【超短編】好奇心は誰を殺すか?

茄子色ミヤビ

【超短編】好奇心は誰を殺すか?

 俺の死刑方法は電気椅子にすることにした。

 いやぁ自分で死刑方法を選べる州に引っ越してきたのは大正解だった。

 少しでも税金を無駄遣いさせてやろうという寸法だ。

 あとの理由としては、俺が耐えれば耐えるほど、俺のことを心底軽蔑し早く死んで欲しいと願う連中に対してのちょっとした嫌がらせだ。

 さらに小便を垂らすからと勧められたおむつも断ってやった…流石にこれは通らなかったが。

 どう考えたって情状酌量の余地はあるのに、裁判官の野郎はイカかれているとしか思えない。担当弁護士にしたってそうだ。

 俺が連続猟奇殺人犯であっても「愛する息子を事故で亡くした直後からおかしくなった」という事実を、どうして考慮にいれようとしないのか?

 弁護士団体の理事の娘を●●して××したことが何か関係してるんだろうか?

 この国の司法は公正明大ではなかったのか?

 しかし後始末を完璧にしてくれていた馴染みが、まさか交通事故に遭って逝っちまったのは、俺も運がなかった。やっぱり自分でやるってのはダメだね。方法や手際なんて丸っと同じにしたつもりだったのに、警察は証拠を集めやがった。

 だから世に出ている俺が殺した人数というのは3人程度だ。

 それなのに死刑っていうのはどうなのだろう?前例はあるのだろうか?まぁ今更どうこういっても仕方ないし、既に猿轡をされている以上文句も言えないのだが。


 しかし思い返すのは息子のことだ。俺に似て非常に好奇心の強い子供だった。

「あんたの子供よ」なんて昔俺に買われたという娼婦がガキと一緒にドアのを連れてきたときは驚いた。

 しかしまぁガキのツラの不細工さが、娼婦のそれと俺とのちょうど合いの子なのが面白くて、すぐに家に入れてやったことは後悔していない。

 俺が後悔しているのは、ガキの好奇心を舐めていたことだ。

 あの女が隣に住んでいたオッサンと出来ていて、ケツを蹴り上げてから追い出してやったことに一切の後悔はないが…ガキのことだけは本当に後悔している。

 日本には『好奇心猫をも殺す』なんてコトワザがあるそうだが、ガキは自分のことを殺しちまった。

 まだ四つん這いでしか歩くことが出来なかったことが災いして、俺の『趣味部屋』の防犯センサーに引っ掛からなかったのだ。そして俺の趣味で持っていたコリブリの引き金を引いちまった。

 2・34ミリの弾丸は、ガキにとってはそこまで小さなものじゃなかったらしい。

 俺のガキより小さな赤ん坊が、ビルの何階からら落ちて助かったなんてニュースを見たことはあったが…世の中そう上手くいかなかったらしい。


 そんなことをのんびりと思い返していたら、俺の全身は身体は固く反り上がった。

 続いて俺の手足の20本の指が引っ搔くような形で固まった

 それを解こうとしても一切動いてくれようとしない。そりゃあ俺を殺すための電圧なのだから仕方がない。筋肉や内蔵がズタズタになっているのが分かる。

(こりゃあ、耐えられる時間は、そんなに長くないかもな)

 と、頭によぎった瞬間…視界がふっと開いた。目隠しをされているはずなのに、俺はこの狭い死刑執行部屋の全体を見渡すことが出来た。振りかえると俺が椅子縛り付けられ、泡を吹きながら痙攣している。おいおい、可愛そうじゃねぇか。

 そして…俺の足元にはガキがいた。

 俺の子供だ。

 あのとき俺の不注意で死なせてしまった、俺の子供がそこにいた。

 四つん這いで不思議そうに俺を見あげ、椅子に縛られた俺とを交互に見比べている。

 そうか…迎えに来てくれたのか。俺はガキに手を伸ばして…。


・翌月発売されたオカルト雑誌記事より抜粋


 大量殺人犯のAの死刑は、本人希望の電気椅子によって先月16日に執行された。既定時間を越え装置を止め、死亡確認を行おうとした医者は驚いた。

 なんとAは生きていた。原因は機器の点検不足であったと発表されたのは皆様の記憶に新しいのではないのだろうか?しかし我が雑誌の優秀な記者は、それ以上の情報を掴んだ。情報提供者の素性を公開することは出来ないが、彼曰く

「息を吹き返した彼は、どこか幼い表情で周囲を見回していました。職員は手順に従い行った二度目の執行は恙なく行われ、医師により彼の死は確認されました。しかし再び電気椅子のスイッチが入れられる寸前、その場にいた全員が聞いたんです。『そこに入ってるのは俺の魂じゃない』と」 

 



 

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