」
メスゴブリンが第二射を放った直後、レベッタさんは深く怨みのこもった言葉と同時に弦から指を離した。
真っ直ぐに進む二つの矢は中間地点で衝突、粉々に砕ける。レベッタさんは狙って当てたのだろう。神業だ。
俺が心の中で感嘆の声を上げている間に、メスゴブリンの頭に矢が刺さった。
仰向けに倒れたのを確認すると、レベッタさんは弓を投げ捨てて俺の腕を触る。
「大丈夫!?」
「こんなのかすり傷ですよ」
心配させたくないので痛みに耐えながら笑って見せた。
矢は防具を貫通して二の腕に刺さっている。鏃は貫通していない。骨辺りで止まっていそうだ。
「すぐ抜いてあげるからねっ!!」
「今はダメだ!」
矢に手を伸ばしたレベッタさんを止めたのはアグラエルさんだ。
「どうして止めるのっ!」
「矢を引き抜いたら出血が悪化するからだっ! まずは止血するぞ!」
アグラエルさんはナイフを取り出して自分のズボンを切り裂き、細長い布を三本作り、一本は俺の脇の下できつく結ぶ。二本目の布で俺の口を塞いだ。
「私が矢を抜くから、レベッタはすぐにポーションを傷口にかけて布を巻くんだ」
「うん、わがってるっ!」
涙と鼻水を流しながらレベッタさんが返事をした。泣かせてしまったな。もっと早く気づいて動いてれば、笑顔で終われたのに。
「イオ君! 抜くよ!」
宣言と共に矢が抜かれ、激しい痛みで頭が真っ白になる。意識を失ってはスキルブースターの効果が切れてしまうので、口に巻かれた布を強くかんで耐える。
腹に刺さったナイフよりかはマシだ。俺は負けない、なんて思っていたら、また激しい痛みに襲われる。
「んーーーーーッ!!」
緑色の液体をかけ終わったレベッタさんが、布で俺の腕を強く巻いているのだ。
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