第4話 ラナの過去
シズルとラナは自分の魔力で己の体を修復していく。
二人にあった火傷痕はなくなっていったが、
「左眼まわり、火傷痕が残ってしまったわね」
ラナの左眼だけはどうしても直らなかった。
「さて……改めて教えてくれないかしら。貴方に何が起こったの?」
シズルの問いにラナはゆっくりと口を開いた。
「……ワタシはお父さ……父と一緒に旅をしていました。」
「父? さっきも聞いていたけど、魔物も子を持つことが出来るのね」
「あっそこからですか……はい。魔物でも単為生殖をしたり、分裂したり、泥などの物質を魔力で自分の子に変えたりすることで子供を作ることが出来るんです」
「分裂……ラナはどうやって生まれたの?」
「父のむしった髪の毛から父の魔力で……」
「かみのけ? ……えっ髪!?」
(髪の毛からこんな女の子が!? 魔物って凄い……いや、怖いわね。)
「いきなり話の腰を折ってごめんなさい。続きをお願いするわ」
「わかりました。私と父は世界がこうなった原因…… “黄金の夜明け”について調べていたのです」
「……あの光について……」
「私も様々なことを教えてもらいました。父は何十年もかけて旅をして調べてて……そして、夜明けの正体にまであと一歩、というところまで来ていたのです」
「……それは、また」
(この世界で、何十年も追い求めた目的までもう少しで手が届く。これで浮足立たないわけがない)
ラナの父親は襲撃者にしてみれば格好の獲物に見えたに違いない。
「そして、その正体を探ろうとしたとき、ワタシたちは襲われました。ロウソクの頭の騎士たちに」
「ロウソク頭の……騎士?」
「見た目は本当にそんな感じでした。鎧をつけて剣を持っていて…本物の軍隊なのかは分かりませんが、たくさんいて囲まれたのです」
「たった二人に、寄ってたかって……? そのうちの一人は子供だというのに、許せない」
シズルは静かな怒りを見せる。
「そもそもなぜそいつらは襲ったの? 何か金目のものでも持っていたの? この世界ではそんなの意味を持たないでしょうけど」
「いえ……彼らが欲したのは、ワタシたちそのものでした」
「あなたたち……そのもの?」
「はい。私もよくわかりませんが、彼らはワタシたちを使って」
「太陽を生み出そうとしているそうです」
「……はぁ?」
シズルはラナの言葉に耳を疑った。
(太陽を? 確かにすごい火力だったけど……あれで太陽なんて作れるものなの?)
魔物が作ろうとしているのだから普通の太陽ではないのだろうが、太陽は別に消え去ったわけでもない。すでにあるものをどうして生み出そうとするのか。
なんにせよ、まともな魔物ではない。
「……そして、ワタシは儀式によってこの燃える体になりました。本当ならあの時に燃え尽きているはずでした。今ここにいられるのは、父が助けてくれたから……」
「……お父さんが……一人で……ワタシは……」
ラナの右目からぽろぽろと今度は炎ではなく涙がこぼれた。
話していくうちにそれは溢れていった。
シズルはただじっとその様子を見ていたがラナが少し落ち着いてから
「ラナ」
「すいませっ……ワタシは……」
「ワタシ一人じゃ何も出来なかった。ただただ足手まといになって……! 自分が、情けない……!」
「違うわラナ。それじゃ駄目よ」
シズルの言葉に顔をあげるラナ。
「……駄目って?」
「自分を必要以上にに卑下しすぎよ。その調子じゃ何も始まらないわ。」
シズルはラナにある提案をした。
「ラナ。こういう時は復讐よ」
「……復、讐?」
予想だにしていなかった提案に思わずラナは聞き返す。
「ええ。怒りの灯を絶やさず、追い詰めて、最後にすべてをぶつける。そうやって復讐してやるの」
「でも、復讐なんて」
「ラナはこのままずっと自分の中にある業火に、そしてその襲ってきたやつを怖がってこのまま生きるの?」
「……」
「自分の内側と外側におびえて、それで生きていけると思う?」
「……できません」
「でしょう。なら」
「でも、復讐もできません。あなたが言う通り、彼らが怖くてたまらないのです。もう一度彼らの前になんて……」
「……」
ラナは下を向いてシズルの顔を見なかった。なんとなく意気地のない自分に怒っているのではないかと思って顔を見るのが怖かったからだ。
「……ラナ。顔をあげて? 無理もないわ。恐ろしい目にたくさんあってきたものね」
「シズルさん……」
その声はラナの予想に反して慈愛に満ちた声だった。その声を聞いてラナは顔を上げた。
「今貴方の中に恐怖が渦巻いている。襲撃者の影が貴方の瞼の裏側に焼き付いているのね。それが貴方の復讐の道を隠しているのね」
「シズルさん……?」
「任せて、ラナ。」
「もっと恐ろしいモノその目に焼き付けてあげる」
「シズルさん……!?」
(い、今までで一番怖い笑顔……!)
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