第2話: 手探りの謎



 ──いくら『I・A事件』を担当しているとはいえ、理由も無く業務時間中に遠出など出来ない。



 例外は、『I・A事件』に関する手がかりなり新情報なりが見つかった時だろう。


 けれども、それが見つかった時点で、袴田はほぼ確実に異動が決まる。


 理由は言うまでもないが、あえて語るならば、だ。


 『I・A事件』そのものが迷宮入りしかけていて、現状では人を割いたところで効果が薄いから。つまり、誰がやっても問題にならないから、袴田がその役を担っているわけだ。



 だが、手がかり等が見つかれば話は別だ。



 目の上のたんこぶにも近しい『I・A事件』の捜査が一歩進むと分かれば、上層部はすぐさま人員を増やす。これ以上、マスコミに有ること無いこと言われるのは我慢ならないからだ。


 そして、その間は……袴田は何もさせてもらえないだろう。


 いくらベテランとはいえ、袴田は『I・A事件』を定年まで担当させてもらっているだけで、専門家ではない。


 むしろ、『I・A』を始めとしてプログラム関係に詳しい若手や、体力気力的にもフットワークの軽い若手の邪魔をしてしまう可能性は極めて高い。



 だから、『I・A』より言われた指示とやらを袴田が実行出来るのは、休日……つまりは、非番の日が一番都合も良かった。



 有給は残っているが、節約しておくに越した事はないから……そうして、指示を受けてからの、最初の休日の日。


 袴田は、始発電車とバスを乗り継ぎ、都心を離れ……自然が色濃い、とある田舎町へと向かうバスへと乗り込んでから、早30分。


 土地勘どころか見覚えすら皆無の景色と、電光板に表示された停車地の横目で確認しながら……ぼんやりと、考え事をしていた。


 マイクロバス(おそらく、普段から利用者が少ないからだろう)には、他の人は2人乗っている。見たところ、病院帰りの老人といった感じだ。


 通勤の時間なら……いや、そもそも、若者が普段使うような路線ではないのだろう。居たとしても、今の時間なら確実に学校だ。



 おかげで、車内は静かだ。



 老人2人は疲れているのか、ウトウトとしている。運転手も慣れているのか、起こす気配は今のところはない。


 ゆっくりと考え事をするには、ある意味最適であり……片手に持った缶コーヒーで時折唇を湿らせつつ、袴田は……過去を思い返していた。



(……製作者の隠し別荘へ行け、か)



 内容は……言うまでもなく、『I・A』より指示された内容である。


 あの日、あの時、『I・A』より指示された内容は、そう多くはない。


 細かく指示されたが、それは内容が多いというよりは、単純に時間が掛かるといった内容であった。


 というのも、『I・A』が語った、『I・Aの製作者』が保有していた別荘だが……全部で八つもある。



 しかも、一か所に留まっていないうえに、警察すら把握していない隠し別荘ときた。



 いったいどうやって警察の目を誤魔化したのかは分からないが、お偉方が知れば大騒動になるような情報である。


 バレたらほぼ間違いなく懲戒免職を食らってしまうような事をしているよなあ……と、袴田は堪らず苦笑した。



 ──まあ、今更な話だろう。



 隠し別荘とはいえ、場所自体は特に隠されているわけでもないし、普通に住所検索で引っ掛かる。


 そもそも、『『I・A』が教えてくれた』なんて素直に話したところで、誰が取り合ってくれるというのか……最悪、強制的に休職させられてしまうだろう。



 なので、警察として駄目な行為であるのは分かってはいるが、仕方がないなとも袴田は思っていた。



 後はまあ、アレだ……こんな事を言うのも変な話だが、『I・A』が気を使ってくれたのではないか……とも、袴田は思った。


 年齢が年齢だから、あまり急かすと体調を崩してしまうかも……そんな言外の意思を、袴田は『I・A』より感じ取っていた。


 なにせ……チラリと、袴田の視線は外の景色から……隣の席に置いてある、大きめなリュックへと向けられた。


 傍から見れば、袴田の今の姿は、趣味のキャンプなどに来た老人……といった感じだろうか。


 もちろん、袴田はキャンプの為にそんな恰好をしているわけではない。


 それは、あの日、あの時、『I・A』より指示された荷物。中身は2,3日分の食糧と、その他諸々。



 ──『I・A』曰く、水と電気は通っているけれども、その別荘は所有者こそ移ってはいないが長らく放置されており、快適とは言い難い。



 寝泊まりする分には問題ない(いちおう、未使用の布団ぐらいはあるらしい)し、夕方頃のバスで帰ることは可能だが……別荘がある場所は、山中にある。


 老体の身体には、この日帰りは体力的に辛いだろう……という『I・A』のよく分からない優しさの結果が、この荷物であった。



 ……いや、まあ、袴田としても、否定は一切出来ないのは事実である。



 土地勘のある場所を行き来するならともかく、見知らぬ場所を往復するというのは、ただそれだけで気が疲れるというものだ。


 加えて、始発電車からの移動、バスの乗り継ぎ、この後に行う軽い山登り……確かに、そんな状態で日帰りというのは、定年間近の袴田にとっては堪える工程であった。


 ちなみに、食料持参の理由は、別荘周辺にはホテルはおろかコンビニすら無いので、持って行かないと絶食が確定するから……というわけであった。



(……定年間際じゃなかったら、間違ってもこんな事はしなかっただろうな)



 若い頃だったら内心にて一笑した後で、こっそり誰彼に連絡していただろうが……そういうことをせず、ひっそりと胸の内に留めて動くのは、歳を取ったからか。


 それが良いことなのか悪いことなのかはさておき、次の停車地が目的のバス停なのを聞いた袴田は、無言のままに……ポチッと、停車ボタンを押した。



「運転手さん、今日はキャンプなので帰りはいらないけど、明日は時刻表の時間に待っているから」

「ええ、分かりました。ただ、道路状況によって多少なり時間は前後しますので、お早めに待機しておいてください」

「はい、ありがとうございます」



 もちろん、下りる際には……翌朝、このバス停に来る事を、運転手に伝えることは忘れずに。






 ……。


 ……。


 …………そうして、だ。



 予め教えられていた地図(『I・A』の指示にてプリントアウト)を片手に、その別荘へと袴田が到着したときにはもう、昼を大きく回っていた。



「はあ、はあ、はあ……全く、運動不足の身体に、ハイキングは、はあ、はあ、中々の、重労働だ……!!!」



 普段から意識して歩くようにはしているが、やはり、足りていなかったのだろう。


 別荘の、固く閉じられた正門の鉄格子の前にやってきた袴田は、久方ぶりに荒れ狂う心臓の鼓動を、ひいひい言いながら抑えていた。



「はあ、はあ……はあ、本当に、歳を取ると彼方此方あちこちガタがきて困るぜ……ったくよ」



 しばし、息を整えた後。滲んだ汗をタオルで拭いつつ、リュックから取り出したペットボトルにて水分をがぶ飲みしつつ……改めて、袴田は眼前の別荘を見上げた。



 その別荘は……正直、拍子抜けしてしまうほどに、普通の家であった。



 いや、コンクリートが特徴的なデザイナーズハウスというやつで、周囲の景観にミスマッチしているという点では、普通の家ではない。


 家自体は大きいし、出入り口は『I・A』の言葉が正しければ、鉄格子で封鎖された正門のみ。敷地はグルッと頑丈なコンクリートの外壁で囲われ、猪の突進でもビクともしないだろう。


 しかし、その程度の事は見慣れている。


 というか、袴田の若い頃にもソレが軽いブームになったから、思っていたよりも普通な家……というのが、袴田の素直な評価であった。



(えっと、確か、鍵束が鉄格子の根元あたりの……あった、コレか)



 さて、だ。


 気持ちを切り替えた袴田は、事前に『I・A』より指示されていた鍵の場所へと手を伸ばし……パッと掴み取る。


 その鍵は、鉄格子と連結している外壁の部分。外からは見えない位置にある窪み(しかも、目印無し)の奥に、無造作に置かれていた。



 幸いにも、錆は見られない。鉄格子に取り付けてある錠前を外して中に入る。



 そこまで広くもない庭先は、雑草だらけだ。しかし、これまた幸いにも、移動に難儀するような背の高い雑草はない。


 帰りもこの中を行くのかとげんなりしつつも、そのまま進んで玄関の鍵も開けて……直後、薄暗い室内より姿を見せたその光景に、袴田はギョッと足を止めた。


 いったい何が……それは、室内の至る所に飾られたアート作品が原因であった。



「これは……『I・A』、なのか?」



 思わず、袴田はそう呟いた。


 そう、そうなのだ。


 壁や天井だけでなく、所狭しに構わずと言わんばかりに設置されているのは、『I・A』と思わしき肖像画や彫刻像であった。


 思わしき……という言い回しになるのは、袴田が知っている『I・A』とは少しばかり違っていたからだ。


 具体的には、それらの肖像画や彫刻像には全て、背中に羽が書き込まれ、あるいは加えられていたのだ。


 一枚一体の例外はなく、全ての作品に羽が生えている。


 妖艶に笑うモノ、朗らかに笑うモノ、まっすぐにこちらを見つめるモノ……裸婦画や裸婦像にすらも、羽が付け加えられている。



(全員、同一人物……か? それにしては、いったいどんだけのペースで作っているんだ?)



 うっかりぶつかって壊さないように気を付けつつ、家の奥へと進みながら……横目で、それらを見やる。


 どうやら明かり窓(天窓も、ちらほら)がいたる所に設置されてあるようで、電気を付けるまでもなく十分に室内は明るい。


 それゆえに、見えてしまうからこそ分かってしまう。


 隙間という隙間にピッチリはめ込まれたそれらのアート作品……そういった分野に疎い袴田の素人目線でも、気付く。


 目に映る作品の全てのモデルが、同一人物であるということを。


 そして、だからこそ、違和感が生じる。


 仮にこれらのモデルが本当に全て同一人物だとして……いったい、どれだけのペースで作り上げたのかということを。


 見たところ、モデルの年齢はおそらく少女。それも、成長著しい時期の……小学、あるいは中学生ぐらいだと思われる。


 肖像画の一枚や二枚ならまだしも、おそらくは等身大と思われるサイズの彫刻像までもがある。それも、一つや二つではない。



(こういう作品のモデルって、当人が居なくても作れるものなのか? いや、しかし、当人がポーズを取る必要となると、それこそ毎日モデルを務めていないと用意出来ない量だと思うが……)



 いったい、製作者とこのアート作品、そして、『I・A』に似ているという要素……何がどう繋がっているのだろうか。



 ……。


 ……。


 …………わからん。まあ、何の情報もなく考えたところで無駄だな。



 しばし悩んだ後、ひとまずそう結論付けた袴田は、四方八方から向けられるその少女の視線に気味の悪さを覚えつつ……指示されていた部屋へと、入った。



「……ここにも、か」



 すると、そこにも先ほどのアート作品の類似品がたっぷりと置かれていた。


 しかし、これまでよりもかなり少ないように思える。


 『I・A』曰く、ここは製作者が考え事をする時の為の部屋らしいが……もしかしたら、何らかの事情で大量に作ったはいいが、処分に困っていた……みたいな話なのだろうか。


 それならそれで、ある意味親近感が湧いて気も晴れるのだが……まあ、いいや。


 一つ、溜め息を零した袴田は、近くにあった椅子にリュックを下ろし……ポータブルPCを取り出して、電源を入れる。


 そのまま『I・A』も起動する……が、不思議な事に、背景映像こそ表示されるものの、肝心の『I・A』が姿を見せない。



 ──壊れた……いや、違う。



 『I・A』は、この件に関しては一切手を貸さないつもりなのだ。ここでの作業を終えるまで、情報を一つも与えないために姿を見せない……そう、袴田は察した。



 それならば……やるしかないわけで。



 さて、と室内を見回した。


 ここも、外の光が入るようで室内はまだ明るい。ただ、道中と同じく人の出入りは無かったようで、中々に埃っぽい。


 ただ、その中で……一つ、気になる事がある。


 それは、部屋の隅にポツンと置かれた布団だ。それだけは、つい先程カバーから取り出したかのように真新しく、埃も全く積もっていなかった。



(……考えるだけ、無駄だな)



 気にはなるが、とりあえずはそうやって己を無理やり納得させた後。



(本棚……入っているのは専門書……洋書か? どういう本なのかすらサッパリ分からんな)



 改めて視線を向ければ、大小様々な本棚にはビッチリと本が詰め込まれている。


 それらはどれも小難しいタイトルばかりであり、袴田の人生に置いては一度として登場したことがない文字ばかりであった。


 他には、埃だらけの机に、埃被ったソファー、埃臭い絨毯に、埃臭いガラス扉の戸棚……まさしく、プライベートルームとった感じの部屋だ。



 ──『I・A』の指示ではこの別荘では、この部屋を調べろ……というわけなのだが。



 正直、どこから手を付ければ良いのか袴田には分からなかった。


 袴田にとっての調査とは、証拠集めだ。


 つまり、凶器だったり、薬物だったり、証拠品や遺留品といった、事件解決へと繋がる情報やブツを見つけるのが目的だ。



 しかし、今回は……これまで袴田が培ってきた勘や経験が一切通用しない。



 なにせ、ブツが何なのかすら分からない。いや、そもそも、ブツがあるのかすら、袴田は何も知らされていない。



 『I・A』より言われているのは、指示に従って行けば自ずと理解出来る……とだけ。



 それ以上は何を聞いても、『I・A』は微笑むばかりで何も教えてはくれなかった。本当に、それ以上のヒント一つ教えてはくれなかった。



 と、いうことは……だ。



 コレは、単純にブツを探すだけが目的ではない。


 おそらくは、『I・A』が求めているブツを見つけるに至るまでの工程もまた重要なのだろう。


 そう、判断した袴田は……溜息を吐きつつも、とりあえずは机周りから調べて行くことにした。



(はあ……こういうのは、俺のガラじゃないんだけどなあ)



 これが家宅捜索なら、片っ端から引出しを開けて、戸棚を開けて、本棚の本を引きずり出してブツを探せば良いのだが……まあ、考えたところで仕方がない。


 ひとまず、グチグチとした思考を切り替えた袴田は、使い古しのメモ帳や、何かの走り書きと思われる紙切れを机の上に出してゆく。



 まあ、出したところで、それが何なのかは分からない。



 とりあえず、数式らしき何かが記されているのだけは分かるが、それだけだ。


 学生時代なら分かったかもしれないが、数学から離れて数十年の袴田に、幾何学的な模様にすら見えるソレの謎を解けなんてのは、土台無理な話……ん? 



「なんだコレ? 何かの一節か?」



 引出しの、奥。


 袴田の基準からすればゴミでしかない大量の紙切れの中に、ソレがあった。





 ──この世界は、一つだけではない──


 ──人々の無意識の内に、もう一つ──





 数式やら英語やらが記された紙切れたちの中で、たった一つだけ……その言葉が記された紙切れがあった。



「……? どういう意味だ? 宗教的な話か?」



 意味が分からない袴田は、首を傾げた。


 だが、不思議と興味を引かれた袴田は、その紙切れをポケットに入れる。


 刑事としての直感が、そうさせるのか。なんとなくだが、この中で……コレだけが異物なような気がしたからだ。


 そうして、机周辺を捜し終え、部屋全体を細やかに確認した後……最後に残された、本棚の前に立った。



「さて、どれから調べたら良いものか……一つ一つ1ページずつ確認していたら、一週間掛かっても全部は無理だぞ」



 何故なら、パッと見た限りでも本の量は3,400冊近くある。文庫本サイズもあれば、辞典かと思うぐらいに分厚いモノも……ぶっちゃけ、無理だ。



「おい、『I・A』。これぐらいのヒントは出してくれてもいいんじゃないか?」



 なので、ポータブルPCに声を掛けてみるが……やはり反応は何もなく、背景映像だけが表示されていた。


 ……また、溜め息を零した袴田は、再び本棚を見上げ……仕方なく、左端から順にパラパラッと本を開いてゆくのであった。



 ……。



 ……。



 …………そうして、だ。



 作業を初めてから……日が落ちて、明かりを点けて(ちゃんと、通っていた)、キャンプ用のコンロにて作ったカップ麺と、おにぎりを食べて。


 置かれている大量の肖像画やら彫刻像やらの薄気味悪さにビクビクしつつもトイレを済ませた後……今日はもう、眠る事にした。



「ああ~……疲れた」



 グッと伸びをすれば、ゴキゴキと肩周りの骨が鳴る。霞む視界に目薬を3滴……じ~んと響く鈍い痛みに、袴田はクイッと眉間を揉みほぐす。



 何一つ進展らしい進展はなかった。



 ただ、理解不能な書籍がずらっと並んでいる。


 ほとんどは洋書なのか中身が外国語だったので解読出来なかったが、その中で、辛うじて分かった事が一つある。



 それは、どうやら『I・A』の製作者は、魂とかなんとか、スピリチュアルに傾倒していた可能性が高いということだ。



 最初は気付けなかったが、気付いてから、持っていたスマホでタイトルと目次だけでもと翻訳してみると、すぐに分かった。


 内容は分からないが、タイトルから考えて、ここにある本はそういったスピリチュアル系の本ばかりなのは間違いない。


 実際、紛れ込んでいた日本語訳の本は、そういった内容だった。胡散臭い内容だった……というのが、袴田の正直な感想である。



 ……とまあ、そんなこんなで、さすがに体力の限界だ。



 時計を見やれば、時刻は21時ぐらい。何時もの就寝時間よりも2時間ぐらい早いが、今なら朝までぐっすり眠れそうだ。


 もはや、日課のコーヒーを飲む気にはなれないと、欠伸を零しながら本を元の位置に戻した。



「……?」



 その時、ふと……袴田の視線が、並べられている書籍の中にひっそりと収まっている、一冊の本に留まった。


 いや、それは本というよりは、一冊のノートといった感じだろうか。偶発的に視線が向かなかった気付かなかったぐらいに、他の本との間にスポッと収まっている。


 興味を引かれた袴田は、そのノートを取り出す。


 いわゆる、大学ノートと呼ばれているソレの表紙には、タイトルらしきモノは何も書かれて……いや、よく見ると右下に小さくイニシャルが書かれている。


 けれども、それだけ。表紙だけではさっぱり分からない。


 しかも、年期が入っているように見える。そのうえ、他の本とは違い……このノートは、ずいぶんと手垢と思わしき跡や皺(しわ)が残っている。


 単純に、書籍と違ってノートの方が汚れや跡が目立ちやすいし残り易い……というだけの話なのかもしれない。



(もしや……『I・A』が見せようとしていたのって、コレか?)



 確証は全く無い。尋ねようにも、『I・A』は沈黙を保ったままだ。


 だが、このノートだけが明らかに本棚の中では異質であり、他とは違う雰囲気を放っている。それだけは断言出来ると思った袴田は。



「……読むからな」



 誰に言い聞かせるわけでもなく……はやる心を抑えながら、そっと……ノートを開くのであった。



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