落花生



もふもふと昼飯を食べ

激烈な睡魔すいま来襲らいしゅうに屈する昼下がり。


ちょっとだけと

そのまま床に転がって。

気持ちよく目覚め、立ち上がろうとした。


ぐは!


膝をついたら

割った落花生の殻がっ!

殻があー!

割れたギザギザがあー!


ぐおぅ・・・痛いぞう!


あるある。

たまにある。


寝起きの想定外で

やたら痛い。


遊び場から ちょっと離れた位置で

もふもふからも見える位置だ。



ニンゲンが寝てると

遊んでもくれない。

話もできない。

観たいモノも観れない。

つまらない!


起こすつもりで落花生を投げて音を立てる。

この距離で落花生が届くのは一人だけだ。

起きない。

落花生を誰かが拾う。

ついでに、寝ているニンゲンを見ながら

ポリポリポリポリ。

割った殻を忘れて帰ったようだ。


切れた膝から血がにじみ、

それを見たモルモットの

サイレンのような鳴き声が止まらない。

「たいへんだー!」の時の声で、

ハムスター組にも緊張が走る。


急いで消毒し絆創膏を貼る。


モルモットを抱えてなだめて

全員の前で 痛くないアピール。

平気だと膝を見せると

代わる代わるに ちゅーしまくる。

モルモットが

哀しそうな声で

足におでこを擦りすりつけてくる。


こんなに心配されて、

幸せになったから もう痛くないよ。


「心配してくれて ありがとう」


もう元気になったよ。


遊び場の皿におやつを盛る。

「いただきます」の挨拶あいさつをしながら

みんな楽しそうにおやつを食べているなか


一人足りない。


来ていない仔は

落花生の殻を忘れた仔なんだろう。

その仔の個室ゲージ。

様子を見に来た仔が

寝床の前におやつを置いていた。


人一倍食いしん坊が

おやつにも来ない。


名前を呼んでも返事がないので

寝床の屋根を剥がす。

隅っこで小さくなっている。

苦悩の表情で

ボロボロ涙を流していた。


「怒ってないよー

 痛くないよー」


迎えに来てもらって

抱っこされて

嬉しくなって また涙が零れる。


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もふもふたちは

いつも楽しく暮らしているけれど

ちょっとしたことで不安になる。


なにか失敗すると

愛してもらえなくなる、と思っているようだ。

些細なことで捨てられるんじゃないかと怯える。


ショップで出会って

「うちの仔」になってもらった仔などは

ショップに返されるのを一番恐れる。

家に来て毎日楽しくて舞い上がっているうちに

数日から一週間ほど経つと

必ず夜中にうなされて悲鳴を上げて飛び起きるのだ。

例外はない。


ニンゲンにとっては小さな傷ではあっても

「血」が出た。

もふもふたちには大事件だった。

落花生の殻を忘れた仔は

人生もふせい最大最悪の心境だったろう。

もうダメだ、と絶望し嘆き悲しんだ。



愛はなくならない。

何度でも言う。


結果的に「噛む」ことになって

指先の肉が裂けて大流血になったこともある。

よくある ただの事故だ。

その仔は決して噛んでいない。

ニンゲンの方がなにか失敗している。


ニンゲンが

その仔に「」して

うちの仔にのに。

愛が失われる余地がどこにあると?


その存在。

その全てがいとおしいだけ。


君は愛されるためにいるんだよ。


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落花生の殻を忘れた仔が

気を取り直してくれるまで。

みんなとおやつを食べるようになるまで。

抱っこで撫でて。


ちょっと特別に思えたのだろう。

他の仔たちの「抱っこして」の熱望により

もふもふまみれとなった。

ああ、もふもふに溺愛されてる。


もふもふ、ぎゅーぎゅー。


顔もさんざん ちゅーされ、舐め舐めされて

ヨダレまみれ。

ベッタベタ。


情熱と興奮冷めやらぬ仔たちの前に

帰宅した家の者が襲撃されたのは

言うまでもなかった。


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