彩りに満ちたこの世界で旅をする

龍爺

彩りに満ちた世界で『黒』は『桜』色と出会う

自分が産まれるよりもはるか昔、何千年も前に神様がこの世界を作ったそうだ。

神様は生き物への多様性を求めてその魂に「色」を付けたそうだけど私は自分の「色」が好きだ。

自身のコミュニティにずっと生えている

太古から根付く大きな「木」と同じこの「色」が。


世界には「三貴色」と呼ばれる「赤」「青」「黄」があり、それ以外の色はその「三貴色」同士または

それ以外の色との交わりでできた色とされ、なかには

「三貴色から色を盗んでできた色」という意味で

「色盗り(いろどり)」と呼ぶ人もいる。


でも私は自身の「色」に誇りを持っているし

両親から受け継いだこの「色」をよく表した髪も瞳も大好きだ。

この「色」とコミュニティの「木」の名前から

あやかってつけられた自身の名前「オウカ」も

とても気に入っている。


さて、自分語りによる現実逃避もここまでにして、少し自身が置かれた状況を再認識してみよう。。。


手に持っているのは今朝、早起きして摘んだ薬草。

それも目の前の「コレ」から逃げるのに必死で

頑張ってたくさん集めたというのに今は手の中に

ある数株のみ。


腰には短剣が二本。こういう時に自衛できるようにと持ち歩いているが基本的には薬草を採取する際に株を

切り分ける用途に使用していて、もちろん目の前の

「コレ」に対抗できるはずもなく。なんだったら

この短剣で切ったことある生き物は野兎程度

しかも皮を剥ぐのに使ったぐらい。。。


奥の手もあるにはあるけど、目の前の「コレ」とは

圧倒的に相性が悪い。

そう、目の前にいる「コレ」。全身を『赤』い鱗で覆われた大蛇には。


「な、なんでこんなとこに三貴色の生き物が。。。

ここは『桜』コミュニティの近くなのに!!」


「ふん。コミュニティなんぞは所詮、お前たち『人』

が定めたものにすぎない。我々生き物はただ

生きたいように生きるのみ。今は腹が減った。

目の前に丁度よい食い物がいる。ならただ

喰らうのみ。」


「え、嘘。。。生き物が喋ってる。。。これも三貴色

だからなの。。。?」


「先ほどから三貴色だなんだと煩わしい小娘よ。

もうよい。せめてもの情けで一呑みにして喰ろうて

やろう」


(やばいやばいこのままじゃ食べられる!死ぬ!こんな

死に方やだ!もうこうなったらせめてもの抵抗で奥の手を使うしかない!!)


「ではいくぞ。恨むならここで我に出会った己の不運

を恨むがいい!!。。。む?」


オウカの体を『桜』色の光が包んだかと思うと大蛇の

目の前からオウカの姿が消える。


「む?『色』による魔法か。姿を消したということは

幻を見せるような魔法だな。だが残念だったな。

元より蛇である我にその手は通じぬ。」


生き物として蛇には「ピット器官」というものが

備わっており、これにより「熱」を感知し赤外線に

よってモノを捉えることができる。


対象の視覚を惑わすオウカの色魔法にとって蛇はまさに天敵と言える存在だった。


「そこだ!!」


大蛇が何も無い空間にその尾を振るうと何かが尾に

ぶつかる音、その後に付近の木にさらに何かが

叩きつけられる音がする。


ゴッ!「かはっ!」


大蛇がそのまま少し待つと音がした木の前に口から

血を流すオウカの姿が現れた。


「なんっ!こんな。。。無理だよ。。。」


「残念だったな。知っておるぞ。『赤』『青』『黄』

を元に生まれたお主らのような『その他の色』の

ことを人は『色盗り』と呼ぶそうだな。人の理は

知らぬが、所詮は三色以外の色の力などたかが

知れているということだな。さて、そろそろ我の

空腹も限界だ。いただくとしよう。」


大蛇が口を大きく拡げ、その顎で少女を丸のみに

しようとその顔を近づけてくる。


(こんな、こんなところで死にたくないよ。。。

誰か、誰か助けて。。。!)


「自然の摂理で片づけてしまうのも簡単だけど、

やっぱり女の子が目の前で蛇に丸呑みにされるのを

見逃すのは目覚めが悪いなぁ。」


「む?」


オウカが半ばあきらめかけていたその時、

いつの間にか大蛇とオウカの間に見知らぬ人が

立っていた。


(え?誰?というかこの人、なんだろ。。。黒い髪?

瞳も?こんな色の生き物がこの世界に存在するなんて

聞いたこと無い。)


「ふーん、『赤』か。だったらこの色かな?」


その人がそう呟いた後、ありえないことが起こる。


「ぬ、なんだ小僧。我の食事の邪魔をしおって。

それに、待て小僧!それは、その髪と瞳はどういう

ことだ!?」


その人の髪の色と瞳は現れた時、全てを吸い込む

ような『黒』だったが今はどういうことかその『色』

がどこまでも澄み渡るような深い『青』になっていた。


「どういうことだ!?我々生き物に神より与えられた

『色』は一つの魂に一色のみのはず!!そのように

『色』が変わる生き物など見たことがない!!!」


(え?え?どういうこと??いま確かに髪の色が

変わったよね?あの蛇の言う通り一つの魂には一つの

色しか与えられていないんじゃないの?)


「まぁまぁ細かいことはどうでもいいでしょ。

あなたはどうせ死ぬんですし。」


「なに?なんと不遜な小僧だ!我の『色』の力は

喰らう為ではなく殺す為のものであるため

そこの小娘に使うことはなかったが、よかろう!

お主を殺す為にこの力を見せてやろう!!」


そう言った大蛇はその大きな首を持ち上げ

少女を呑みこもうとした時よりもさらにその口が

拡げられたかと思うと、その先に人ひとりなんて

簡単に包み込み、それどころかそのまわりをおよそ

数十メートルは簡単に燃やし尽くしてしまいそうな

ほど巨大な炎の玉が現れた。


(そんな!?こんなのレベルが違う!同じ『色』の

力でも生き物としての「格」が違うとここまでの

ものができあがるっていうの!?)


「見よ!これが神より授かりし『赤』の力!!

加減ができぬゆえ、このままではそこの小娘も共に

焼き尽くしてしまうだろうがもはやかまわん!!

お主もろとも消し炭にした後、その小娘のコミュニ

ティとやらに赴き腹を満たすとしよう!!」


大蛇がそう話すうちに炎の玉はどんどん大きくなって

いき、今では数十メートルどころか目に見える全てを

焼き尽くさんばかりの勢いをつけている。


「ふーん。なんだそんなもんか。というかそれ

どうやって喋ってるの?そっちの方がすごいと

思うんだけど?」


「な!?どこまでも生意気な小僧だ!!

もういい死ねえぇぇぇ!!」


「に、にげて。。。私のことはいいから。。。」


まさに怒髪天を衝くがごとく怒り狂う大蛇。

髪はないがその代わりとばかり全身の鱗を逆立て

激昂する大蛇がその力を放とうとしたその時。。。


「小僧小僧ってうるさいね。僕には『クロエ』って

ちゃんとした名前があるんだよ。というかお腹が

空いてるのはこっちも一緒なんだけど。決めた

今日は蛇のかば焼きにしようか。」


そう言う人。。。クロエがそんなことを言いながら

右手の指先を左手側に向けて水平に構え、そのまま

左から右に振った。


「死いぃn」


大蛇はそれ以上言葉を発することができなかった。


(なんだ!?なぜ言葉が出ない!?それに視界が

まわる!!どういうことだ!!な、あれは我の胴体?

どういうことだ?一体何が?。。。まさか我は首を

切られ。。。)


そこまで思考し、それ以上大蛇が考えることは

できなかった。

なぜなら先ほど巨大な炎の玉を放とうとした大蛇の首

から上は自身の胴体と分かたれており、そして

そのまま大蛇は絶命してしまったからだ。


(な、今なにが起こったの?あの人が手を振った後に

大蛇の首が一瞬で切断されたように見えたけど。。。)


「はい終わり。今のは『青』の力を使った技で、

高圧縮した水の刃を飛ばして物を切断する魔法

なんだけど。もう死んでるから聞こえてない

ですよね。」


そう言ってクロエはオウカの方に向き直ると、倒れて

いるオウカの前で片膝をつき話しかけてきた。


「大丈夫。ではなさそうですね。すぐ治すのでその

まま楽にしてください。」


「あ、えっと。ありが。。。え?」


クロエがそう言うとオウカはふたたび信じられない

ものを目にする。

クロエの体が淡い緑色の光に包まれたかと思うと、

その髪と瞳の色が光と同じ淡い緑色になったのだ。


「癒しの力を使うには淡緑の『色』の方が都合が

良いので。『淡青』でもよかったんですけど

森の中では『緑』系統の力の方が治癒力が

高まるんですよ。」


そういってクロエが手の平をオウカにかざすと、

その先から淡い緑色の光が溢れ出てオウカを

包み込む。


(なんて優しい光なんだろう。。。)

(すごい気持ちいい。。。)


しばらくして光が収まると、おそらく尾で叩きつけ

られた時に損傷したであろう内臓や折れてしまった

肋骨の痛みがすべてなくなっていた。


「はい。これで大丈夫です。後は口からたれている

血を洗えば完璧です。」


「あ。。。助けていただいてありがとうございます。

私はオウカともうします。」


「ご丁寧にありがとうございます。僕の名前は

クロエっていいます。おそらくこの世界で最後の

『黒』の人です。」


「え、『黒』?最後?それって。。。」


そこまで言ってオウカは急な眠気に襲われ、自分では

どうすることもできずに意識を手放してしまった。


「おっと。極限状態でギリギリ意識を保っていたのに

体が癒されて緊張の糸が切れてしまったかな。」


そういって倒れそうになったオウカを片手で

受け止めたクロエはそのまま彼女を地面にそっと

寝かせる。


「さてと。じゃあ今のうちにこの蛇を解体してご飯に

しましょうか。蛇のかば焼きは久しぶりなんで

楽しみです。」


お腹が空いていると言っていたのは本気だったようで、大蛇の死体を見るクロエの目はキラキラと輝いていた。その口の端にはこれから調理する蛇の味を想像したのか涎が輝いていた。。。


「さて、解体してご飯にするのはいいとして、

その後どうしようかな。そういえばこの人は

『桜』コミュニティって言ってたな。。。

『桜』コミュニティといえばたしか『桜の木』

というとても綺麗な大木が中心に生えているって

何百年か前に聞いたことがあるな。。。」


そう呟くクロエの髪と瞳はいつの間にか初めて現れた時のように『黒』に戻っていた。


「よし決めた!次の旅の目的は『桜』コミュニティ

の大木の下でお花見です!」


そう言ったクロエの胸の内は、これから向かう先での

新しい『色』との出会いを想いとても期待に満ち溢れていた。


「楽しみだなぁ。今度はどんな彩りに満ちた世界が

見れるんだろう。」


これは色に溢れた世界をたった一人の『黒』の

生き残りが旅をする。

そしてたくさんの『色』と出会いたくさんの経験を

する。そんなお話。

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