第5話 呪災 転

 私と御巫さんは旧掛橋トンネルに向かうことにした。事件の起こった林道が閉鎖されてしまったために遠回りすることになった。


 元々、運動神経があまり良くない私は崖を登ったり小川を飛び越えたりするのは相当な体力を使った。


 ガビチョウの鳴き声はうるさく、川はゴミが流れており、ひどく汚く感じた。


 二時間ほど山道を歩くと旧掛橋トンネルについた。トンネルはネズミの気配すらなくひどく静かだった。


 「不気味なところね。」


 「これからどうするの?」


 御巫さんは数秒だけ間をあけると少し苦笑いしながら言った。


 「とりあえず、ここで何が起こるのか見ておかないといけない。どこかに隠れて見ておくしかないわ。」


 「えっと、つまりこんな怖そうなトンネルで女子二人で隠れてないといけないってこと?」


 「う、うん。」


 私は考えた。このままだと私は村の上層部から消される。かといって濡れ衣を晴らすにはこのトンネルでじっとしていなければいけない。


 自分の命と恐怖心を天秤にかけた。命の方が大切だ。神社育ちの御巫さんだっているし。っていうか私のためにここまでしてくれる御巫さんがいい人すぎる。


 「まあ、ただのトンネルだし。うん。」


 「そ、そうね。」


 「……。ねえ。御巫さんは、何で出会って間もない私のためにここまでしてくれるの?」


 私が聞くと御巫さんはしばらく黙り込んだ。


 「私はね……。」


 そう言いかけたところで。一人の白装束を着た男が数人の能面をつけた着物の男に拘束されながら歩いていた。


 「あれって……。」


 「ひろあきさん!?」


 御巫さんの声に反応して能面の男達がこちらを向いた。


 「ど、どうする?」


 「やっぱり祟りって言うのは本当みたいだね。携帯持ってる?」


 「持ってないよ。」 


 「じゃあトンネルの外に出て。茂みのところに公衆電話があるから。」


 「わかった。御巫さんは?」


 「私は来た道を戻るから。二手にわかれましょう。」


 「わかったわ。」


 私は今まで来たのと反対側に走った。能面の男たちは追ってこなかった。私は今気づいた。

 

 私の走ってる方向は出口側は能面男たちからしたら死角になっていた。面をつけているため視界はそこまで広くない。御巫さんは囮になってくれたんだ。


 いや、私は最初からそれに気づいていた。気づいていて私は自分が助かるために。違う。私の方が足が遅いんだし。仕方ない。


 しばらく走っていると公衆電話があった。トンネルの、道路のど真ん中に。


 「こんなところに、何で?」


 色々あって、色々ありすぎて疲れていた。もう考えたくない。受話器をとろうとして気づいた。私は今お金なんて持ってない。


 「どうしよう……。」


 ヂリリリッ。ヂリリリッ。


 電話から音がする。恐る恐る電話に出た。聞こえてくるのは不協和音のみ。


 「ザーッ。シロ。ザーッ。ザーッ。ウシロ。ザーッ。ザーッ。ザーッ。ザーッ。ウシロ。ウシロ。」


 私の首元をひんやりとした感覚が襲う。人とは思えないほど冷えきった手は私の首元を掴んでいた。


 「えっ……。」


 「コンニチハ。アンドウユリサン。」


 電話から聞こえる声と同時に低いホラ貝を吹いた音がトンネル中に響いた。


 


 


 


 

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