第13話 乱闘

「あいつら?」


 シズルは店主に確認を取る。


「ああ、あの切り株みてぇな頭したやつと、浮いてるぼろ布みてぇなやつ。あいつらだぁ。確か昔そんなこと言ってたよーな気がするぜぇ。」


「わかったわ。ありがとね、店長さん」


「ひひひ、顔変わったなぁ。お前うちに適正あるなぁ。毎日来いよ。歓迎ぃするぞぉお?」


 にたにたと笑う店主だったが、シズルは冷たい視線を向けて


「冗談でもやめて。不愉快だわ」


 と、ばっさり切り捨てた。

 シズルは酒場の店長が言っていた2体の魔物に近づいた。

 片方の魔物の見た目は縦長の木の魔物だった。木には目と口の役割を果たす穴があり、目の穴のすぐ上は伐採されて、店主の言った通り、切り株のように見える。うねうねと木の根が動いており、その中の2本が足となっている。

 もう片方の魔物は灰色のボロ布を纏い、その布の中から闇が噴き出している。足は無く浮いており、布の中から一つ目が怪しく光っていた。


「飲んでるかしら。私の釘酒、お味はどう?」


「おお、ガツンとくる。口もケツも火が出るようだぜ」


「飲みすぎると発火しちまいそう。へへへ!」


「そりゃいいわね。燃えるくらい飲めたらそれはそれで幸せじゃない?」


 シズルの言葉に二人組は大きくうなずきながら下品に笑う


「「違えねぇ! それだけ飲めたら燃えてもいいや!!」」


「フフフ、元気ねぇ。ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、貴方達、金髪で赤い目の、蝙蝠コウモリの翼を生やした子知らない?」


 シズルの質問に切り株頭の魔物は反応する。


「あ~? ……あーっ! 知ってるぜ!! うろちょろしてたあいつだ! 酒も飲めねぇちびのくせに酒場に近づいた馬鹿野郎だ!」


 その言葉に思い出したのかぼろ布を纏った魔物も話し出す。


「あいつかぁお父さんとか泣いてた奴だ! あれは悔しかったなぁ、あいつの酒はきっとみずみずしくてよかっただろうに。生意気にも逃げやがったんだ!」



「それだけ聞ければ十分よ」



 シズルは二本の大釘を瞬時に生み出し深々と二人組の胴体に突き刺した。


「がぁあ!?」


「うぐぅ!?」


 突然刺された二体の魔物はうめき声をあげ膝をつく。


「おぉ? なんだ!? 乱闘かぁ!?」


「負けたやつが酒になれ!!!」


「うっせぇお前が酒になれヤァ泥団子ぉ!!」


「ぶへぁ!? やったなてめぇが酒になれ!」


 周りの魔物達がいきなりの刃傷沙汰に興奮し始める。

 そして、刺された当人達も。


「ぐげげ……へぇっへっへっ。お前……おえっ……あいつの母親かなんかかぁ?」


「友達よ。ひどい目にあったらしいからやり返しに来たの」


「けひひ……復讐かぁ? ……面白れぇなぁ」


 二体はゆっくりと立ち上がる。


「お前の釘はよかったからなぁ。お前そのものなら」


「きっと格別だろうなぁああああ!!!」

 

 この一声を皮切りに乱闘が勃発した。


「おいシズルはナニをしている!? ラントウにマきコまれるどころかラントウをヒきオこすガワになっているんだけど!!??」


 当然中の様子を伺っていたメテットはシズルの奇行に大慌てする。

 もし乱闘に巻き込まれた側であればシズルはこっそりとメテットの窓で助けられただろう。しかし、張本人とあっては注目されているのでそれもうまくいかなくなってしまった。

 どうしたらいいのかわからずただただ狼狽しているメテットをよそにラナはシズルが刺した二人組に注目する。


「あの人達は……まさか……」


 ラナはシズルが刺した二人組に覚えがあった。

 忘れるはずもない。昔ラナを酒にしようとした危険な2人組である。


(シズルさん……やけに気前がいいと思ったけど……ワタシの為に……)


「ラナ! どうするんだ!? これシュウシュウつかないぞ!?」


「とりあえず、今は無理です。何かに注目させて、意識をそらせた時に回収しましょう!」


「なんと。ワリとレイセイでビックリ。ナニか……シュウイをケンサク」


 慌てていないラナにぎょっとしながらもメテットは怠惰亭の周囲で役に立つものがないか感知能力で調べ始める。


「ケンサク――」


 その際に岩、針葉樹などの他に井戸や幾つかの家の残骸等、人が住んでいたらしい痕跡を発見する。


(モトモトはムラだったのか? しかしヤクにタつようなモノはナい。ホカに——)


 すると、メテットは靄の中、動く物を感知する。


「ケンサ――えっ」


「ロウソク……?」


 メテットの漏らした言葉にラナの心臓は跳ね上がる。

 実際、いつ遭遇してもおかしくはなかった。それらは儀式のため、奴らは西へ東へ贄を探し求めていたのだから。


(でも、でもそんな、だからって――)


「どこ!? どこにいるの!? メテットさん!!」


 メテットに迫るラナ。


「マて、マつんだオちツいて! ラナ」


 そんなラナをメテットはなだめようとする

 しかし、落ち着いていられるわけがない。

 ラナは自分でその存在を探し始める。

 ラナは辺りを注意深く見回す。

 そして、遂に見つけ出した。その姿を。


「あ、」



  ロウソク頭の騎士の姿を。

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