6. 司書は聖母の家に招かれる お迎えドライブ編

 --空の宮市内 某駅付近にて--

「まもなく▢▢、まもなく▢▢、お出口は左側です。」

「……はっ。」

 ゆったりと電車に揺られながら穏やかな日差しを浴びるうちに、うとうとしてしまったみたい。

 まりあ先生のお宅の最寄り駅は、ここね。寝過ごさなくてよかった。

 電車を降りて、まりあ先生に、駅に着いたと電話をする。

 駅に着いたら電話してほしいと、電話番号を教えてくれたのだ。

 まりあ先生のお宅は、駅から少し離れたマンションだそうで、まりあ先生は駅まで車で迎えに行くと言ってくれた。

『もしもし、宇津森です。▢▢駅に着きました!』

『はあい、今向かってますー! 北口から出るとロータリーがありますので、そちらで待っててください! 車はライトローズのダイハツのキャストです!』

『わかりましたー。お電話切りますね!』

 ……あれ?

 まりあ先生、運転しながら電話してたの?

 で、でも。

 “駅に着いたら電話をください”って言ったのはまりあ先生よね?

 そんな法律違反する人にはとても見えないけれど!?

 あと、ダイハツのキャストってどんな車だっけ?

 普通自動車運転免許は持ってるけど車に疎い私は、ダイハツのキャストと言われてもピンとこないのであった。

 うーん、でもライトローズって言ってたしとりあえずピンク系だよね……?

 とりあえず、北口から出てロータリーに向かいましょう。

 頭上にある案内板に従って行くとすぐに北口に出られた。

 まりあ先生の言っていたとおりに、北口から出るとロータリーが広がっていた。

 ロータリーの中の丸い空間には花壇が綺麗に整えられていて、植えられている樹は青々とした葉を茂らせている。あれは桜かな。春先に来たら綺麗でしょうね。

 そんなことを思いながらぼーっとしていると。

 またまりあ先生から電話が!

『今着きました! どのあたりにいらっしゃいますか?』

『あっ、ええと。駅の入り口から動いてないです!』

『そうですか。ええと、ニアマートが見えるはずですのでそこの前まで行ってください! そこなら停車OKですので!』

『わかりました!』

 ニアマートとは、空の宮市近郊に展開する地域密着型コンビニエンスストアである。

 星花の近くにも店舗があり、星花関係者にはおなじみのコンビニである。

 指示通りにニアマート前まで向かうと、すぐにピンクゴールドの様な色合いの軽自動車が向かってきて停車した。

 窓越しに運転席のまりあ先生と目が合うと、まりあ先生はにこっと微笑んで助手席のドアを開けてくれた。

「おはようございます!」

「ま…幸先生、おはようございます。 ありがとうございます!」

 ずっと頭の中で“まりあ先生”と呼んでいたから癖が出そうになっちゃった。

 ささっと助手席に乗り込み、ドアを閉めてシートベルトを締める。

 私がシートベルトを締めたのを確認すると、まりあ先生が車を発進させた。

 優しい発進の仕方で、ウッとならない。

 カーラジオからはパーソナリティの明るい話し声が聞こえてくる。

 カーラジオの声を背景に、まりあ先生が話しかけてくる。

「入学式にマスコミが大挙するくらいに、星花にはアイドルや芸能人が何人もいますけれど。そんなにいるなら一人くらいラジオパーソナリティもいるかもしれないと思うんです。私、ラジオを聴きながらドライブするのが好きで。」

「そうなんですか! 私はそういう芸能方面にはとんと疎くて。運転免許はありますけれど車が無いから運転はあまりしてないんです。カーラジオを聴くのも久しぶりで新鮮ですね。」

「まあ。」

 まりあ先生が笑っている。

 そうだ。

「そういえば幸先生。少し聞いてもいいですか?」

「なんでしょう?」

「私がさっきお電話した時、幸先生は運転中でしたよね?」

「ええ。」

「あの。……どうやったんですか……? まさか、ながら運転というわけはあり得ませんし……。」

「あはははは。まさかぁ。今はカーナビに電話機能があるんですよ。次、信号で止まったら教えますね!」

「え、カーナビで電話?」

 ますます訳が分からない。

 困惑しているうちにちょうどよく? 赤信号で止められた。

 まりあ先生はカーナビの画面を操作する。

【電話】という項目の下に【履歴】【電話帳】【ダイヤル】【Bluetooth設定】とある。

 そしてまりあ先生は自分のスマートフォンを見せてくれた。

「カーナビと電話をBluetoothでつなげられるんです。これでカーナビから電話の操作ができるんです! スマホで流している音楽を車のスピーカーから流すこともできるんですよ。」

「へぇー!! 今はそんなに便利になってるんですね!」

「ご存じありませんでしたか。」

「ええ。初耳でびっくりです。」

 まりあ先生が前を見る。

 少しすると目の前が青信号になったので、ゆっくりとまたまりあ先生は車を発進させる。「ですので、掛かってきた電話を受けるのはワンタッチで簡単にできるんですよ。こちらから掛けるのは操作がいるので、信号とかで止まってるときしかやりませんけれどね。あっ。今はアプリでの通話も増えていますけれど、私のナビは普通の電話回線の通話しか使えないです。電話番号で掛けるものですね。」

「あっ、だからわざわざ、この番号に掛けてって言ってたんですね。メッセージアプリはお互い登録してあるけれど。」

「はい! だから、次回以降も車でお迎えの時は番号でお願いしますね。」

「わかりましたー。」

 まりあ先生、さも当たり前のように、今日のようなことを今後も続けようというような口ぶりよね。

 まりあ先生のその態度に、私はほっとして穏やかになっていく。

 今楽しくて心地よいのは、私だけでなくまりあ先生も、ってことよね。

「もうつきますよー。」

 話しているうちにもう着いたみたい。

「駅から歩いても15分くらいで着けるんですけど、ちょっと暑くなってるのと私がドライブしたかったので車でお迎えしました!」

「助かりましたよ。ありがとうございます。」

 マンションの駐車場に車が止まる。

 まりあ先生に連れられて私はいよいよ、まりあ先生のお部屋へ失礼する。

「お邪魔します。」

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