第23話 腹の中

 口の中に隠れ家ごと呑まれていくラナ達。どうやら隠れ家は90度程回転したらしく、ラナ達は隠れ家の左側の壁にその拍子に打ちどころが悪かったのか、頭をぶつけたメテットとタフラは気絶してしまう。

 ラナが状況を確認しようと顔を上げた時、隠れ家の天井だった(今は90度回転し、ラナから見れば壁となっている)ところがバリっとめくれた。


「何が……きゃあ!?」


 隠れ家は更に回転し、今は穴となった隠れ家の天井から全員放り出された。

 ラナは反射的に翼を広げる。飛ぶことは出来なかったが、落下速度は少し遅くなった。

 しかし、それがいけなかった。翼を広げたことで、目立ってしまったのだ。ラナの首に鋭い痛みが走る。


 ラナはその痛みに耐えきれず意識を手放していった。

 

 「ぬッ!? 首から火ガ!? いかん、紙類が燃えル!」


 ラナは意識がなくなる直前にそんな声を聞いた。



————

(…何が起こったの? シズルさん、メテットさ…じゃなくて、シズル、メテットは無事でしょうか。)


 ラナはゆっくり目を開ける。そこは薄暗いが、周りに光るものがあるおかげで、完全な闇とはなっていなかった。

(あれは黄金洞窟の…待って? )

 ラナは隠れ家の光源と同じキノコが生えているのを見つける。そこで右目の視界に映るもの全てが高いことに気付いた。

「もしかして、魔法で小さく……!? あれ、あれ? このちょっとぬるぬるしてるの地面? なんで地面? がこんなに近いんですか!?」

 ラナは自分の状況を段々と理解していく。

「え、嘘まさか……」


「ええええええ!!?」

 ラナの頭から黒い煙がボンッと出た。



「ラナの声! あっちだわ!」


 シズルは、ラナの声がした方へと薄暗い空間を駆け抜ける。


「ラナ! ラナ……ラナぁ!? あっ!? あああぁあ!」


 シズルは駆け抜けたところで、変わり果てたラナを発見し、驚愕した。

 その際に床がぬるぬるなのもあり、滑って転んでしまった。


「え!? ら、ラナなの!?」

 

 シズルはすぐに起き上がり、ラナを見る。


「シ、シズルサァン……」

 

 シズルは今のラナにないものを指摘する。


「体どこ行ったのよ!!?」

 

 今のラナは首だけの状態でシズルに発見された。


「……あの、もうちょっとこう、下の方に、視界がいろいろと……」


 シズルはラナに合わせてラナの首を持つ位置を変える。


「ここくらい? にしてもちょっとぬるっとしてるわね。もしかして……溶けた?」


「怖いこと言わないでくださいよシズル。溶けてこれだけになったのなら、ワタシ消滅してますって」


「そ、そうよね。ごめん。それにしても、よく燃えなかったわね、ラナ」


「いやもうそこは全身をキュッと……って今は首だけでした! アッハッハ……すいません。場を盛り上げたかったのですが。」


「いや、うん。こっちこそごめんね。」


 シズルは微妙な顔をする。


「ごめんね。守れなくて……ずっと」


 ラナはきっぱりと答える。


「あれはしょうがないです! っていうかずっとしょうがないですよ! そんな中でも、シズルはちゃんと助けてくれました!」



「だから、今回もお願いします。ワタシをまた、助けて下さい」



 シズルは脇に抱えたラナを見る。


「ラナ……任せて」


 ラナは現状を分析する。


「まず、ここはどこなんでしょう? 地面が土じゃなくて、少しぬるっとしてます。時々動いてますし」


「……多分、お腹の中、おっきい魔物のね」


 ラナはシズルの話を聞いて驚く。


「えっ!? 魔物の中!?」


「ええ。いろんなものでごちゃごちゃしてたから最初分からなかった。光るキノコの周辺見て気がついたけど周りの壁、全部肉なのよ。隠れ家で起こった地震はその魔物が隠れ家ごと私達を呑み込んだ時に起こったものだと思うわ」


(……そうか、だからあの時シズルは『溶けた?』と聞いたんですね……もしかして……いや、考えないようにしよう。)


 今の自分が本当に溶け残りだと考えるのは嫌だったので、ラナはその考えを消す。

 頭の中から怖い想像を拭うために別のことを考えようとしたラナはふと、隠れ家のことを思い出す。


「隠れ家、大丈夫でしょうか……? 穴が開いた上に回転したので中のものが……」


「……それなら心配はいらなそうよ。私たちの隠れ家も、めくられた天井も穴から飛び出した物も全て黄緑色の泡に包まれて、全部のを見たの。時間が巻き戻るみたいに」


「え!? そうなんですか!?」


「ついその光景に呆気に取られてラナ達を見失ってしまったからね。間違いないわ。多分隠れ家は大丈夫だから今は自分のことを気にしなさい」


 そう言うとシズルは前を向き、進む決心をする。


「とりあえず、奥に進んでみるわ。メテットも見つけないとね」


「メテット、無事でしょうか。シズルも転ばないよう気をつけて下さいね」


「わかってるわよ。さっき転んだし気をつけ」


 ズルッ


「オワァ滑っちゃった!?」


 ポーンっ


「ひゃあああ!?」


「ああっラナ!!」


 メテット捜索はなかなか進まなそうだった。



「アワワ……ラナのクビが!」


(クビなし! だけどショウメツしないってことはまだダイジョウブなのか……?)


 一方メテットは気が付いてすぐ手術台の上に固定された首のないラナの体を見て腰を抜かしていた。

 手術台の周りには謎の玉が3個浮いており、ラナの体を照らしていた。手術台の隣には解剖道具が置かれた机がある。

 これら一式が薄暗い空間の真ん中にある為、異質感が強かった。

 そしてメテットはというと、すぐ後ろにいるカラスの頭で魔女帽をかぶり、黒いマントを羽織った魔物に監視されていた。


(ラナ? をつれてニげたいのに…なんだこいつ、キョリカンがおかしい。)


 魔物はクチバシをシズルの顔の横ぐらいまで近づけていた。

 すると、


「まずは……味だナ」


「リカイフノウ! なぜメテットのホオをナめる!?」


 クチバシが開くと、歯並びの良い人の歯がびっしりと生えており、その奥から出てきた少し長めの舌がメテットの頬をべろりと舐めたのだ。


「相互理解にこれほど相応しい手段もなイ」


「ソウゴリカイにモットもフサワしくないコウイ!スデにトウキはアナタとカカわりあいたくない!」


 メテットは拒絶の意を示す。

 しかし魔女はまるで気にしない。


「フム。やはり頬は鉄の味。人の形なのニ。面白イ」


「マッタくオモシロくない! アナタのモクテキはナニ!?」


「知的好奇心を満たすこト。どレ」


 そう言いながら魔女は今度はラナのスカートをガジガジと齧る。


「ナニしている!? ラナをハナせ!!」


「うん布の味! 面白くないナ」


「オマエのオモシロいのキジュンはなんなんだ!?」


「変わっているかいないかダ。その点でいうなら君は高得点ダ。私と友達になろウ」


「コトワる!」


(このカンじ……! マチガいない! こいつはこのホシのナカでも、カカわってはいけないブルイ!)


「ああ、これはお近づきの印ダ。受け取ってくレ。」


 そういって魔女はメテットにネジを差し出した。


「……ネジ?」


「さっき君を分解した後、元に戻したはずなのに何故か余った部品ダ」


「ナニしてくれてるんだオマエはぁぁぁ!!!?」


 世にも珍しいメテットの大絶叫が響き渡った。


 シズルは遠くから聞こえたメテットの声に目を丸くする。


「今の……メテット? あんな声出せるのね」


「いや! あのメテットがあんな声出すってよっぽどですよ!」


「そうね。急いだ方がよさそうだわ。っと、全く滑るわ……!?」


「チィェアア!」


「ハッ!」


「そりゃあ!」


「エーイッ!」


 シズルは四方向から来る攻撃をラナを落とさないように慎重に躱す。


「っと……何よ!?」 

 シズルは襲撃者をきっと睨みつける。


(さっきの声の中に知ってる声が……まさか)


 ラナは先程の声の中の一つに嫌な予感がした。


「ふっははは……はーはっは! 随分と減量に成功したな! ラナよ!」


「……ほんといい加減にしてよ……」


 シズルは目の前の悪夢に絶句する。


「裁きの時だ。蝶人チョウジンタフラが引導を渡してやる!」


蟷螂人トウロウジンマスティ。参ります」


蜥蜴人トカゲジンリードも行くぜぇ!」


飛蝗人バッタビトキャス。行くよぉ」


 いつぞやラナがいっていた蝶以外の眷属がタフラと同じように、人型に変貌し、集結していたのだ。

 ラナは自分の目を疑いたかったが、

 全員、背中に眷属の印である蝙蝠コウモリの翼が生えていた。

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