第70話現実問題~ユリウス元国王(現男爵)side~
新政策は緩やかに国に浸透していった。
国民の混乱がないようにゆっくりと、そして徐々に『国』としての体を成し始めたのだ。それは僕の目から見れば異常な変化と言えたが、帝国側にとっては当たり前の政策だったのだろう。
王政から共和政へのシフトチェンジは大して混乱をもたらさなかったのも緩やかに進んでいたからだと今ならわかる。これが急激な変化であったなら間違いなく大混乱を生じていただろうから『ゆっくり』と移行したのは正解だったのかもしれない。
ゆっくりではあってもその変化は、地方の田舎にある男爵領にいても感じるほど、大きな変化を国民に与えた。
帝国による実質的な支配が『恐怖と不安』から『新しい秩序への喜びと安堵』へと変わっていたのだ――そう感じたのは僕の気のせいではなかった筈だ。
特に国民が喜んだのが税法の改正だろう。
今までは国に全て納める金額とは別に、各領地ごとに決められていた『領税』。これは領主の裁量によって税金として納める額が違うという制度だった。貴族がその税額を決めていた。勿論、領民に負担を強いるような『領税』でない限り王家はそれを認めていた。それでも領民にとっては負担が大きかった。領地を管理する貴族達が『領税』を好きに動かしてきたのだ。嫌な言い方かもしれないが、これは『搾取』に等しかった。領地持ちの貴族の特権だとしても中にはやりすぎだと思える金額のものもあったようだ。表面化していないだけで、領民の怨嗟は確実に蓄積されていた。だが、帝国による税制がそれを大きく変えた。
まず第一は国に収める税金を納める際にその額を決める際『この領の領税として幾ら』という事を領民に伝えるようになった事である。これにより各領主が自由に税額を決めていた『領税』という制度が大きく変わったと言えよう。領主の胸先三寸という、ある意味貴族らしいシステムが『領民の税金を領地別に管理』するという、領民のための公平な税制に変わったと言い換えるべきか。貴族が不正に税を引き上げる事が出来なくなった。
この税法の見直しは領民から歓迎されているようだ。
『暮らしが楽になった』
『生活に必要な分より、税金がかなり少ない』
『今までのように税の取り立てがない』
そんな声に溢れていた。
各領地で領税はかなり引き下げられた。
そのお陰か、民の暮らしは大分良くなった。
余裕のある暮らしは、心に余裕を与えたようだ。
帝国との交流が活発になったのも良かった。
あの国が魔法道具の輸出をしてくれるから、領民の生活に余裕が生まれているようだ。帝国主導で始まった新しい産業。それは数年後には軌道に乗るだろうと言われている。
だが……僕は、素直に喜んでいいものだろうかと悩んでいる。帝国と手を取り合い、その国力に頼るという帝国の戦略。これはこれで間違いではないのかもしれないが、僕は手放しで喜ぶ気には到底なれないでいる。それは自分が出来なかった事を帝国は苦も無く成功させたからなのか?それとも……いや、止めよう……こんな気持ちは無意味だろうに。今は素直に新しい生活を受け入れなければならないのだ。
もう僕は国王ではない。
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