第72話未来へ~自警団長side~

 男爵が国を出た。

 元国王だろ!?

 いいのか!?


 役人監視人は「彼がいない方が何かとはかどる事は確かだ」とか言っていた。……何をするのかは聞かなかった。藪蛇な気がする。

 役人監視人の言うところ「彼の存在は新政府からすると目障りだ」そうだ。まぁ、王家の血を引いていない元国王の存在は何かと危いのだろう。詳しくは聞かなかったが、国外に出した方が良い場合もあるらしい。男爵の留学先は、この国と関係の浅い……ぶっちゃけ地理的に遠い場所にあるから、元国王だとは本人が申告しないかぎりバレないような国だ。

 なんだってそんな国に、と思わずにはいられなかった。


 ただ、これから東方との貿易に力を入れたい帝国の思惑があるらしい。



 あれで負けず嫌いの男爵だ。きっと良い経験になるのだろう、と自分に言い聞かせた俺は悪くない! でも、まさか男爵が五年もの間、一度も国に戻ってこないなんて考えられなかった!そうだろう!?


 母親宛ての手紙には「一人前になるまでは戻らない」なんて書いていたのを、俺はこの目で見た時は「なかなか骨があるな」「まぁ、ほどほどに頑張れよ?」とか思っていたのに!


 男爵、あんた五年も国に戻らずに何してんだよ!そりゃないぜ!!


 意外にマメな性格なのか、それとも送り先が母親だからなのか分からないが、毎月、きちんと手紙を送りつけてくる。しかも長文が! 読むだけでも大変だぞ!?あれは!!そんな手紙を律義に送り続けてくる。読む側の迷惑も考えやがれ!!


 てめぇの母親は良いだろうよ!


 自分の息子の安否が事細かに書かれて今日何があったのかが書かれてあるんだ。母親としては安心出来るだろうよ。それを読むのが母親だけなら、な。検分されている事を考慮してねぇ。それとその手紙の内容を母親から聞かされるのは俺だぞ!?何が悲しくて野郎の自分語りを聞かにゃならん!?


 ……男爵。あんたは自分の母親をもうちょっとは客観的に見ろ。

 親しい人間が一人もいない田舎に来てんだぞ!?

 元側妃、しかも厄介な事情もち。周囲の領地は下位貴族ばかりだ。当たり前だが親しくしたいと考える貴族は一人もいねぇ!

 そうなると話しをする相手なんて屋敷にいる人間だけだ!!

 消去法で俺になるんだよ!!!


 はぁ~~~!と大きく息を吐く。

 疲れた。

 なんだか物凄く疲れた。


 護衛の仕事がこんなに疲れるもんだとは初めて知ったぞ。

 いや、この仕事だけだろ。こんなに疲れるなんて!と、叫びたかったぞ、俺は。まぁ、叫べねぇけどさ。

 はぁ~~っと息を吐く。

 もう、ため息しか出ない状況だ。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る