第24話 魔女

「おやタフラがいル。うれしいネ。」

 魔女は上を向き、シズル達の様子を観察している。メテットはタフラという言葉に反応する。


「タフラが? どこに?」


 あたりを見渡してもタフラはいない。


「ここではなイ。私は私の腹の中にあるものならどこでもわかるのダ」


「ハラ? ここが? おマエはここにいるじゃない」


 困惑するメテットに魔女は自分の胸に手を当てて説明する。


「私は意識体ダ。以前魂を鳥に変える魔法に自らかかってネ。最初は難儀したが、今では、膨張した肉体に命令を与え動かせるようになっタ。一応、狙い通りになったわけダ」


「タマシイを……!? なんてムチャ……」


 魔物は魂の消滅が存在の消滅に直結する。それだけならまだいいが、稀に魂が消滅しても魔物が消滅しない堕転ダテンという現象が起こることがある。その場合、魔物の体は暴走を始める。


 黒い雫が漏れていたり体が膨張したりすることは典型的な堕転の初期症状である。


(オモいっきりダテンしてるじゃないか……! ミズカらタマシイをキりハナすなんて、こいつ、アタマがおかしすぎる!)


 魔女がおかしいのは今に始まったことではない。

 メテットはそう思うことにして、次の質問を投げかける。


「……ここがオマエのハラのナカなのはリカイした。タフラとは、シりアいなのか?」


「そりゃあもウ。タフラは死にかけの蝶の頃から知っているサ。タフラが人となり逃げ出した時程ワクワクしたことはなかったヨ。」


 魔女の話ぶりから、やはりこの魔女がタフラを人に変えた張本人らしい。


(……こいつがスベてのゲンキョウか。ただ、ヤツが人に変えたのならラナのあのジョウタイはどういうことだ?)


 もし魔女が人型に変える魔法の持ち主ならば、ラナはいったいどのような魔法をかけられて首のない状態になっているのか?


(おそらくホカにもマモノがいるな。ケイカイド:コウ。)


 メテットは油断なく、魔女を監視する。

 魔女はというと、もちろん気にすることはなく


「虫が人になり、そして私の腹の中から脱出しタ。これは劇的な変化だヨ」


「ナニかがカわることがスきなのか?」


「変えることで得られる可能性が好きなのダ」


 カラス頭の魔女は腕を広げる。


「誰しも何かに影響を与えたいと思ったことはあるはずサ。それも何かの可能性を広げるようナ。私はそれがしたイ! 私は可能性の木の幹となりたいのサ。」


「カノウセイ……」


 確かにタフラはあの姿になって、多くのことができるようになったのだろう。

 現に、タフラによってあの手この手でラナ達は苦しめられた。


「タフラは失うには惜しイ! だから、念のため付けていた発信機を辿り、ここら一帯をタフラごと飲み込んだのダ。そうしたら、君達がついてきタ」


「……なるほど、オマエはリヨウされたわけだな」


「利用? どういうことダ?」


 疑問を抱く魔女にメテットは指をさして答える。


「タフラはハッシンキをシっていた。ヤツはジブンをエサに、ワタシタチをおマエにハイジョさせるためにここにオビきヨせたのだ。」


「なんと、私がまんまト!?」


 魔女はタフラに利用されたことを聞き、感極まった。


「逸材じゃないカ。私の予想を遥かに超えて、しかも君達までつれてきタ! 他3体とは一線をカクしていル!」


「ホカサンタイ??? えっサンタイいるのか??」


 メテットの声は今の魔女に聞こえない。


「やはりタフラには成長してほしイ! いろんな薬を与えたイ! できれば今すぐにでモ! だが……それよりも先にこの娘を調べたイ」


 魔女はラナの体をじっと見る。


「……! ラナにテをダすな」


「いいや、出すとモ。なにしろ娘の体はかけられた魔法と。体に他の魔法が適合し、自分のものになりつつあるのだ。……そういう魔法を持っているのだろう? おそらくは、他者の魔力を己の魔力に変えるというような」


(……ラナのマホウをカンパしている!?)


 魔女はにこりと笑う。


「これはすごいことだ。私では貯めた分しか他の魔法を扱えない。だが、娘は完全になじんでしまえば、自分の魔法としてその魔法をいくらでも生み出せることが出来るかもしれない。それどころか、複数の魔法が混ざり合うことで、新たな魔法を生み出すかもしれなイ!」


「ホカの……マホウ!?」


(こいつ……フクスウのマホウをアツカえるのか!? マホウはマモノイッタイにつきヒトつまでのはず……いやマて、タめたブン? ということは……)


「彼女の力は魔物の中でも異質ダ。だから、隅から隅まで調べたイ。それにもし、私にこの娘の魔法を定着させることが出来たなら、私の可能性ももっと広がるだろうからネ」


 メテットは彼女を見ていた。


「……オマエのカンガえもわからないわけじゃない。オマエはネっからのタンキュウシャだ。メのマエにヒカリがあるならヒかれずにはいられない。そんなオマエがラナをミたのならススまずにいられないのだろう」


 そして彼女もメテットを見ていた。


「だが、ラナはイマ、イチバンダイジなところなんだ。オマエのケンキュウにリヨウされるジカンはない。だからコンカイは、アキラめてくれ」


「……? 友ヨ。どこを見ていル?」


 魔女はメテットが自分を見ていないことに気が付く。


「――〝ヒラけ〟」


 メテットがそう唱えると、魔女の後ろに窓が展開される。


 魔女は急いでどこからともなく飛んできた宝玉を付けた杖を持ち振り返った。


 その時に、メテットの窓の中から出てくるシズルと目が合った。






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