第46話 スキルブースターを……つかい……

「出口を確認しないとっ!」


 最後尾にいたメヌさんが走り出した。足が短いので後から動いたレベッタさんに抜かれてしまう。


 俺も皆を追いかけて洞窟の出口まではしてみたが、完全に塞がっていた。今回は岩ではなく土のようだ。土砂崩れが起きたのだろう。


「また吹き飛ばすっ!」


 メヌさんがハンマーを大きく振るって叩いたが、一部が吹き飛んだだけですぐに新しい土が落ちてきてしまう。先ほどとは違って簡単には排除できそうにないが、諦めるわけにはいかない。もう一度ハンマーを叩きつけようとして、メヌさんが構える。


「ぐっ」


 膝から崩れ落ちてしまった。駆け寄ろうとしたレベッタさんやヘイリーさんも力が抜けたように倒れる。


 俺も頭が痛く、呼吸が苦しくなってしまい、足だけでは立っていられず壁により掛かってしまう。


 下を見たら地面に新しい割れ目がいくつもあった。シューッと不気味な音をだしている。


 何らかのガスがでて酸素濃度が著しく減っているのかもしれない。早く出口を開けなければいけないのだが、メヌさんは動けない。


 無事なのは竜人のアグラエルさんだけ。

 彼女が特別なのか、それとも種族特性なのだろうか。


「スキルブースターを……つかい……」


 呼吸が苦しくて最後まではいえなかったが、俺の声と意志は届いたはず。スキルを使うとアグラエルは驚いた顔をした。


「これならいける!」


 攻撃的な笑みを浮かべると、氷でできた塊が浮かび、出口を塞いでる土に衝突した。


 土埃が舞って視界は悪くなるが、新鮮な空気が入った気配はない。


 衝突音は、さらに二度、三度と発生した。洞窟全体が大きく揺れていて、このまま続いたら生き埋めになってしまうんじゃないかって想像してしまうほどである。


「土がなくならない。こうなったら固めてやるっ!!」


 周囲の気温が下がった。地面が凍りついている。


 また衝突音がした。今度は上手くいったようで、新鮮な空気が洞窟内に入ってきた。


 頭は痛いままだが、呼吸は楽になった気がする。


「イオちゃん! 大丈夫!」

「俺は大丈夫ですから」


 安全を確保したアグラエルさんが駆け寄ってきそうだったので、手を前に出して止めた。


 俺を優先する気持ちはわかるが、倒れてしまっているメヌさんが心配なのだ。息が止まっているのであれば、人工呼吸をしなければいけない。たしか、呼吸が止まって数分以内に酸素を送らないと、脳に大きな障害が残ってしまうんだけっけな。


 手で頭を押さえながらメヌさんに近づいて、胸を触る。


 よかった。上下に動いている。なんとか呼吸はできているようだ。


 上半身を抱きかかえるように起こすと、メヌさんの頬を軽く叩く。


「大丈夫ですか? 目を覚ましてください!」


 瞼がピクピクと痙攣すると、ゆっくりと持ち上がった。


「うっ、うん……私、生きてる?」


 よし、意識も戻ったぞ。レベッタさんやヘイリーさんも無事なようだし、トラブルは乗り切ったようだ。


 早く危険な洞窟から逃げよう。


 動けないメヌさんを抱きかかえようとするが、重くて持ち上がらない。小柄なのに俺よりも体重が重いみたいだ。防具を着けているからといって、これはないだろ。自分の非力さを嘆いてしまう。


「私がもつよ」


 俺が全力を出しても動かせなかったのに、レベッタさんは軽く抱き上げてしまった。


 ……俺は無力だな、なんて悲しむのは後回しだ。


 四人は先に出てしまったので、頭の痛みに耐えながら俺も出口に足を踏み込む。地面や天井、壁が凍っていた。土を排除しても出てくるから、固めてしまったのだろう。一刻を争う状態でこの判断ができたのは、さすが有名な冒険者と言える。


 途中で崩れることなく俺も無事に外に出られた。


 新鮮な空気が美味しい! 太陽の光が眩しくて目を細める。無事に生還できたという実感が湧いたのだが、それも一瞬だけ。


「敵だ!」


 レベッタさんの警告によって、俺に迫っている危険がまだ続いていると気づいた。


 明るさに慣れて周囲がハッキリと見えるようになる。数百メートル先にメスゴブリンの集団が見えた。数は五十ぐらいだろうか。


「あいつら先発部隊だったのかっっ!」


 メスゴブリンは集団でオスを探す場合もあると、アグラエルさんの言葉を思い出していた。


 洞窟で死んでいたのは先発隊だったのであれば、目の前に居る集団が後発の部隊なのだろう。別働隊もいる可能性は残っているから油断してはいけない。


「アグラエル! スキルでまとめて倒せる?」

「さっき派手に使ったから難しいね……」


 外に出てたから気づけたのだが、アグラエルさんの顔色が悪い。スキルを使い続けた影響で精神や体力が疲労しているのだろう。


「メヌは?」

「一応は、動けるよ」


 レベッタさんの腕から脱出したメヌさんは、持ってきてもらったハンマーを手に持つと何度か振るう。風を切る力強い音が聞こえた。


「私とメヌで殺し尽くす」


 剣と盾を構えながらヘイリーさんが殺意をみなぎらしている。二人とも調子は悪い状態でなのに、戦意は落ちていないようだ。頼もしい。


「イオちゃん。助けてくれる? それとも逃げる? 私はどっちを選んでも良いと思うよ」


 俺の目を見ながらレベッタさんが問いかけてきた。澄んだ瞳をしていて、本当に逃げても良いと思っていそうだ。


 馬鹿にしないで欲しい。


 背を見せて逃げるほど俺は薄情な人間ではないぞ。答え始めから決まっているのだ。


「一緒に戦うよ」


 宣言すると共にスキルブースターを使う。これで四人の能力が底上げされたはずだ。

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